第186話 魔力0の大賢者、師匠にたじたじ
「はっはっは! バレちゃったようだね。フフフッ、まいったな目立ちたくないんだけどなぁ」
目立ってますよ。もう師匠自ら前に出ちゃってますよ。
「そう! この私が放浪のエルフ作家スーメリアなのさ!」
バーンと擬音付きで師匠が言い放った。なんという精霊の無駄遣い……
「……驚いた。大賢者マゼルの本程じゃないけどこの世で二番目に売れた本として有名」
「それは勿論あの大賢者マゼル様の偉業を私が、ごほん。その、書き記した書物がこの世で一番なのは間違いないでしょうが、二番でも凄いですから」
「ふむ。確かに大賢者マゼルに関する本であれば見てない方が珍しい程であるからな。一方スーメリアの本は一般大衆向けではあり愛好者は比較的若い層が多いと聞く」
「まぁやっぱ大賢者の本の方が俺も馴染みがあるな」
「それはもう。伝説とされた大賢者ですからね。その生まれかわりとされるマゼルも凄いのだけど」
何で師匠の話になってるのに僕の話題に! 大体その本僕が知らない間に出来た本だから。そして、師匠、どうしてライバルを見るような目で僕を!
「ふ、フフフッ。まぁ仕方ないね。私は寛容だから弟子に花を持たせてあげるとしようかな」
「弟子?」
「……何のこと?」
皆が小首をかしげてるよ! あぁもう!
『師匠! あまりそっちに話題が向かないように気をつけてください』
『こいつ、直接脳内に!』
『念話ですよ。師匠が教えてくれたんじゃないですか!』
『ハハッ、確かに教えたけど魔法なしで出来るんだから本当大したもんだ。でも、本については負けたと思ってないからね! 二位じゃ駄目なんですか二位じゃ!』
『何の話!?』
相変わらず師匠は突拍子もないよ。
『それよりスーメリアって……』
『あぁペンネームみたいなもんさ。まぁ私も結構長生きだからね。だから素性を誤魔化すために名前を変えたりはよくあるのさぁ』
あぁ、なるほど。なにせ師匠は僕が生まれるより前から活動しているからね。ハイエルフというのはそういうものらしいけど、師匠は長生きという理由で追いかけ回されたりするのは面倒だって話していたっけ。
だからこそ旅が好きだったんだろうね。その上で名前を変えて上手くやってきたということか。
「マゼル~どうしたの?」
「あ、いや、何でもないよ!」
つい念話で話し込んでしまった。ビロスが不思議そうに声をかけてきた。いけないいけない。
「……とにかくマゼルとの関係はわかった」
「はい。そのような凄い方とお知り合いとは流石マゼル様です。ですが本当にそれだけのお知り合いでしょうか? うふふ……」
「姫様笑顔が怖いです」
クイスの顔がひきつってるよ。な、何かイスナの師匠を見る目が気にならないでもないけど、とは言え僕にも気になることはある。
「でもどうしてスーメリア様がここに?」
「チッチッチッ。様なんて私達の間にそんな堅苦しい言い方はなしだぜ。皆も気軽にスーちゃんって呼んでくれていいからね」
ピカーンっとエフェクトを出してそんなこと言ってきたけどスーちゃんって師匠……少し年を――
「何か今失礼なことを思ったかなぁ~?」
「おもってまひぇん」
師匠にほっぺをつねられた。年に関しては敏感だよね……
「それであの、どうしてこちらに?」
「あはは~それね~うん。な・い・し・ょ♪」
指で目の部分を挟むようにしてポーズを付けて師匠が答えた。うん、こういう人だったね。聞くだけ野暮だった。
「ところでマゼルと皆もこの時期にここにいるってことは――学園への入学希望者かな?」
「……はい。私達は魔法学園の入学試験を受けに来た」
「姫様は留学生扱いなので試験は免除されている」
「ですのでマゼル様と一緒に学園に通うことになります」
「あはは。まだ結果が出てないからね~」
イスナはこう言ってるけど落ちてるってこともあるわけだし……
「マゼルが落ちてるなんてないよ! もし落ちてたらビロスも落ちる~!」
「えぇ!」
ビロスがとんでもないことを! いやいや受かったなら通った方がいいと思うよ~
「まぁ実際その心配はないよな」
「僕たちの方が不安なぐらいですし」
な、何故か僕の合格が既定路線みたいな話に! いや本当。そもそも魔法がね……
「あっはっは。どちらにせよ、それなら近い内にわかるかもね。ウフフッ――」
そして最後に師匠が不敵な笑みを零していた。エフェクトでそれっぽい雰囲気まで出してね。
全く師匠ときたら……でも近い内にって――
◇◆◇
「ワグナー理事長ちょっといいかな~?」
「うん? 何だいゲシュタル教授」
「受験の結果についてね。僕は間違いなく彼を推した筈なんだけどね~この結果はどういうことなのかな?」
「何だそのことか。別に他意はないさ。君の意見も参考にし彼の能力を最大限考慮し総合的に判断したまでだ」
「……総合的にねぇ」
「不満かな? だけどこれでも私は随分と気を遣ったつもりなのだよ。教師の中には快く思っていないのも多いようだからな」
「一番は貴方では?」
「はは、何を馬鹿な。私は常に平等な目で見ている。さて話がそれだけならもう行かせてもらうよ。君も自分の研究に専念したまえ」
「待ってください」
「まだ何かあるのか?」
「えぇ。この件は仕方ないから飲み込んで上げますよ。だけどその代わり僕のお願いを一つ聞いてくれないかな――」
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