第187話 魔力0の大賢者、師匠とあんなことやこんなことに!
ヒサン商会に諦めさせて皆へ師匠の紹介も終わった後、師匠は、またね~、と言い残して宿を出ていってしまった。
師匠いわくちょっと用事があるとのことだった。そして結局その日師匠とはそれっきりだった。
正確には夜には戻ってきたんだけど酔っ払ってごきげんだった。匂いと気配で察したけど酔った師匠に下手に話しかけると絡まれそうだから止めておいた。少し酒癖が悪いんだよねぇ。
というわけで明日の発表に備えて僕も早めに寝たのだけど――朝目覚めると何かに包み込まれているような感覚に陥った。
「えっとこれって?」
瞼をこすってよく見てみると――師匠の顔があった。師匠は僕を抱きしめるようにしてすやすやと寝ていた。
「て! どうして師匠がーー!」
「う~ん? あれれ~マゼルどうして私のベッドに? あ、さては」
「さてはじゃない! ここ僕の部屋、師匠の部屋チガウ!」
う~ん? と師匠が起き上がり左右を見る。シーツがパサリと落ちると師匠の白い肌が、は、肌が――
「て! どうして裸なんですかぁああああ!」
思わず手で目を隠して叫んだ。何してるの師匠!
「ん? あ、いっけね。酔っ払っててつい。テヘペロ」
「テヘペロじゃないです! いいから服を着て! 部屋に戻って!」
あいからわずおちゃらけてるし! 見た目は昔と変わってないんだからもっと羞恥心を持ってよ!
「えぇ。そんな恥ずかしがらなくてもいくな~い? 私とマゼルの仲なんだし~」
「師匠はもっと恥じらいを持ってください!」
「あれ? もしかしてマゼル興奮してる?」
「し、してない! いいから先ず服着て!」
ツンツンっと僕の顔を突いている暇があるなら早く動いて欲しいよ! もしこんなの皆に見られたら――
――コンコン。
「……マゼル起きてる?」
「たまには俺たちが迎えに来ようと思って早めにきたぜマゼル」
「マゼル様。一緒に結果を見に行きましょう♪」
「姫様は結果も何もありませんがどうしてもマゼル様と行きたいと申されてまして」
「ふむ。しかしマゼルの反応がありませんね?」
て、来ちゃったよーーーー!
「あ、昨日のみ――」
「師匠ちょっと黙ってて!」
「むごっ! むごぉむごぉ?」
声を上げる師匠に思わずシーツを掛けて口を塞いじゃったよ。とにかく先ず僕が部屋を出てその後師匠に出てもらって――
「あ、鍵開いてるよ~! マゼル~!」
「……ビロスいきなり入っちゃ――」
だけど、ガチャっとドアが開き中に日ロスが入ってきた! そしてビロスを追いかけるように皆も――
「……ん?」
「え? その人昨日のエルフさん?」
「あ、あのスーメリア先生と大賢者マゼルが同衾!」
「あ~~~~! ずる~い! ビロスもマゼルと寝たーい!」
「…………」
「い、いけない姫様! 落ち着いて! 呼吸を落ち着かせて!」
皆の目が点にしかもよりによって僕が師匠の口を塞いでいる時に間が悪すぎる!
「ぷはぁ! もうマゼルっては本当強引なんだから~でもそんなマゼルも嫌いじゃないんだぜ」
僕の手から逃れるようにして息を吐き出す師匠。そしてハラリとシーツの落ちる音が聞こえた。師匠を振り返れないけど、皆の! 特にアイラとイスナの目が怖いよ!
「うふふふふ。マゼル様、これはどういうことなのかしら?」
「……説明求む。今すぐ」
「あ、あははは――」
この後皆の誤解を解くのにめちゃめちゃ時間掛かった。師匠がまた余計なことを言ったりしたおかげでね!
「……まぁ何だ大変だなお前も」
「うぅ……」
食堂でへとへとになった僕を見てラシルが同情してくれた。結局師匠はかき回すだけかき回して先に出ていっちゃうし――
「話はわかりました。私は信じてましたよ。まさか大賢者マゼル様ともあろう御方が学園の試験結果が発表される直前に女性を部屋に連れ込んでそのような不健全な、真似をするわけがないと、はいそれはもう信じておりましたから」
う、うぅ。信じてると言ってくれてるけど何故か空気が重い。特にイスナからズゴゴゴゴゴゴッ、という音が聞こえてきそうな圧を感じる。
「……鍵を開けて部屋に入り込むとは油断出来ない」
じぃ~っとこっちを見ながらアイラが言う。確かに鍵は掛けていたけど師匠からすれば鍵を開けるぐらいどうということはないのだろう。趣味で盗賊の技術も極めた人だし。
僕が部屋にいる時は氣による細工もしてなかったしね。敵意ある相手なら気配で気づけたけど師匠にそんなものあるわけないし……
「ま、まぁ俺だって信じてたぜ。まさかマゼルが先におとなになるとは思ってなかったしな」
「精神的には既に大人なのですけどね。そっちの階段はまだで良かったです」
モブマンが苦笑しネガメは眼鏡を直しながらうんうんと頷いた。
うん、実はもう大人を通り越しているんだけどね。まぁ前世でもそっちの階段は昇れなかったけど!
「ビロスも今度一緒に寝る!」
「ビロスちゃん。一度一緒にお話しませんか?」
「姫様。抑えてください」
何故だろう。クイスの表情が引きつっている。
「あ、そろそろ時間だね。行かなきゃ」
「あ、確かにそうだな」
ふと時計を見ると発表が掲示される時間が近づいているのに気がついた。
魔導学園は午前中に発表があって合格していたらそのまま入学手続きに入るんだよね。寮もその時に決まるからこの宿に泊まるのも昨晩までだったんだ。
「世話になったな坊主。寮に入るらしいが気が向いたらまたいつでも遊びに来てくれよ」
「温泉に入るだけでもいいからね」
ラシルとシリスは外まで出て見送ってくれた。宿は盛況みたいだしそれにあのヒサン商会は色々と悪事がバレて捕まったらしい。
ただ、風のうわさだと自分たちは絶対に捕まるわけがないなにかの間違いだと言っているようだね。
同時に上から見放されたという声も聞こえてるらしいけど……ま、悪いことしたんだから捕まって罰を受けるのは仕方ないね。
さ、発表を見に行こう!
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