第179話 魔力0の大賢者、メイドとの戦いに勝利する
「えっと、つまり負けを認めてくれるってことで?」
僕が問いかけると、メイリアが一旦瞑目してから答えてくれた。
「――残念ながら。現段階における私の性能では貴方に勝てないという結論に達したことをお答えします」
『はは、メイリアにここまで言わせるなんてね。これは認める他ないようだねぇ。とにかく、この試合はマゼル君の勝利だ』
ゲシュタル教授からの声が届く。どうやら僕の勝利は間違いなかったようだ。
ふぅ、でもよかった。相手が女の子だとやっぱり躊躇っちゃうし――
「……ミッション失敗。無念とお答えします」
「いや、でも君も凄く強かったと思うよ。ただ、その、戦う時は格好にも気を遣うといいかも」
「……?」
メイリアが小首を傾げて何を言ってるんだろう? みたいな顔をされてしまったよ。
試合も終わりメイリアはゲシュタル教授に呼ばれて去っていった。僕も試合場を後にする。
「すご~い! マゼルやっぱりすっご~い!」
「わわ!」
戻った途端にビロスに抱きつかれてしまった。うぅ、ビロスは男性に接することに対して頓着がないよね。僕はまだわかってるからいいけど今後学園生活を送るならあまりにスキンシップが激しいと危険かもしれない。
「……ビロスだからくっつきすぎ」
「むぅ、だって! マゼルと一緒にいたい!」
「……学園でそれだと困る。自重しなさい」
おお――僕が思った心配をアイラがしてくれているようだ。何かこう見るとアイラがビロスのお姉さんのように思えてきたよ。
「ですが、やはりマゼルはすごかったですね」
「あぁ見ていて俺も何かこう胸が熱くなったぜ!」
ネガメとモブマンも僕の勝利を喜んでくれた。こうやって互いの健闘を称えあえる仲間がいるというのもいいものだよね。
「うん。僕もマゼルの凄さに驚きっぱなしだよ。やっぱり無理言ってでも僕が来てよかった。きっと学園も楽しいことになりそうだよ」
アダムが屈託のない笑みを浮かべながら近づいてきてこれからを期待するような発言振りを見せた。今日知り合ったばかりだけど、人懐っこい少年だなと思う。でも無理してってことは最初は試験を認めてもらえなかったのかな?
「……とにかく、試験は手応えあった。特にマゼルは間違いなくナンバーワン。合格も間違いないと思う」
「私も合格~?」
「ビロスも間違いないと思うぜ。俺も受かっててほしいけどな」
「マゼルが間違いないのは確かだと思うけどね」
「勿論そうでないと意味がないしね」
「そう喜ぶのはまだ早いと思うがな」
最後の試験も終わり結果について皆と話していると、リカルドの声が割って入った。
「……今の試験でマゼル以上のがいたとは思えない」
「君はライス卿の娘だったな。私から見れば君の方にこそ素質は感じられたがまぁどちらにせよそれを判断するのは受験生の君たちではない」
リカルドが答える。それは確かにそのとおりだ。最終的に判断するのは学園側だし。
「それともう一つ。君たちの試験も終わったことだし教えるが、今日の試験はこの会場だけで行われているわけではない」
「え? そうなのか?」
モブマンが驚いた顔を見せた。僕もちょっとはびっくりしたけど、でもそう言われてみるとおかしな点はあった。受験番号が適当でないなら数字に対して受験生の数が少なく思えたからだ。
「試験会場は三つにわかれているのだ。ここはその一つでしかなく、合否は三つの会場全ての受験生の結果に応じて判断する」
「……三つ――そう。だけど問題ない大賢者マゼル以上の存在がいるとは思えない」
「随分と彼を買っているようだが、今回の受験生はかなりの粒ぞろいだ。油断していると足をすくわれることになるぞ。精々気をつけることだな」
リカルドが厳しい目を僕に向けてきた。やっぱりどことなく目の敵にされているような気がする。
「とは言え、もう試験は終わったのだから後は待つだけだろうがな。結果は明日の昼頃には掲示板に張り出される。それまで精々問題を起こさないようにな」
最後にそう言い残してリカルドは去っていった。確かにこれで試験も終わりだから明日までは待ってるしかないけど、でも他の会場でもやってるのか……結局僕は魔法を使ってないわけだし、他の会場なら本物の凄い魔法使いがいるのかもしれないね――
◇◆◇
side???
