第194話 魔力0の大賢者、ラクナと再会

 ラクナもこの学園に入学していたようだ。それにしても髪型なんかは以前とかわりないけど、体型はかなり変わったな。


 以前はどことなくぽっちゃりしていたけど今は贅肉も減って大分スリムになっている。おかげかより父親のマイルに似てきたようだ。


「ふん。そもそもこんな男が入学出来るのがおかしいというものだ」

「……なんでそんなこと君にわかるの?」

「私がこの男と同じ試験場にいたからだ」


 僕の問いかけにラクナが答えた。試験会場は三つあったらしいけど、ラクナはアズールと一緒だったのか。


「アズールそうだったの?」

「……あぁ。こいつの魔法、一度見て忘れられるかよ」


 オレンジ髪の少女に聞かれてアズールが答えた。悔しそうな口調だ。ラクナはそれほどインパクトのある魔法を使ったのか?


「貴様みたいなゴミに褒められても嬉しくはないな」

「そんな言い方!」

「だが事実だ。お前は何も知らないからそんなことが言える。そのゴミが扱うのは火魔法。実技試験でチラッと見たが初歩的なものでしかなく、実にありふれていてレベルの低いつまらない魔法だった」

「な、なんだと!」


 アズールを見ると眉間に皺を集めてラクナを睨んでいた。自分の魔法を見下すラクナの態度に腹を立てているのだろうね。


 思えばラクナは最初あった時からこんな感じだった。ただそれでも前の方がまだ可愛げがあったと思う。


「だがそれならただの落ちこぼれで済む話だ。問題なのはその後、こいつの魔法を見ていた受験生が絡んだのだ。私からすればどちらもくだらない人間だが――その直後こいつの体が突如発火してな。危うく会場が火事になるところだった」

「――発火?」

「くっ!」


 ラクナがアズールを指差して言い放つ。言われたアズールは悔しそうに呻いていた。


「――それから知った話だが、そいつは火魔法ではそれなりに優秀な男爵家の生まれだったようだな。もっともそのはた迷惑な性質もあって半ば追放状態だったそうだが」


 くくっ、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべるラクナ。アズールのイライラが増しているように思える。


「もういいだろうラクナ」

「黙れ。貴様が私に何をしたのか忘れたとはいわせないぞ」


 ギギギッと歯ぎしりしながら親の仇を見るように睨みつけてくる。


 正直そう言われてもね――確かに魔法勝負をしたこともあったし、彼の親にしてもガーランドとの事もあって結果的に没落した。だけどそれで恨まれるのは筋違いだと思う。


「私はあれから伯父の下で徹底的に鍛え上げられ以前とは比べ物にならない程に成長した。学園に貴様も入ると聞き、私の手で借りを返してやろうと思っていたが、どうやら私と違い貴様は随分と落ちぶれたようだな」


 フンッと鼻を鳴らしガッカリだといった言わんばかりの態度を見せる。


 魔法という点ではそもそも最初から僕は使えていなかったわけだけどね。そういう意味では以前と変わってないつもりだけど、学園の基準でZクラスに入ることになった。でも僕自身はそこまで気にしてはいないんだけどな。


「ま、所詮魔力もない貴様にはそこの落ちこぼれと同じゴミの集まりがピッタリということだ」

「そんな言い方――」

「さっきから聞いてりゃ好き勝手いいやがって! 誰がゴミだこの野郎ーーーーーー!」

 

 アズールが怒りに任せて叫んだ、その瞬間だったボッと彼の全身から炎が吹き出てアズールが火塗れ状態になってしまう。


「ヒッ、あ、熱! ち、畜生また、あちぃいぃぃぃい!」


 するとアズールが悲鳴を上げて地面をゴロゴロと転がり始めた。


 え? 熱い? もしかしてアズール――自分から吹き出た火で熱を感じているの?


