第181話 魔力0の大賢者、借金取りを怪しむ
「あんたら! 一体どうなってんだい! 話と違うじゃないか! マゼルってガキが試験に来てたって聞いたよ! 妨害はどうしたんだい!」
しわがれた声で随分と威勢のいい女性だった。初老の女性で鳥の嘴のように曲がった鼻が特徴hの女性だ。
「忘れたのかい! この宿の借金を待つ条件をね! 約束が守れなかったなら今すぐにでも耳を揃えて借金を返してもらうよ!」
けたたましい女は指を突きつけて怒鳴り散らしている。それにしても――
「……その件は」
「待て。それは俺から話す。わりぃが約束は守れん。それにもともと俺は知らない話だったしな」
「はぁ? ふざけたこと抜かしてんじゃないよ! だったら借金はどうするんだい!」
「それはできるだけ早く返す」
「ふざけんな! 約束を破ったのは確かなんだからね。耳を揃えて返すかそれが無理ならここを明け渡してもらうよ!」
何か物騒な話になってきた。宿は随分と盛り返してきている。折角温泉まで復活させたのに借金で取られるなんて冗談じゃないよね。
「ちょっと待って」
何か揉めてるようだけど僕も関係ないわけじゃなさそうだからね。口を挟ませてもらう。
「あん? 何だいこの子は? こっちは大人の話をしてるんだ。子どもの出る幕じゃないんだよ!」
「でも、僕の名前も出てましたから。関係ないとは言えないよね」
目に力を込めて言い返させてもらった。相手の鷲鼻がピクピクと上下する。
「名前だって?」
「彼がマゼルだ。あんたが今話してたな」
「……チッ」
僕の発言を証明するようにラシルが答えた。相手の老婆は不機嫌そうに舌打ちしている。
「すまねぇマゼル。実は俺たちはお前が試験に行くのを妨害しようとしていたのも借金があったからだ……いつの間にか膨らんでしまってな」
「わ、私が悪いんだよ。借金の返済を先延ばしにしてもらうために安易にこんな話に乗ってしまって。すまないね……」
ジリスとラシルが謝罪してきた。だけど何かされた覚えもないし今の話を聞いている分には最終的にはやめてくれたようだし責めるつもりはない。
だけど、この人だけは見過ごせないね。
「僕の妨害って何のこと? どうしてそんなことを?」
「フン。知らないねぇ」
借金取りに詰問したらプイッとそっぽを向いて否定した。
「ちょ、何言ってるんだい! 確かにあんた言っただろう!」
「何の話だい? 知らないねぇ。それとも私が言ったという証拠でもあるのかい!」
「そ、それは……」
シリスがたじろぐ。どうやら書面で約束を交わしたというわけでもなさそうだよ。
「ふん。ほら見たことかい」
「でも、今僕の試験の妨害って貴方が口にしてたじゃないですか?」
「はぁ? そりゃ聞き間違いだよ。知り合いのマレルが失礼して後悔してるってそういったのさ」
うわぁ~凄い無理やりなごまかし方だよ。
「とにかくだよ。妨害はともかく借金があるのは確かなんだ。借金に関してはこの通り証文も残ってるんだからね。さっさと耳を揃えて返すか店を明け渡しな!」
「待ってくれ。見ての通り客が戻ってきてるんだ。商売もこのままいけば軌道に乗せることが出来る」
「温泉も戻ってきたんだよ! この盛況ぶりなら」
「黙りな! 多少店に客が戻ったぐらいで返せる金額だと思ってるのかい!」
「その金額って幾らなんですか?」
なんとなく気になって聞いてみることにした。
「金貨1000万枚だよ。それをあんたら返せるってのかい!」
金貨1000万枚は確かに大金だ。そう大金すぎる。何でそんなにもの金額を?
「そんなに借りたのですか?」
ジリスとラシルに確認してみた。一体どうしてそこまでのお金を借りたのか……勿論僕には直接関係ないけど乗りかかった船だしね。
「それが半月ほど前に火事に見舞われてな……その修繕費が足りなくて困ってたところにこのヒサン金融商会が融通してくれるというから借りたんだが――正直その時はここまでの金額じゃなかったはずなんだが……」
「私のせいさ。私がきっと火の不始末でやらかしてしまったんだよ。思えばその時から温泉がでなくなったり不運続きだったし最悪だよ。だけどやっと温泉も戻って店も軌道に乗ると思ったのに……」
ジリスが肩を落とす。この宿は食事も美味しいし温泉も入れるとあれば今後店は十分盛り返せると思う。だからこそより悔しいんだと思うよ。
「諦めるんだね。このヒサン様は貸した金は地獄の果てでも追いかけて必ず回収するのさ。言っておくけど店を明け渡しても貸した金額には全く届かないからねぇ。あんたら二人は奴隷として私の為に一生働いてもらうよ!」
「奴隷制度はとっくに廃止されてますよ」
「う、うっさいねぇ! さっきから。ものの例えだよ! 奴隷みたいに働けってことさ!」
それもどうかと思うけど、全体的に怪しすぎるね。奴隷制度も表向きは廃止されたけど裏では違法で奴隷売買しいる組織がいると聞くし。
このヒサンもナチュラルに奴隷なんて言葉が出るあたり怪しい。それでいくとこの借金だってそもそもからしてまともな借金か疑わしいものだ。
「……マゼルいた」
「マゼル~♪」
「よぉマゼル迎えに来たぜ」
「あれ? 何か取り込み中だったかな?」
「マゼル様。私も皆様と合流させて頂きましたが、はて?」
「宿に相応しくない連中がいるようですね」
ヒサン商会を訝しんでいると待ち合わせていていた皆の声が耳に届いた。皆ここまで来てくれたんだ――
◇◆◇
side???
「いやぁ~いいお湯だねぇ」
全く久しぶりに人里で活動するのもいいかと思って、この魔法学園都市とやらに来てみたけど、こんなに格安の宿で温泉まで付いてるなんてラッキーだったかも~♪
はぁでも気持ちいい。温泉に宿る精霊も嬉しそうだよ~。
「ふふ、君達楽しそうだね」
私が話しかけると精霊が近づいてきて耳打ちしてくれた。ふむふむ。どうやら最近まで悪霊が住み着いて大変だったみたいだね。精霊はそういった悪い霊に敏感だし嫌がるからね~。
でも、それも一人の少年の手で倒されたらしい。清らかな魂を持った超強い少年だったんだって。聖魔法でも使ったのかな? と思ったけど魔法は全然使ってなかったようだって精霊が言っていたよ。
はは、魔法も使わず精霊を脅かす悪霊を倒すなんてね。まるであの子のようじゃないか。
ふふ、懐かしいね。もう500年以上前になるかな。後にも先にもこの私が弟子をとったのなんてあの一度だけだったけどちょっと懐かしいかも~♪
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