第169話 魔力0の大賢者、実技試験に挑む
「ふん。それではこれより実技試験を始める。実技試験は前半と後半にわかれる。内容はそれぞれ説明することになるが先ずは前半だ」
いよいよ実技試験が始まる。で、説明に来た試験官だけど普通に見覚えがあった。というか学科の魔法学で僕のクラスで試験官だったゲズルだ。
ゲズルは一瞬こっちを見たけど、すぐに視線を戻して説明を続けた。
「前半、ここでの試験は三つある。先ずは左から魔導パンチングマシン、そして魔導ゴブリン叩き、最後は魔導的当てだ。どれでも好きな方からやってくれて構わない。ただしどれも挑戦は一回だけだ」
それがゲズルの説明だったんだけど、それに聞いていた皆がキョトン顔を見せた。
「これが試験?」
「なにか面白そう……」
「ゲームみたいだよな」
そんな声がチラホラと聞こえてきた。確かにちょっとゲームっぽく思えるかも知れないね。
「……マゼル、どれからやる?」
「え?」
するとアイラが袖を引っ張りどの順番からやるかを聞いてきた。な、なんかアイラもすっかり大人っぽくなってきたから見つめられると戸惑っちゃうよ。
「ビロスもマゼルと回る~!」
かと思えばビロスが反対側の腕にしがみついて来た。う、腕になにか柔らかい物が……い、いや駄目だ。平常心平常心……
「やれやれ、マゼルは両手に花だな」
「仕方ありませんよ。何せマゼルですから」
「いやいや! これはそういうのじゃなくて!」
モブマンが両手を広げて頭を振り、ネガメは眼鏡をクイクイっと直しながら笑っていた。
ビロスはちょっと人との距離感がまだ掴めてないだけだと思うし、アイラはちょっと聞いてみたかっただけだと思うんだけどね。
「ケッ、試験と遊びを勘違いしているんじゃねえのかテメェは」
そんな僕たちを見ながら面白くなさそうにしているのはバッカーだった。そして彼は先ず魔導パンチングマシンの前に立つ。
「よっしゃ! こういう力が物言うゲームは得意なんだ! 行くぜ!」
そしてバッカーがグローブを嵌めてパンチングマシンのパッドが起き上がり準備体制に入った。
「オラァアアアアァアアアア!」
バッカーが力任せに殴る。ズドン! という重い男が聞こえた、がパッドは全く倒れることもなくマシンとやらの上部に設置された石版に0点と表示された。
周囲からクスクスという笑い声が起きる。
「ちょ、ちょっと待て! 何で0点なんだよ!」
「馬鹿が。ここは魔法学園だぞ。力任せに殴っただけでどうにか出来るわけないだろう」
眼鏡を直しながらゲズルが馬鹿にするように言った。
うん、確かに力でどうにかなるってものじゃないのかも知れない。ただ、そうなると……
「おいおい、ならこれってどうすればいいんだ?」
「……多分魔力を込めて殴る」
「えぇ。そういうことなんでしょうね」
モブマンは?顔だったけど、アイラとネガメは試験の意味を理解したようだ。それからしばらく観察していたけど、沢山の穴から出てきたゴブリンを叩くゲームは魔力察知能力を計る為の物で的当ては魔法そのものの制度や威力を判定するものだろうと推測できた。
「あぁ、魔導パンチングマシン、俺30点だったぜ」
「私ゴブリン叩きで55点だった」
「ち、畜生! 何でまた0点なんだ!」
そして次々と試験に挑んでいく生徒たち。特典はその都度出てくる仕組みだ。そしてバッカーはゴブリン叩きでも0点だった。
そして僕たちも先ずパンチングマシンから試すことにする。
「よし、先ずは俺だぜ!」
最初はモブマンだ。グローブを嵌めてパッドを思いっきり殴る。
派手な音がしてパッドが倒れた。これまでのを見る限りパッドが倒れると結構良い点数に繋がってるように思える。
「おお! やった! 95点だ!」
「……お見事」
「ほう――」
モブマンの結果をゲズルが興味深そうに見ていた。この点数はかなりいいほうなのかも知れない。
そしてその後挑戦したアイラは88点、ネガメは78点だった。
「マゼルーー! 見ててーー!」
そして今度はビロスが挑戦。腕をぶんぶんと振り回した後ターゲットに向けて思いっきりパンチを振り抜く!
――ドゴオォオォン!
凄まじい音がして、パッドが勢いよく倒れ、パンチングマシンの本体が軽く持ち上がった。そして表示された特典は……120点。えっと、これ100点以上も出るんだね。
「な、なんだと!」
「お、おいおい、120点って何だよ……」
「あれって100点以上出るんだね……」
見ていた受験生たちも驚いていた。そしてビロスはドヤ顔だった。
「マゼル~~凄い? ビロス凄い?」
「うん。凄いと思うよ」
「やったー! じゃあ、次はマゼルのもーーーーっと凄い番だね!」
「え?」
ビロスが期待に満ちた目で僕を見ていた。ただ、僕には不安もあった。だってこれ、魔力を込めて殴るわけだし――
「うん? そうか。次は魔力0の大賢者様だったか。はっはっはこれは見ものだ。大体の受験生はもう気がついているようだがな、このゲームに魔力は必須。だが、貴様は魔力がないのだろう? くくっ、あぁだが愚問だったか。何せ魔法学にも随分と精通されている大賢者様だ。例え魔力がなくても問題にならないことだろう」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべゲズルが皮肉交じりの言葉を吐いてきた。
僕が失敗するのを期待してそうでもある。それにしても参ったな。この試験見る限りどれも魔力が重要そうだ。魔力ない僕には厳しい可能性がある。
でも、何もしないわけにはいかない。こうなったら仕方ない。上手くいくかわからないけど、氣を込めてやってみることにしよう。
魔力を含めたパンチングマシンにどれだけ効くかわからないけど、こうなった以上遠慮は出来ないね。
「いきます!」
そして僕は、魔導パンチングマシンに向けて思いっきり氣のこもったパンチを振り抜いた!
――ズドオォオォオォッォォッォオオオオオオオゴォォオオゴゴゴオッゴオォォオオンンンン! グシャッ! パンッ! パラパラパラパラ……
「……へ?」
思わず変な声が出た。えっと、あれ? パンチングマシンが、えっと――
「……マゼル流石。あまりにすごすぎてパンチングマシンが砕け散った」
「やったー凄い凄いマゼルーすっごーーい!」
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