「ちょっとあんた危ない!」

「お、おいあいつ急に発火したぞ!」

「何だあれ? どうなってんだ?」

「嫌だこわ~い!」


 周囲も騒々しくなった。入学式の挨拶は外で行われているから周囲に燃え移るものがないのがまだ救いだけどこのままというわけにもいかない。


「フンッ。やはりゴミだな。こんなクズ由緒ある学園にそもそも相応しくない。排除しないとな」


 そうラクナが口にしたかと思えばそのまま詠唱に移行した。


「――大地の怒り、土の審判、集えし岩土、形成せし巨足……」


 詠唱と同時にラクナの足元が震え始めそれが大きく人がっていく。地面の土々が浮かび上がり空中で集まっていき、かと思えば巨大な足に変化した。


 こいつ、まさか――僕は水分を右手に集めラクナに向けて放出した。


「冷た! な、なんだ!」

「あ、アズールの火が!」


 そうこれでアズールの火は消えた。


「ラクナ! もう火は消えた!」

「――潰れろ」


 ラクナに向けて叫んだけど、彼は知ったことかと言わんばかりに魔法を行使。巨大な足がアズールにむけて落とされた。


「う、うわぁああぁああぁあ!」

「やめろォ!」


 巨大な足に向けて声を張り上げた。声をぶつけたんだ。その瞬間岩の足が粉々に砕けてパラパラと地面に降り注がれた。


「い、今のは――」


 見るとアズールが地面にぺたりと座り込み目を丸くさせていた。ラクナの魔法にやられると思ったからか腰が抜けて思うように立てないようでもある。


「……チッ、本当にムカつく奴だ」


 僕が魔法を止めたことを認めたラクナが吐き捨てるように言う。


「――一体どういうつもりだ」

「ハッ、何がだ?」


 僕が問うと、煩わしそうな顔でラクナが反応した。アズールに攻撃を仕掛けたことに対して何も悪いとは思ってないようだ。


「彼の火は既に消えていた。あの状況なら魔法を止めることは出来ただろう」

「…………」


 質問に答えないラクナ。ただニヤリと不敵な笑みは浮かべていた。やっぱりわかっていて敢えてやったのか――


「お、おい今のみたか?」

「あのラクナって奴の魔法も凄かったけど、マゼルだっけ? 魔力もないような奴が何かしたのか?」

「魔法で――砕いた?」

「そんな馬鹿な筈ないわよ。魔力もないのに」


 今のを見ていたからか、また周囲が騒がしくなってきた。ラクナの魔法を止めたのが原因か。ただ声をぶつけて砕いただけだから魔法とは違うんだけどなぁ。


「……それが出来るのがマゼル。まさに伝説の再来」

「うん! マゼルすごいすっご~い」

「マゼルの力なのですありえます!」

「チュ~!」

「全くやってくれるぜマゼルは」

「流石だよね~」

「姫様嬉しそうですね」

「うふふ。これで皆にもきっとわかってもらえます」


 な、何か皆が誇らしげに語ってる。それはそれで気恥ずかしいのだけど――


「やれやれ。何を言い出すかと思えば。今のはラクナが自分で魔法を解除したに過ぎないというのに。そうだろう?」

「……フンッ。好きに解釈したらいい」


 だがリカルドが口を挟む。あの足が砕けたのもまたラクナの力だといいたいようだ。


「な~んだやっぱりそうか」

「そうよね。だって魔力がないんだもの」

「魔力0の無能にあんな真似出来るわけがないぜ」


 そんな声が周囲から聞こえてくる。どうやらリカルドの説明の方が他の生徒にとってもしっくり来たようだ。


「……馬鹿げてるそんな――」

「とは言え、何らかの手で水を用意しマゼルが彼の火を消したのは確かだろう。おかげで大事にならずに済んだ。そこはマゼルの手柄だ理事長として感謝させてもらおう」


 そして――白々しくはあったけどリカルドが僕に笑顔を振りまき感謝を述べてきた。


 抜け目ないな。僕が止めたことをただ否定しただけなら、いつも良くしてくれている皆は納得しない。


 だからアズールの火を消したことについては認めて、自らの口で感謝の言葉を述べた。


 一応は僕を評価する姿勢を見せている以上、一方的に非難は出来ない、そう踏んだのかも知れない。実際口を開きかけていたアイラも口を噤んでいる。


「お、おい理事長が直接お礼を言ったぞ?」

「そんなこともあるんだな」

「でもさぁ。あの話だとマゼルって奴は何か特殊な道具を使って水を出したんだろう?」

「そうね。つまりそういうトリックが得意ってことよ」

「何だやっぱり魔法じゃなくてそういうことなんじゃない」


 リカルドがしてやったりといった顔を見せる。


 皆の反応がこうなることも見据えた上での発言なら、やっぱりこの男食えないね――


「――理事長。結果がどうあれ、ラクナの行為はやり過ぎでは?」


 魔法に関しては実際僕は使ってないわけだからなんとも言えない。ただ幾らなんでもあんな攻撃的な魔法を使う必要はどこにもなかった筈だ。僕の水でも火は消えたわけだし。だからリカルドに問う。


「いやいや、たしかに見た目こそ派手だったが例えあれで踏まれたとしてもこの学園に通える実力が備わっていれば耐えられる程度の物だったであろう」


 それがリカルドの答えだった。このまま反論したところでたらればの話にしかならないか――ラクナの様子を見るにアズールがどうなっても知ったことではないと思ってそうだけどね。


 それにしてもラクナ――リカルドに引き取られて育てられたようだけど随分と尊大な態度を取るようになったものだね……


「さて今のアズールを見てお前たちも少しは理解できたかな? Zクラスというのはこのように魔法の面で致命的な欠点を有している生徒が多い。普通なら不合格にするところであろうが我が学園の新しい方針として可能性を追求するというのがある」

 

 可能性――リカルドの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。


「私はZクラスが最底辺だと言ったが0はある意味可能性の塊と言えるだろう。0は足すことで1にもなれば100にも1万にもなりえる。他のクラスの生徒もぼやぼやしていてはZクラスにいつのまにか抜かれていたなんて可能性もないとは言えないからな。このことを肝に銘じて互いに切磋琢磨してさらなる高みを目指すといい」


 そこまで言った後リカルドがラクナに目を向ける。


「ラクナお前ももう戻れ。あぁそれとさっき今回の試験でSクラス入りとなったのが二人いると言ったがそのもうひとりがこのラクナ。実力に関してはさっきの魔法で十分理解できたと思うがな」

「フンッ。当然だな。それにしても無能のZクラスとはな。これは私が出るまでもなく貴様は終わりだな。アッハッハッハ!」


 そして僕を見て笑い飛ばしながらラクナが元の場所に戻っていった――

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