第193話 魔力0の大賢者、Zクラス行きに?
リカルドによると僕達が入ることになったクラスは新しく新設された最底辺のクラスなようだ。
ZeroからとってZクラスだなんて随分と皮肉がきいてることだね。
「おい、聞いたかよ」
「あぁ。何も期待されていないZeroのZクラスだとよ」
「ぷ~くすくす。何だそれ? そんなの入学したって言えるのかよ?」
「良かった。Fクラスで絶望しかけたけど更に下がいたんだ――」
新しいクラスの説明を受けて周囲から嘲笑する声が囁かれ始めたね――魔法の実力で評価が変わるのは何となく判っていたけど、リカルドが最底辺と語ったおかげで入学式の段階で劣等生のレッテルが貼られ始めている。
「おいおいちょっと待てよ! 何だそれ納得いかねぇぞ!」
Zクラスに決まった僕たちだけどそれに納得がいっていないのかアズールが前に出てリカルドに文句を言った。
「ふむ――確かお前はアズールだったな。それでお前はZクラスなのが気に入らないのか?」
「当然だ。いいか? 俺は将来あの伝説のゼロの大賢者を超える大魔導師になる男だ! そんな俺がZクラスなわけないだろうが!」
思わず僕は頭を抱えたくなった。うぅ、目の前でまさか僕を超えるんて宣言されるなんて――しかも僕のクラスメートになる子だし。
「は? お、おい。今あいつゼロの大賢者を超えるとか言ったか?」
「あぁ。言ったぜ確かに。プププッ」
「ま、マジかよあいつまさかあの年で――」
「ゼロの大賢者なんておとぎ話信じてるのかよ~~~~~~~~!」
「「「「「「「「ギャハハハハハハハハハ!」」」」」」」」
「は?」
するとアズールの宣言を聞いた周囲の生徒たちが馬鹿にしたように笑い出した。アズールも目を丸くさせている。
「おい。これどうなってるんだ?」
「おとぎ話ってそんな……」
「ビロス、凄くもやもやする!」
「……ムカムカする」
「ありえないわ!」
「チュ~!」
クラス分けで別々になった皆の戸惑いの声が聞こえてきた。それにしてもこれは皆の認識と学園に通う他の生徒たちとの認識には齟齬があるように思える。
「やだ~ゼロの大賢者とか超ウケるんですけど~」
「プププッほら笑っちゃ駄目だって――」
「……何がおかしい」
「ヒッ! え? な、なに。そうして怒ってるの?」
あ、アイラが機嫌を損ねてる。アイラは僕が言うのも恥ずかしいけど大賢者に憧れてるってずっと言ってたもんね――
「ハッハッハ。全くお前は随分と夢見がちな男なようだな。おとぎ話の中身を信じ込んで目標にするとは」
そして――改めてリカルドが呆れたようにアズールの宣言を笑い飛ばした。
「ふ、ふざけるな! 俺の暮らした町じゃ皆ゼロの大賢者に憧れを抱いていた! おとぎ話なんかじゃねぇ事実としてな!」
「あぁ。確かにごく一部の国や領地では未だ事実として信じ込まれているようだな。だが少しは現実を見ることだ。大陸全土でもそのような与太話信じているのは極わずかでしかないということにな」
「俺がその一部だというのか!」
「ふむ。そうなるな。だが安心したまえ。世の中にはゼロの大賢者などという話を愚直に信じ込み文字通り魔力0で生まれた息子にあの大賢者と同じ名前を付けて崇めだす変人もいるのだからな」
「それは誰のことを言っているのですか?」
べらべらと得意顔で語るリカルドについ口を挟んでしまった。
正直大賢者だなんて魔法も使えない僕にとっては分不相応な肩書きでしかないし、事実として受け入れられないのも当然と言えば当然と考えられるけど、父様のことを悪く言われる筋合いはない。
「おっとそういえばまさにその魔力ゼロの大賢者の再来らしい人物がここにいるのだったな。そうだろう魔力0のマゼルよ」
「え?」
