第191話 魔力0の大賢者、クラスメートに目をつけられる?

 ゲズルがその場から離れ僕は残された。特別クラスだと言っていたけど他の新入生とは随分と離れた位置だね。


「お前もこっちの合格者か?」


 最初に僕に声をかけてきたのは赤髪の少年だった。当然年としては今の僕と変わらないんだろうな。野性味あふれる髪型をしていて魔法使いと言うより戦士っぽく見える。


 肉体的にも結構鍛えていそうだし。そんな彼がギロリと僕を睨んできていた。


「お前、名前は?」

「マゼルだよ。君は?」

「ハッ、聞いて戦け。俺はあのゼロの大賢者を超えるであろう大魔導師になる男。アズールだ!」

「ブッ!」


 アズールは自分を指差して大賢者を超えるなんて言い出した。いやいや何でよりによって! 


「お前、さては俺を馬鹿にしてるな?」

「いやいやそんなことないよ!」


 顔を引っ付くぐらい近づけてきて眼力を強めるアズール。驚いた僕の反応が気に入らなかったのかな……


「ちょっとあんた。先生が問題起こすなって言ってたでしょ」

「あん? 俺が何したってんだよ」


 アズールに睨まれていると、彼の背後から負けん気の強そうな声が聞こえてきた。女の子だね。


 オレンジ色の髪を左右に纏めてツインテールにした少女だ。

 

「いきなり絡んでるじゃない。弱い者いじめとか最低よ!」

「よ、弱いもの……」


 ちょっとショック。いや魔法は確かに使えないけど弱そうに見えちゃうんだね……


「あん? ふざけるな俺は弱者をいじめるような奴が大嫌いなんだよ!」

「はは、でも絡んでたよね君?」


 灰色の髪をボブ風に纏めた少年が声をかけてくる。アズールとはどことなく対照的で落ち着いた雰囲気がある。


「俺はただ名前を聞いただけだろうが。ついでに礼儀を教えただけだよ」

「そういうのを絡んでるというのではないのか。全く」


 青髪の少年が肩をすくめた。長身で目つきが鋭い。髪型も含めて見ると狼のような印象を与えるね。


「あ、あの、あのあの、その」

「あん? 何だよテメェは! 言いたいことがあるならハッキリ言えや!」

「ヒッ!」

「ちょっと、すぐに怒鳴らないでよ! 可哀そうじゃない!」


 黒髪の小柄な少女が何かを言いかけたけどアズールに怒鳴られて萎縮しちゃった……そんな彼女を抱き寄せるようにして緑髪の少女が文句を言う。


 波を打ってるような髪型の少女だね。


「…………」


 そしてもう一人、全身包帯だらけの子がこっちを見ているのに気がついた。


 この七人が僕と同じクラスになるクラスメート達なんだね。


『それではこれより入学式の挨拶を始める。生徒諸君は静粛に――』


 会場内に声が響き渡る。どうやら声を響かせる魔導具が使われているようだね。アズールも、チッ、と舌打ちしつつ僕から入学式に意識を移してくれた。


 そして続いて壇上に姿を見せたのはこの学園の理事長――リカルドだった。


『本年度の試験に合格した新入生の諸君には先ずおめでとうと伝えさせてもらおう』


 先端が丸まった道具を使ってリカルドが喋りだした。あれも声を大きくさせる効果があるみたいだ。


「あれが学園都市で使われてるっていう魔導拡声器マイクか」


 アズールが関心を示していた。そうかマイクって言うんだね。僕が転生する前の時代にはなかった物だ。


『さて現在この魔法学園都市は新時代に向けて変革の時を迎えている。故に我が学園においてもこれまでになかった新たな制度を設けさせてもらった。例えば本年度より導入される特別学区がその一つとなる』

「お、俺たちのことか?」

「いや違うでしょ。特別学区は確か才能ある子に目を付けて魔法の指導を行う制度って聞いた気がするし」


 アズールが得意顔になったけど灰色髪の少年が否定して説明してくれた。


 そう、そしてその特別学区に妹のラーサが入れることになったんだけどね……


『そして更に我が学園にとって名誉あることが一つ。それはエルフィン女王国の王女殿下が留学を決めてくれたことだ。知っている者も多いと思うがエルフィン女王国はエルフの女王が治める王国。八大王国の一つであるがこれまでエルフ族が人の学園に通うなど一度も無く――』


 リカルドの話は続いたが、やっぱりイスナやクイスの留学はリカルドにとっては誉れ高いことってことなのか。


「チッ、気に入らねぇな。魔法学園は貴族や平民も関係ない平等な場所じゃなかったのかよ。なのにエルフや王族ってだけでチヤホヤしやがって」

「う~ん確かに留学生で試験も免除されたってなるとちょっと不平等に思えるわね」


 アズールが愚痴るように言った。それに倣うように緑髪の少女が目を細める。


 するとリカルドがジロリとこちらに目を向けてきた。


『諸君の中にはエルフだからと王女だからと試験もなしに入学できるなど不公平ではないかと思うものもいるかもしれない』


 そしてアズールに当てつけるようにリカルドがそんなことを語りだした。


『だが当然我々はただ相手がエルフだからと王国の姫だからと無条件で留学を認めたわけではない。私が直に会いに向かいその力も確認している。そもそもエルフ族は我々人とは魔法形態そのものも大きく異る。エルフが得意とする精霊魔法は人で扱えるものはほぼいない。その上留学を決めて頂いたイスナ殿下は長寿のエルフ族として見ればまだまだ若いが、にも関わらず既に精霊王を使役できる力を有している』


 リカルドの発言に会場がわざついた。精霊王――リカルドの言うように精霊はとても繊細でそう簡単に心を開かない。エルフが精霊を扱えるのは長寿であることもそうだけど自然崇拝者で精霊との関わり合いが深いからだ。


 だけどそんなエルフでも精霊の上位に当たる精霊王を使役出来るものは殆どいないとされてるからね。


『王女殿下の実力は勿論だが付き人として同行しているクイスも精霊剣という特殊な魔法を扱う。つまり二人とも実力としては十分。勿論知識の面でも申し分なく学園に通うに十分過ぎる物であった』


 そこまで語った後リカルドはマイクを握る手を強めて生徒全体を見下ろし続ける。


『今の話を聞けば多くのものが納得すると思っているがそれでもなお不満がある者がいるなら――今すぐこの場から立ち去るがいい。そのような浅い考えしか持たぬ凡庸な人間など我が学園は必要としていないからな』


 リカルドがはっきりと言い放つ。確かにイスナやクイスの実力が確かなのはわかる。


 だけど――やっぱりリカルドのどこか人を見下したような高圧的な態度はあまり好きになれないかな……

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