第189話 魔力0の大賢者、試験に落ちる!?
「マゼルが落ちるなんてあり得ないわ! 断固抗議します!」
「チュ~!」
「アリエル!」
驚いたことに声を上げて近づいてきたのは僕が暮らすマナール王国の王女アリエルだった。
「誰~?」
そしてビロスが小首を傾げて聞いてきた。そうかビロスは直接の面識はないもんね。
「……アリエル・マナール・ロンダルキア殿下。私達の暮らす王国のお姫様」
ビロスに答えるようにアイラが呟いた。聞いていたイスナが目を丸くさせる。
「まぁこの御方が」
「お、おいおいまさか姫様に呼びかけられるなんて……」
「えぇ。だけどモブマン。マゼルはかつて国の危機を救ったとして大賢者勲章を受領しているわけですから、お知り合いでもおかしくないのですよ」
ネガメが眼鏡をクイクイっとさせながらモブ万に教えていた。
その大賢者勲章は正直恥ずかしい思いもあるのだけど……勿論光栄ではあるのだけどその大賢者ってまさしく自分のことだからね……
そして近づいていたアリエルにイスナが挨拶する。
「お初にお目にかかります。私はエルフィン女王国から留学生としてこの魔法学園に通う予定のイスナ。隣にいるのは私の親友で一緒に学園に通うこととなったクイスです」
「語弊があります。私はあくまで姫の護衛として陪従しているに過ぎませんので」
「もうそういうところが硬いんだから」
イスナが苦笑いを見せる。クイスは騎士っぽい雰囲気を感じるね。でもイスナを大事に思っているのはよく伝わってくる。
「むむ、貴方が噂のエルフの姫様……会えたことをとても光栄に思うわ。ありえるわね!」
「チュ~!」
アリエルがそう言ってファンファンと一緒に挨拶を返した。
「ところでここにいるってことはもしかしてアリエルも?」
「そう! 私も魔法学園の試験を受けたの。そして合格出来たわ。だから私が合格出来てマゼルが不合格なんてありえないわ! ありえないわ!」
「チュ~!」
アリエルがありえないを二回繰り返した。ファンファンも抗議するように鳴いている。
「その気持ちは私も一緒です」
「……勿論私も。だから抗議しに行く!」
「いい手ね。ありえるわ!」
「チュ~!」
「えぇ!?」
アイラが握りこぶしを作ってとんでもないことを言い出したよ! いやいや流石にそれは……そんなことしたらせっかく合格出来た皆にも影響があるかもしれないし。
「はは。いい手だね。僕もマゼルが不合格だというのは納得行かないし付き合うよ。なんなら暴れちゃおうかな♪」
「いやいや暴れるのは駄目だってば!」
話を聞いていたアダムもとんでもないことを口にした。
「だけど俺も納得出来ないしな。俺たちが合格できたのもマゼルのおかげなわけだし」
「はい。それに実技であれだけの魔法を見せたマゼルが不合格というのはやはり無理があります」
「ビロスも行くー! 文句言う! 暴れる!」
いやいや! ビロスも、だから暴れちゃ駄目だって!
「みんな少し落ち着いて。確かに残念だけど、落ちてしまった以上仕方ないし……」
「……そんなことない絶対にこれはおかしい」
「そうだぜマゼル」
「僕も納得出来ません」
「凄い魔法が使えるのに落ちるなんてありえないわ!」
「チュ~!」
「はい。私も皆さんを支持します!」
「姫様が言われるなら。それに確かに時の大賢者が不合格というのはおかしな話でしょう」
「あ、いや……」
「あはは。これは面白くなりそうだねマゼル」
あぁ何かアダムも一緒になってむしろこの状況を楽しんでいるようにも視えてしまう。
でもやっぱり僕が魔法を使えないというのもあるし、色々気になることもあったから試験を受けるのを決めたけどやっぱり――
『受験者の皆様。ここで一つ大事なお知らせがあります。特に今自分の番号が合格者一覧になかったというかた。まだ帰らずこちらにおこしください――』
僕がどうしようか迷っていると、学園側からの声が周囲に受験者たちに届いた。
『本年度より特別クラスが新設されることとなりました。新設クラスの合格発表はこちらの掲示板で行っています。ですので帰る前に一度確認をお願い致します!』
え? 新設クラス?
「――!? マゼル! 見に行く!」
「おお! 特別クラスだってよ! これはもしかしたらもしかするぞ!」
「マゼル見に行く~」
「行きましょうマゼル!」
「マゼルが特別……ありえるの!」
「チュ~!」
「あはは。マゼル良かったね」
「きっとそちらに番号がある筈です!」
「マゼル様。あちらに見えるのがそれのようですよ」
「う、うん」
僕は皆に急かされる形で新設クラスの合格番号を見に行った。
まさかとは思ったけど――
「――あった。番号があったよ皆!」
「おお! やったぜマゼル!」
「えぇ。なにせ特別ですからね。やはりマゼルは普通とは違うクラスになるのですよきっと」
「流石マゼル! ありえるわね!」
「チュ~!」
「……見たところ合格者は八人しかいない」
皆も喜んでくれた。そしてアイラの言う通り、確かに僕の番号以外には七人分しかなかったから僕を入れると八人ということになる。
「おお! 受かってた! 受かってたぞ!」
「…………」
「や、やったの? 私?」
「まさか合格できるとはな……」
周囲では僕のように掲示板の前にやってきて喜んでいる人たちがいたよ。どうやらこの七人の誰かのようだけど、無かった、と落ち込んでる人もいた。
「マゼルやった! ビロスと一緒!」
「うん。これで僕もマゼルと一緒だね」
ビロスとアダムも一緒になって僕の合格を祝ってくれた。
「姫様? どうかされましたか?」
そして――クイスがイスナに不思議そうに語りかけていた。イスナがどこか難しい顔をしていたからかもしれないよ。
「……マゼル様が合格できたことは当然ですし私も嬉しい――ですが、何でしょう? 特別と言う割に他の掲示板よりもなんというか――」
イスナが形の良い眉を顰めた。言いたいことはわからなくもない。なにせ場所もまるで追いやられたようにさっきまで見ていた掲示板から離れていたし、それに木製だけどちょっと風が吹いただけで壊れそうなほどぼろぼろな代物だった。
勿論それでも合格には変わりないんだろうけど――特別クラスか……一体どんなところなんだろうか?
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