アズールの驚きの声が僕の耳に届いた。
「マゼル、大賢者と同じ名前だなんて正直生意気な奴だと思ったけどよぉ。お前、そんな風に言われてたのかよ」
「あ、いや。はは……」
どうしよう苦笑いしか出てこないよ。ま、まぁ確かに本人ではあるんだけど。
「おい、今理事長。魔力0って言ってたか?」
「そういえば試験の受付の時に魔力も無いのに受験したいというのが現れてひと悶着あったって聞いてたけど……」
「でも、魔力0なのに試験に受かったのかよ?」
「だからZクラスなんだろう?」
あぁ、リカルドが僕のことに触れたものだから、また周囲が騒がしくなった。参ったな……
「とにかく。父様のことを悪く言うのだけは許さない。取り消してください」
「はは。何かと思えば勘違いしてもらっては困るな。今どき大賢者を信じるなんて変わり者だと言ったまでだ。それは別に悪い意味ではない」
「……だとしてそれなら私も変わり者ということ?」
「俺もそうなるのか?」
「僕もということですね」
「私もありえるのかしら!」
「チュ~!」
「ビロスお前嫌い!」
「皆――」
アイラ、アリエル、ビロス、モブマン、ネガメ、それにファンファンもリカルドに向けて声を上げてくれた。
こういう光景を見ると――仲間がいてくれてよかったなと思えるよ。
「理事長。それですと私やクイスも変わり者だと思われているということでよろしいでしょうか?」
そして、イスナも前に出てリカルドに問いかけた。笑顔だけど、何か、ゴゴゴッと背後が揺らいで見えるよ……クイスの顔がちょっと引きつってるし。
「はは、あははははは。いやはや本当に大したものだなマゼル」
するとリカルドが突如笑い出し今度は急に僕を認めるようなセリフを口にした。
「……突然どういうつもり?」
「別に他意はないさ。この中にも魔力が無いのに何故このマゼルが合格できたのか不思議に思っているのもいることだろう。先ず第一にこのマゼルは一部で妙に信頼がある。魔力0でありながらおとぎ話に出てくるような大賢者の魔法が使えると本気で信じ込まれている」
リカルドが周囲の生徒たちに向けてそう語り始めた。
「そして確かに実技試験においても魔法のようなものを使ってみせた。だが、この者の魔力が0なのも事実――故にそれがなんだかのトリックであった可能性が高いという意見も多かったが、もしかしたら魔法を扱えるかもしれないという可能性もあるため、今回特別に新設されたZクラスの生徒として入学が許可されたのだ。どうだマゼル? ある意味では貴様にぴったりなクラスとも言えるだろう? 私はこれでも期待しているだよ。お前なら魔力が無くてもきっとこれまで誰も目にしたことがないような奇跡を起こせるかも知れないとな」
……全く随分と白々しいことを言うものだね。
「そういうことだ。話は以上だ。これ以上こんなことに時間を割いてはいられないからな」
「ま、待てよ! まだ俺がなんで最底辺のクラスなのか理由を聞いてないぞ!」
リカルドが途中で話を打ち切ろうとした。正直皆が納得出来る答えを示したかは疑問だったけど、何より不満があったのは最初に文句を言ったアズールだったようだ。
「やれやれ。随分としつこい奴だ」
「あぁしつこいぜ。俺は納得いってないんだからな」
「馬鹿が。そんなこともわからんのか」
その時、僕の耳にどこかで聞いたことのあるような声が届いた。
「――やれやれ。ラクナお前まで何だ」
「ふん。それはこっちのセリフだ。こんな連中に長々と酔狂が過ぎるぞ伯父上」
ラクナ――そうだ。あのマイル・ワグナーの子どもの! そうかラクナも学園に……
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