第180話 試験を終えて――

「マゼル様! 試験が無事終わったのですね!」


 全ての試験が終わり会場を後にすると、表でイスナとクイスが立っていて僕たちのことを出迎えてくれたよ。


「それで如何でしたか試験は?」

「どうかな? 何か会場は全部で三つあったみたいで、他の会場も含めて判断するみたいだからね」


 イスナが期待に満ちた目で聞いてくれたけど、間違いないとは言えないからね……


「……何の問題もない。試験の結果は聞くまでもない。マゼル以上が他にいるとは思えない」

「うん! マゼル本当に本当にすっごかったんだよ~」

「あはは……」


 ビロスが僕の肩にもたれるようにしながら自分のことのように喜んでくれた。本当にスキンシップが激しい……


「――それはそれは。ところでずっと気になってたのですが、大賢者マゼル様。その方は?」

「え?」


 あれ? なんだろう? 急に寒気が、あれ?


「イスナ様! こんなところで精霊の行使は!」

「うふふふふ。随分と仲が良さそうですね」

「うん! ビロス、マゼルのことだ~い好き!」

「へぇ。大好きですか。そうなんですか……」


 何か更に温度が下がってるような! 地面が凍ってるような! 


「……いい加減離れる」

「あぁ! もう! どうして意地悪するの!」


 アイラがビロスの首根っこを掴むようにして下がっていった。


「……意地悪じゃない。それに周りが勘違いする」

「勘違いって?」

「……とにかく、マゼルも気をつける」

「え?」

「……気をつける」

「は、はい……」


 アイラの圧も凄い。それにしても一体何を気をつけたらいいのか……


「あ、大賢者様。それにビロスも試験終わってたんだねぇ」


 すると今度はハニーが手を振って声を掛けてきた。そのままこっちに駆け寄ってくる。


「……また女性が」

「どうどう! 姫様落ち着いて!」

「な、なんか寒くない?」

「急に冷えてきたな……」

「ママ! 噴水が凍ってるよ!」

「異常気象?」


 ピキピキと空気が凍てついていく――イスナの周囲に氷の精霊がいるんだけどそれが原因っぽいよ……


「な、何か寒くない大賢者様?」

「あはは……」

「うふふ。知らなかった。マゼル様ってと~ってもモテるんですね」

「いや、違う違う! 皆友達だけど、モテるとかそういうのじゃないし。それに彼女は」

「あ、はい。私はハニー! 大賢者様とは親しくさせてもらってるんです!」

「ハニー……親しく」

「姫様! もうこれ以上は! 冬が来てしまいます!」


 クイスがなにげにとんでもないことをいい出したよ! それに冬って、あぁでもよく見ると向こうから冬将軍が近づいてきてる!


「ストップストップ! 君はまだ早い!」

『むっ? 違うのか?』

「違うよ!」

『ふむ、大賢者がそう言うならきっとそうなのだろうな』


 そうそう、てどうして冬将軍にまで僕のことが!?


「な、なぁマゼル誰と話してるんだ?」

「……きっと冬将軍」

「え? ははいくらなんでもそれはおとぎ話、だよね?」


 モブマンやネガメとアイラが話していた。いや、まぁ確かに今すぐそこまで迫ってきてたけどね。引き返してくれたけど!


「……姫様。ハニーは彼女の名前。そういう意味ではない」

「え? そ、そうなんですか?」

「……そう。それとビロスは――」


 結局アイラの口からビロスが元はバトルホーネットだったこと。ハニーが蟲使いの一族でビロスの主人のようなものであることが伝えられた。


「い、いやだ私ったら。そうだったんですね」

「うぅ、良かった。姫様が落ち着いて……」

「……誤解が解けてよかった」


 そしてイスナもどうやら納得してくれたようだった。そもそも何を誤解していたのか僕にはさっぱりだけど。でもおかげで冷えていた空気も戻っていった。よかった……


「でも、その、やはりちょっとスキンシップが」

「……姫様もこう言ってる控える」

「ぶ~ぶ~」

「ほらビロスも、これから学園に通うなら皆の話もちゃんと聞かないと」


 ビロスが不満そうだったけど、話はしっかり聞いていてくれたね。


「ところでビロスはどうだったの?」


 そしてハニーが試験の手応えについて聞く。


「ビロス! マゼルと一緒に学園に行く!」

「う、うん。その気持ちはわかるけど試験に合格しないと」

「絶対に行くよ!」

「あはは……」


 ハニーが困っているね。ここは安心させてあげないと。


「ビロスは実技試験を見ている限りでは大丈夫だと思うよ。僕なんかよりずっと高評価だったと思うし」

「「「「「「「いや、それはない」」」」」」


 えぇ! なんでそんなに声を揃えて!?


「きっと皆さん大丈夫ですよ。マゼル様と一緒だったのですから」


 僕と一緒だから大丈夫というのはどうかと思うけど、皆手応えを感じてるようだしね。


 さて、僕は一旦宿に戻ることにした。その後皆で食事でもって話になったわけだけど――


「凄い、宿泊客が一杯だ」


 宿に戻ると随分と盛況なようだった。泊まりに来てるお客さんが一杯いる。


「おお! 戻ったか坊主。試験はどうだった?」

「結果は明日ですがやれるだけのことはやってきました」

「そうか。ま、坊主ならきっと大丈夫だろう」

「それならいいのですが、ところですごく忙しそうですね」

「ははは。温泉も使えるようになったし随分と綺麗になったからな。あいつと二人で宣伝してまわったら随分とお客さんが入ってくれたんだ。嬉しい悲鳴だよ」

「あっという間に満室になってしまったよ……本当に信じられない。その、色々悪かったね。そしてありがとうさ」


 ラシルとジリスに随分と感謝されてしまったよ。それに謝罪もされた。別に謝るようなことでもないと思うんだけど――


「一体これはどうなってるんだい?」


 その時、宿の入口から不機嫌そうな声が聞こえてきた。見るとガラの悪そうな男を引き連れた人物が入って来たのだけど――

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