第172話 魔力0の大賢者、他の受験生に興味を持たれる

「……測定不能だ。ふん、まさかこの的まで壊してしまうとはな――」

「し、信じられん! この的はハイミスリルで作成された特別製だというのに!」


 リカルドが唸りゲズルが上擦った声を上げる。ハイミスリルだったんだ。でもミスリルほど衝撃に弱いわけじゃないけど、あれもそこまで耐久力ないよね。


 蒼魔竜なら鼻息で破壊できる程度だもの。


「障壁を纏わせ難易度も最難度に設定したと言うのに腹の立つ奴だ――」


 うん? リカルドがぶつぶつ一人でつぶやいてるよ。まぁ興味ないから聞く気もないけど。


「と、とにかくこれで前半の試験は終了だ。このまま少し休憩をとった後、後半の試験を行い会場に向かう。今のうちに手洗いなどはしっかり済ませておけ」

「よ、よっしゃ! 後半で巻き返すぞ!」


 バッカーが張り切ってる。意外とめげないね……


「……前半オール0点かマイナス点なのにまだ諦めてなかったか」

「僕の見立てでは天地がひっくり返っても無理だと思いますがね」

「キツイな二人とも」


 アイラとネガメの発言にモブマンが苦笑する。


「あのバッカーってのはもう無理だろう」

「全競技で0点かマイナスって逆に凄いけどな」


 周囲からも噂されちゃってるね。


「それにしてもあそこにいる連中は凄いな。全員あのマゼルっていうのの知り合いなのか?」

「そうみたいだな。その魔力0のマゼルも測定不能だからな。規格外もいいとこだろう。あんなの他にいるか?」

「いや、俺一人見たぜ。測定不能とまでは言わないが全ての競技で満点叩き出してた奴――」


 そんな話も耳に届いた。全競技で満点か……僕も全員の競技を見ていたわけじゃないけど、そんな子もいたんだね。

 

「マゼル~! 後半も頑張ろうね!」

「う、うん。そうだね」

「……だからくっつきすぎ」


 そんなことを考えていると、ビロスが僕の腕に飛びついてきた。だけどアイラが首を掴んでずりずりと引きずるようにして離した。


 はは、でも僕としても過度なスキンシップはちょっと緊張しちゃうから助かってるかも。


「やぁマゼル。前半の試験すごかったねぇ~」


 僕に声がかかり振り返る。そこに立っていたのは癖のある灰色の髪を生やした少年だった。


 初対面ではあるけど、随分と気さくな少年だね。


「いや、でも試験に使われていた魔導具幾つか壊しちゃったからちょっと申し訳ない気もしちゃうよ」

「え~? その方が規格外って感じがして面白いじゃん。測定不能とか凄いよ。僕なんて精々満点だったもんね」


 ニカッと笑って彼が言う。凄く無邪気さの感じられる笑顔だ。だけど、今満点と言ったよね。


 ということはさっき噂されていたのは彼か……


「……マゼル、その子は?」


 僕が彼と離していると、アイラ達がやってきて聞いてきた。今知りあったばかりだからまだ名前も知らなかったけど……


「やぁ。僕はアダムだよ。君たちの事も見ていたけど点数高かったよね。マゼルは勿論だけど皆にも興味津々なんだ」

「……ん。ありがとう。私はアイラ」

「モブマンだ」

「ネガメといいます」

「ビロスだよ!」


 彼の名前はアダムというのか……そして各々アダムに名前を教えていく。


「そういえばアダムは点数どれぐらいだったんだ?」

「僕? 満点だよ!」

「……満点――」

「全部の競技で100点を取ったということですか」

「ふぇ~凄いよね!」


 満点と聞いて皆驚いていた。でも満点か。僕も興味あるかも。僕の場合は魔法じゃなくて物理だから、やっぱり純粋な魔法には興味が尽きない。


「僕なんてマゼルに比べたら大したことないよ~だって測定不能だもの。今はまだレベルが違うって感じだよね」


 アダムが笑顔で答えた。正直僕としては反応にこまるけど、ただ、まだ・・、か――


「……よくわかってる。マゼルは凄い」

「うん! マゼルはすっごーーーーいんだよ!」


 アイラとビロスの過大評価が恥ずかしい……


「さぁ休憩はお終いだ。次の会場に移動するぞ」


 そしてゲズルに促されて僕たちは次の会場へと移動した。


「ここが次の試験会場か……」

「何か随分と大規模ですね。まるで試合場のようです」


 ゲズルに先導されやってきたのは学園内に設置された屋根付きで半球状の建物だった。


 ネガメの言うように中央に広場があり、そこの更に中心に石造りのリングが設置されていた。そして周囲は広場より高くなっていて無数の席が備わっている。


「さて後半の試験だが、ここからはお前たちに試合をしてもらう」

「試合?」

「ここで?」

「よっしゃぁああぁあ! こういうのを待ってたんだぜ!」


 他の受験生から、はて? と言った声が聞こえてくる中、バッカーが鼻息を荒くさせていた。


 一体あの自信はどこから出てきてるんだろうか……


「もしかして試合ってここの皆と? 早速マゼルと戦えるのかなぁ?」

「えぇ!」


 試合ってそういう意味? そしてアダムが凄く嬉しそうにしている。


「試合というのはお前達同士という意味ではない。ここでは学園側が用意した~魔導人形ゴーレムと戦ってもらう。


 ゲズルが皆の疑問に答えた。そうか皆と戦うわけじゃないなら良かったけどゴーレムか――

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