第177話 魔力0の大賢者、中身の美少女メイドと戦う
「マスターからの命を受けたので、ここから先は私が引き続き戦います」
「いや、戦います、と言われても――」
女の子との戦いは気が引ける。勿論どうしてもという時は、戦うこともあったのだけど、今回は急な展開だし……
『さぁ大賢者の力をもっと僕に見せてよね。やっちゃってメイリア』
「イエスマスター」
そしてメイリアが肉薄。結構速い! 拳や蹴りがふりそそ、ふりそそ――
「お、おいマゼルが下がったぞ!」
「ふん、勝手な真似ばかりで困った人だ。しかし、七賢教が一人ゲシュタル教授が作成した人型のゴーレムだというなら、魔力もない無能に勝てるわけがない」
「……無能、ってお前、今まで何みてた?」
「いや、でもマゼルが退くなんて初めてみたかもしれませんよ!」
観客席で見ていた皆の声が届くけど、僕は正直それどころじゃないんだ。このメイリアってゴーレムの女の子はとんでもないよ!
『これは驚いた。まさかもう降参ってことはないよねぇ? メイリア今のでどれぐらいの力を引き出したのかな?』
「イエスマスター。出力25%程度とお答えします」
「お、おいおいマジかよ! 今のでまだ半分しか力使ってないってのかよ!」
「四分の一ですよモブマン!」
「あはは、なんか面白そうな子だねぇ。でも、本当にこれで終わりってことはないよね?」
何か外から色々聞こえてくるけど今は本当それどころじゃないんだ!
「――行きます」
また来た! 近づいてきて、拳の連打、これはいい。これは問題ない。でも、来た!
「マゼルがまた下がった!」
「フッ、これはもう決まりだな。全く蓋を開けてみれば大賢者などと言っても所詮この程度ということだ」
そう、僕は下がった。下がらざるを得なかった。だって、だって、あの子、スカートで戦ってるし! しかも拳ならまだいいけど、今みたいな蹴りを放たれたら、自然と、自然と見えちゃいけない物が見えちゃうじゃないか!
それは駄目だ。いくら戦いでも、それに父様だって言っていた。男子たるももの常に紳士であれ! てね。その後、今更僕に言うほどのことではないだろうが、なんて笑っていたけど、それはとても大事なことだと思う。
でも、だからってまさか今彼女に、そんな動きしたら見えちゃうよ、なんて言えるわけないよね! それこそ紳士じゃないもの!
だから下がった。見える前に下がるしかないじゃないか。全く興味がないかと言えば嘘になるけど、戦いにかこつけてそういうのは、良くないと思います!
「下がってばかりじゃ戦いにならないとお答えします」
いや、そもそも僕としてはあまり望ましい展開でもないのだけど……
『逃げるのはいいけど、あまり消極的な戦い方されちゃうと、僕も考えちゃうよねぇ。あぁ合否判定どうしようかなぁ』
う、そこをつかれると弱い。やっぱり戦わないと駄目か……だったら!
「――わかった覚悟を決めるよ。だけど、僕はもう君を近づけさせやしない」
「な、なんだと!」
「おお! すげぇぜマゼル! さっきと一転してこの宣言!」
「よほどの自信がなけれれば出来ませんよこれは!」
「……あのメイド、マゼルの闘争本能に火をつけてしまった」
「あはは、これはいよいよ面白くなりそうだねぇ」
いやいや、そんな大層な話じゃなくて、だって近づけたら見えちゃうし!
「――今の宣言、達成確率0%とお答えします」
「な、あの女、もうマゼルの後ろを!」
「はは、宣言してすぐにこれとは無様だな」
「これで終わ――ッ!?」
メイリアが僕の背中に向けて手刀を振り下ろしたけど、その瞬間消えた、僕の残像がね!
「近づけない、そう言ったよ」
「!?」
驚いた顔でメイリアが振り返った。ふぅ、でも手刀で良かった。よく考えたらあの位置でハイキックとかされたら僕からは見えなくても、そ、それは避けてあげないと!
「馬鹿な! 何だ今のは!」
「……今のはマゼルの幻惑魔法。一瞬にして魔法で残像をつくって転移魔法で移動していた」
「流石ですねマゼル!」
「おいおい、そんな高度な魔法をあの一瞬でかよ!」
『はは、なるほど。これは面白くなってきたね♪』
うん。えっと凄く盛り上がってるところ申し訳ないけど、今のはただ素早く動いたことで残像が生まれたという話で、魔法じゃないからね! 物理的な現象だよ!
「――理解不能。今のマゼルの動きに魔力の流れは感じられなかったことをお答えします。物理的に不可能な魔法とお答えせざるを得ません」
え? メイリアが僕をジッと見つめながら言ってきたけど、魔力の流れ、それが見えているってこと? だ、だとしたらちょっと不味いかな。だって実際魔力なんてないんだし――
「……かつての大賢者に仕え貢献したナイス様はこう記してある」
と思ってたらアイラが突然語りだしたよ。そう言えば、昔の僕の本をよく読んでいたんだっけ……ちょっと恥ずかしいんだけど――
『大賢者マゼルは伝説級の魔法を数多く生み出しながらもその魔力は結局一度たりとも観測されることはなかった。その理由について様々な憶測が飛び交い研究されてきたが、近くにいたからこそ私にはわかる。大賢者マゼルの魔力とはそれその物が一つの概念であり至高かつ究極的な存在であり超神的措置によって常人には一切感じることが出来ないのであると。そしてこの常人とは偉大なる大賢者マゼルその人を除く世界のあらゆる生命体のことであるならば、我々が感じることが出来ないのも至極当然なのである、と――』
いや、意味わからないし! 何か、おぉ~って声が聞こえて、アイラからも満足的な空気を感じるけど、本当全然間違ってるから! 前提からして大間違いだよ! 何やってるのナイス!
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