第170話 魔力0の大賢者、試験を続ける

 魔導パンチングマシンは魔力を乗せて殴ることで点数に反映されると僕たちは読んでいた。


 そしてそれはゲズルの皮肉めいた説明で確信に変わった。


 だから僕はせめて氣を込めて少しでも点数を上げようと、パンチングマシンを殴ったんだけど――粉々に砕けちゃった。

 

 本当に参っちゃったよ……よもやよもやの結果で僕自身とても驚いている。まさか、こうも簡単に砕け散るなんて……


 そろりそろりとゲズルの顔を覗き見た。何せ魔導パンチングマシンを壊してしまったからね。これ、結果は一体どうなるんだろう?


 とりあえず見てみたけど、何か目と口と鼻の位置がバラバラになって入れ替わったみたいな顔をしていた。えっと、どう判断すればいいのか?


「……試験官。これ、結果どうなる?」

 

 僕がどう聞こうか迷っていると、一足早くアイラが聞いてくれた。流石アイラだ。こんなときでもまるで動じてないよ。


「……は! そ、その、む、むぅ?」


 ゲズルが頭を捻った。一体どうしていいのか判断がつかないようだ。


「ふむ。まさかあれが破壊されるとはな。まぁ、仕方ない。本来破壊できる筈のない物が壊れたのだから、測定不能という結果にしかならんだろうな」


 すると試験会場に聞こえてきたのは聞き覚えのある鼻につく声音。


「全く。しかし平気で学園自慢の魔導具を破壊するのは勘弁して欲しいところだがなぁマゼルよ」

「は! こ、これはこれはワグナー理事長! わざわざこんなところまで足を運んで頂けるとは!」


 ゲズルが姿勢を整え、あのリカルド・ワグナーに挨拶した。リカルドはこの学園の理事長だ。一教員であるゲズルが緊張するのも当然なのかもしれない。

 

「マゼル! 測定不能! 何か凄い!」

「あぁ、全く相変わらずとんでもないぜ」

「流石は大賢者マゼルといったところですね」


 ビロスがぴょんぴょんしながら喜んでくれた。モブマンは僕の肩に手を置いて親指を立て、ネガメは眼鏡を直しながら称えてくれた。


「……マゼルなら当然。次のテストもきっととんでもない」

「ふむ。ならば少し見学させてもらうとするか」


 どうやらリカルドは見学を決め込むつもりなようだ。こっちも一応用心は必要か。


 とはいっても試験の場で何が出来るということでもないだろうけどね。


 さて、次のゴブリン叩きはモブマンが72点、ネガメが97点、アイラが100点、ビロスは62点だった。


 ビロスの結果は意外だなと思ったけど、本物の獲物じゃないから感覚が掴めなかったみたいだね。それでも他の生徒と比べれば十分高い点数だけど。


 他の生徒は大体が40点から50点ってところだったからね。勿論一部高い点数を出していた子もいたけど、大体がそんな感じだ。


 そして僕の番が来たのだけど――


「は、はえぇええ……」

「何だあれ? 殴ってるの全然見えねぇぞ……」


 見ている他の受験生からそんな声が聞こえてきた。そう言われてみれば、僕の番になってゴブリンの出る速度がちょっと上がったような?


 でも、問題はなかったけどね。僕は確かに魔力はないのだけど、感じ取ることは問題なく出来るから。


「……マゼル100点。チッ」


 ゲズルがあからさまに舌打ちしていた。リカルドは顎に手を添えながらじっと僕を見ている。


 表情に特に変化はないけど、何か面白くなさそうにも思えるよ。


 さて、次はいよいよ的当てだ。


「おら! どうだ! 俺の魔法は!」


 バッカーが挑戦していたところだった。的に命中して派手に爆発を起こす。起こすんだけど……


「バッカーマイナス50点」

「は! 何でだよ! 今のみてたのか!」

「あぁ見ていた。隣の的に当たるのをな。正面の的を狙えと言ったはずだ。だからマイナスだ。貴様はもうとっとと帰れ!」


 こうしてバッカーの挑戦は終わった……全ての試験で0点かマイナスってある意味凄いな……

 

 さて気を取り直して試験に挑もう。まずはモブマンの番だけど、モブマンは投擲用に玉を借りていた。どうしても道具が必要な場合は言えば貸してもらえるんだ。


「いくぜ! これが俺の筋肉増強魔法だ! うぉおぉおぉぉおお!」


 周囲から驚きの声。モブマンは強化魔法から更に進化させて筋肉に干渉する魔法を取得したんだ。


 そして魔法によってモブマンの腕がムキムキになり筋肉質な腕で的に向かって思いっきり玉を投擲した。


 ガツゥウゥウウン! という激しい音が聞こえてきた。玉は真ん中から右に拳半個分ぐらい外れてしまったけど点数は80点をマークした。


「ふむ、筋肉を増やす魔法とは中々ユニークだな」

 

 リカルドがつぶやく。モブマンは強化魔法以外に中々他の魔法が上達しなかった。だけど、そこから発想を変えて今の魔法に行き着いたんだ。


 ただ、なぜかそれも僕にヒントを貰ったということになってるんだけどね……記憶にないけど……


「次は僕だね」


 今度はネガメの番だった。そしてネガメの眼鏡がキラリと光る。


「眼鏡魔法! メガネオブサン!」


 そして太陽の光を増幅させた太陽光線が的を飲み込んだ。


 これには見ている皆もモブマン以上に驚いた。点数も92点だ――ネガメは最初鑑定魔法をメインに鍛えていたんだけどね、そのうちに自分のアイデンティティーは眼鏡にこそある! と思い立ってこの魔法に移行したんだよね。

 

 どうやらそれも僕のおかげらしいんだけどね勿論僕にそんな記憶はないんだけど……

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