第182話 魔力ゼロの大賢者、再会!?
僕が泊まっている宿に、妙な借金取りが来ていた。言動がちょいちょい怪しい。何か僕の事を知ってそうだし。
「……マゼル。この悪魔的な魔女みたいな風貌の老婆は誰?」
「誰が悪魔的だよ! 失礼な女だね!」
「でも、確かに貴方からは邪悪な気配しか感じません」
ヒサン商会のヒサンをアイラが訝しげに見ていた。アイラもはっきりというタイプだからね。でも、アイラも理由もなくこんなことを言う子ではないからね。
そしてイスナもアイラに同調するようにズバズバといいのけた。
「そっちのあんたも邪悪だとか随分な言い草じゃないか!」
「でも事実ですから精霊がそう言っているのです」
ヒサンが目を尖らせてイスナに怒りをぶつける。でも、イスナも全く引く様子がないね。
「イスナ様は数多の精霊に愛される高貴なる御方。人の善し悪しを推し量ることなど造作もないことです」
クイスが凛とした佇まいを見せつつ言い放った。つまりイスナはヒサンについて直接精霊から情報を得たってことみたいだね。エルフと精霊は切っても切れない関係とされるほどでエルフという種族にとってはなくてはならない存在だ。
そういう意味でエルフの扱う魔法は人間の扱う魔法とは一線を画する。人は基本的にはエルフほど巧みに精霊を操れないからね。
僕も精霊の姿は見えるし今も可愛らしい羽の生えた精霊が微笑んでるのは承知しているけど出来るのはそれぐらいだから。
「ちなみにここの精霊は大賢者マゼル様にとても感謝されてますよ。フフッ、流石大賢者様。悪しき霊を退治されたのですね」
「え? え~と」
イスナと精霊に微笑みかけられてちょっと焦ってしまった。あまり公にはしてなかったからね。
「何だって! つまりあんたがあの呪いを、ハッ!?」
ヒサンが慌てて自分の口を塞いだ。でも、しっかり聞こえたよ。呪い、ね。でも、妙だな。どうみてもこのヒサンは魔法が巧みなタイプには思えないんだけど。
「今呪いって言ったか?」
「い、言ってないよ! 何馬鹿なこといってんだい! そうだね。話が鈍いって言ったんだよ! あぁ呪い呪い」
ラシルがヒサンを睨めつける。するとヒサンは手で顔を仰ぐようにしながらなんとも白々しいことを言った。
「……普通は話が鈍いなんていわない」
でも、流石アイラは不審な言動を見逃さないね。明らかに怪しいもの。
「それにしても――本当にそんなものがついていたのかい?」
「姫様の言うことに間違いありません。何より精霊は嘘をつかない」
「いや、姫とか精霊とかあんた達一体何者なんだい?」
「イスナ様はエルフィン女王国の姫ですよ」
「しぇえぇええぇええ!?」
不思議そうに聞いていたジリスが驚いていた。まぁ突然姫様がやってきたらそりゃ驚くよね……
「ボス、エルフィンといえばエルフの国の、ちょっとヤバくないですかい?」
「び、ビビってんじゃないよ! 大体姫だろうが何だろうがこれはうちらとこの宿の問題さね。そもそも部外者の出る幕じゃないんだよ!」
取り巻きに耳打ちされていたけど、ヒサンが開き直ったように声を大にさせた。
「はぁ……それなら。僕は部外者とは言えないですね。イスナの言うようにここに妙な霊がいたのは知ってますから。さっきの言動を見るに何か知ってますよね?」
だから僕も霊の件を認めてヒサンに追求する。
「し、知らないと言ってるだろう! それよりとっとと借金を返しな! こんな因縁つけられるならこっちももう容赦しないよ。今すぐ耳を揃えて返すか店を明け渡して残りの借金もその体で返すかどっちか選びな!」
ヒサンが随分と無茶な選択を迫ってきたよ。だけど、余裕がなくなってきてるね。下手に突かれてボロを出さない内に話を終わらせたいって感情が見て取れるよ。
「なぁ、借金ってそもそもなんだ?」
モブマンが聞いてきた。皆そもそもそのことについて知らないね。だから僕も簡単に経緯を話してあげた。
「……その借用書ある?」
「な、だからあんたには関係ないだろう!」
「これだが、見て何かわかるかい?」
「……一応将来のために貴族のたしなみとして一通り教えてもらっている」
「は? 貴族?」
ヒサンが目を丸くさせた。エルフの姫に続いて貴族と聞いて目が泳ぎ始めたよ。
「……何これ酷い。条件が無茶苦茶すぎる」
「そんなに酷いのですか? て、は? ちょ、利息が一日三割って――」
アイラが借用書を確認し、興味を持ったネガメも書面を覗き見て驚きの声を上げた。
いや、確かに一日三割はアコギすぎじゃないかな?
「えっと、部外者の私が言うのも何ですがよくその条件で借りましたね?」
「いや、実は私もわけがわからなくて……最初見た時は年で三割だったと思うんだけど……」
イスナに聞かれてジリスが答えていたけど、う~ん、年と日じゃ大違いだね。
「……とにかく、そもそもこの借金は認められない。不正もいいとこ」
「だ、黙りな! あんたに何がわかるんだい!」
「アイラはナムライ辺境伯のお嬢様ですよ。さっきも言っていたけど貴族の嗜みでそれぐらいのことはわかります」
ネガメがメガネをクイクイっと上下させながら補足した。
「それに利息が一日三割なんて僕でも暴利だとわかる金額だよ」
僕もアイラの意見に追随するように指摘する。こんなの認められるわけないよね。
「大賢者様がこう言われたならもう間違いありませんね」
「……マゼルの言うことは絶対」
「貴様も観念することだな」
な、なにかアイラとイスナとクイスまで僕の意見が決め手みたいな空気を……いやいやむしろここはイスナとアイラの力があってからこそだからね!
「う、うるさいうるさい! あんたがどこの姫でも貴族でも知ったことかい! この町にはこの町のルールがあるんだよ! そして借用書もしっかり取り交わしてサインだってされてるんだ! 文句を言われる筋合いじゃないんだよ!」
ヒサンが眉を怒らせて怒鳴り散らす。かなりムキになっている。ただ、確かに借用書にサインをしたのは間違いなさそうだけど――
「それならその借用者が勝手に書き直されたとしたらどうなのかなぁ~?」
その時、随分と朗らかな声が僕たちの中に割って入ってきた。そして、その声にはどことなく聞き覚えがあった。
首を巡らせて声の主を確認する。あまりこの辺りじゃ見ない格好をしたエルフの女性。あれは東方の島国で伝わる浴衣という衣装だ。体格にあってないからか丈の長い袖をぶらぶらさせている。
浴衣も着崩すようにしていて、雪のように白い肩を露出させながら懐かしい顔をしたエルフ、いやハイエルフの彼女が近づいてきた。
て、ちょっと待って、何で、えっとどうして? 他人の空似? いや、そんな筈ない。どこか適当っぽい口調といい若干のだらしなさを感じさせる出で立ちといい、何より感じられる気配は紛れもなく彼女、転生前の僕の師匠の物だ。
「えっと、あの」
「あはは~やっぱりマゼルだ~ひっさしぶりぃ~」
まさかと思っていた僕に師匠の方から声をかけてきた。あぁ久しぶりの再会なのにノリが軽い。やっぱりこの人、かつての僕の師匠、スメリア師匠だったんだ。
いや、てか、そもそも何で僕のことわかったの!?
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