「おい。お前だよお前」
「……何か用か?」
一人の少年に三人のガラの悪そうな少年が声を掛けていた。いや、絡んでいたと言うべきか。まいったな。全くトラブルは御免だってのに。だけど試験官としては何もしないわけにはいかないか。
「お前、ワグナー家のラクナだろう? 知ってるぞ。テメェの親父は悪事を働いて罪人として捕らえられたんだろう? そんな悪人の息子が何ちゃっかり試験なんか受けに来てんだよ」
止めようと思ったが、つい話に耳を傾けてしまった。ワグナー家か。確かに王国でひと悶着あったと聞いたが。だが、ワグナーであればうちの理事長だってワグナーなのだが――
「とにかく、お前みたいのがいるだけで学園の品位が低下するんだよ」
「――くだらん。品位という意味では貴様らの方がよほど下げているだろう」
「あん? んだとテメェこら!」
「はいはい。そこまでだ。試験でのトラブルは減点対象だぞ」
流石にこれ以上黙ってはみていられない。口を挟ませて貰う。
「チッ、いくぞ!」
ガラの悪い少年たちが立ち去った。全くあぁいう問題を起こしそうなのが毎年何人か紛れるもんだ。
「君、大丈夫かい?」
「ふん、あんなものただの害虫だ。何の問題にもならん」
「え? あ、そ、そうか……」
一応助けたつもりだったのだが、彼にとっては余計なお世話だったようだ。結局お礼も何も言わず試験に戻っていった。
それから試験は進んでいく。そして最後の試験でゴーレムとの模擬戦が始まった。この試験ではゴーレムに勝つ必要はない。
大事なのは過程だ。しかし、この会場は優秀な受験生が多いが小粒揃いってところか。一歩抜きん出たのがいない。
「おい、見ろよ。罪人野郎だぜ」
「は、一体どんな無様な魔法を見せてくれるんだろうな」
そして、あの子ラクナ・ワグナーの番となった。野次を飛ばしているのはあの連中か。
全く困ったものだな。そしてワグナーの前に出現したゴーレムは――運が悪いな。この会場で一番手強いタイプだ。でかいし、まともにやっては何も出来ずに終わるかもしれな……
「……呼応する大地、土の脈動、変化せし土壌、顕現せよ巨人――アースタイラント」
だが、その光景を見て思わず息が止まった。巨大な試験用ゴーレムを更に上回るまさに巨人といった様相のゴーレムがその場に姿を見せたからだ。
こ、これだけのゴーレムを受験生の彼が?
「潰せ」
ラクナの命令で容赦なく振り下ろされた足が試験用のゴーレムをぺちゃんこにしてしまった。言うまでもない圧倒だった。圧倒的勝利だった。
「な、なな、こんな」
「――で?」
「へ?」
さっきまで彼に絡み馬鹿にしていた連中も言葉をなくしていた。そんな彼らにラクナが近づいていき威圧的な態度で問いかける。
「あ、いや」
「――で?」
「あ、うぐぅ、も、申し訳ありませんでしたぁああああ!」
「ふん」
結局さっきまでの態度が嘘だったかのようにあの連中はおとなしくなってしまった。実力差を肌で感じ取ったからだろうが。
「雑魚が。あんなゴミはどうでもいい。それより――マゼル、貴様、貴様だけは絶対――」
だが、確かにかなりの使い手だが同時に怖くもあった。この子は何か闇を抱えてそうなそんな気がしてならなかったからだ――
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