第185話 魔力0の大賢者、師匠を紹介

 権利書は取り返しヒサン商会の連中が逃げていった。とりあえずこれでこの宿も無事で済んだわけだ。


「あんた、本当にありがとうね。ここが火事にあってから不運続きだけったけど、これでようやく元の生活に戻れる気がするよ」

 

 ジリスに涙ながらにお礼を言われた。改めてあのときは本当に済まなかったなんて謝罪もされてしまった。勿論僕も気にしてないと伝えたけど。


「それに今回は皆の力があったからこそです。僕は大したことしてないですから」

「……そんなことない。目にも止まらぬ早さで権利書を取り戻した」

「確かにあれはさすがでしたね」

「マゼルすっご~い!」


 皆は僕を褒めてくれるけど、でも本当今回は皆と後は師匠のおかげだね。


「……でもこのまま逃して良かった? 今の話だと多分ここに火をつけたというのもあいつら。借金だってあいつらのせい」


 アイラが眉を寄せて気になっていたであろうことを話す。確かに僕もそこはうっかりしていたかな……


「あはは。それなら問題ないさ。精霊は素直であると同時に意外と執念深いのもいるもんだからねぇ~」


 師匠がそう言って笑っていた。そういえば途中で精霊が何体か外に出ていたような――






◇◆◇

sideヒサン


 くそ、あの連中この私をコケにしやがって! 絶対に許しちゃおけないよ! 


 それにしても元々はあのマゼルって餓鬼を嵌めるだけで大金が稼げる楽な仕事だったってのにどうしてこんな。


「お頭どうするんですかい?」

「ふん。こうなったらあの餓鬼や仲間に目にもの見せてやるさ。あいつらの顔はしっかり覚えたからねぇ。この街で長年金貸しやって何人も破滅に追い込んだこの私を舐めたことを一生後悔させてやるさ」


 とにかく一旦店に戻ってから作戦を練らないとね。さてそろそろ店が見えてきたって、あれ? 何だいあいつら。衛兵が何でうちの店に?


「こりゃ一体どういうことだい」

「……お前がヒサン商会の長。ヒサンだな?」


 私に気がついた衛兵の一人が近づいてきて聞いてきたよ。何だってんだい一体。随分と物々しいね。


「そうだけど一体何なのさ」

「我々の詰所にこんなものが置かれていてな。色々と話を聞かせてもらっていいかな?」

「こんなのって、ヒェええぇええぇえええぇええぇえッ!?」


 衛兵が見せてきたのはしっかり金庫に隠していた裏帳簿だった。いやそれだけじゃない高利で金貸した連中のリストまで一緒にそれ以外にもうちらがやってきた違法物の密売なんかの証拠も全部もってやがるよ!


「ど、どうしてそんなものを! 一体どうなってるんだい!」

「そんなことは知らんが。身に覚えはあるようだな。そっちの連中も含めてきっちり取り調べさせて貰うぞ」

「暫く戻れると思わないことだな」

「か、頭ぁ!」

「く、くそ、ちっくしょーー! 間違いよ、これは何かの間違いだよぉおぉぉお!」






◇◆◇


「ま、この宿はもう問題ないさぁ。精霊にも懐かれて今後は幸運が続くはずだよ。勿論精霊を裏切ったりしなければだけどね」


 パチンッとウィンクして師匠がジリスとラシルの二人に伝えていた。師匠は飄々としているところもあるけどいい加減なことは言わないから安心だね。


「……それを聞いて安心。だけどマゼル――結局その人は?」

「わ、私も気になります!」

「ふむ。見たところ私達と同じエルフなようですしね」


 あ、やっぱりそこは気になってたんだね。


「……それにマゼルとお知り合い。何故マゼルの前にはこんなに――とにかく教えて欲しい」

「えっえっとそれは。そうししょ、じゃなかったこの方は幼い頃にローランの森で出会ったんだ。精霊について詳しかったから色々聞いていたんだよ!」

「へぇ、こんな美人なエルフがこっちまで来てたのか。クッ! 知ってれば結婚申し込んだのに!」


 モブマンが悔しがった。いや、本当そういうところアグレッシブだよねぇ。


「そうだったのですか。私だって本当はもっと早くあいたかったのに……」


 あれ、何かイスナがブツブツ呟いてるけどどうしたのかな?


「フッフッフッ。そうなのさ。マゼルとはその頃からのただならぬ仲なんだよねぇ」

「た、ただならぬ」

「……どういうこと?」

「ただならぬぅ?」

「し、師匠何デタラメいってるんですか!」


 またとんでもないことを! こういうところが本当変わらない!


「うん? 師匠ですか?」

「あ、いやだから僕にとって精霊のことを教えてくれた師匠も同然のエルフさんだから!」


 ネガメが目を光らせて聞いていた。うぅついうっかり!


「……マゼルが師匠と崇めるなんて驚き。名前をお聞きしても?」

「あはは。よくぞ聞いてくれたね! 私は世界を股に入れて旅する放浪のエルフ!」

「股にかけてですよね!」


 とんでもない間違いだよ!


「その名もスーメリアさ! よろしくね」


 師匠が風の精霊で浴衣をはためかせ、木の精霊と土の精霊に花びらを舞い散らさせ、水の精霊でバッシャーンと水しぶきを上げさせて光の精霊でキラーンと回りを煌めかせながら自己紹介した。


 本当に相変わらずですね師匠……


 何か師匠。こうやって精霊使って表現するの好きなんだよなぁ。師匠いわくエフェクトという魔法の類らしいけど。


「……え? エルフでスーメリアってまさか――」

「あの精霊の旅路の著者としても有名な!?」

「他にも多数の出版物がベストセラーになったというエルフ作家の!?」

「ぼ、僕も知ってますよそれ!」


 そして名前を聞いた途端皆の目の色が変わった。へ? 師匠ってそんなに有名だったの……? てかスーメリアじゃなくてスメリアだった筈なんだけど……

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