第168話 魔力0の大賢者、午前の試験を終える
何はともあれ、魔法学の試験は合格出来たようだ。普通は実技試験も終わって総合的に見られるんだけどね。アイパーという教授がその場で採点しちゃったから。
その後は一般教養の試験があったけどこっちも解答用紙は埋めることが出来た。ちなみにどういうわけか一般教養の問題の時にはバッカーだけ教室を変えられていた。
また因縁つけられるのは嫌だったから丁度良かったけどね。
そして学科試験が終わった後、皆と合流して食堂に向かったんだけど――
「大賢者様お疲れ様です!」
「え? ハニー!? どうしてここに?」
「えへへ、ビロスだけだと心配なのと、社会勉強も兼ねてしばらくここで働くことにしたの」
お、驚いた。まさか魔法学園の食堂でハニーが働くなんて。
「うちの蜂蜜をここの食堂が気に入ってくれて。購入してくれることも決まった上に、私も採用してくれたの」
「そうだったんだ。あれ? 他の蜂は大丈夫なの?」
「今は他にも蜂使いが育ってくれたんだ。だから村の方は大丈夫なの」
ハニーがそう教えてくれた。父様の移動もそれで問題ないってことなんだね。
「というわけで私のこともよろしくね大賢者様!」
「うん。と言っても先ずは試験に合格しないと駄目だけどね」
「あはは、大賢者様が合格できないなんて考えられないよ~」
ハニーが右手を振りながら笑ってくれた。そして仕事に戻っていく。
「ハニーも一緒。私嬉しい」
「……マゼルにまた……油断出来ない」
ビロスはハニーも近くにいてくれると知ってご機嫌だ。ただ、なぜかアイラが難しい顔をしている。何だろう?
「そういえば皆午前中はどうだった?」
「……大体わかった。でも魔法学の最後の問題だけわからなかった。悔しい」
「え? アイラでも?」
「……あの短時間であの式の構築は無理。私もどうしても駄目だった」
「うぅ、ビロスは頭が沸騰しそうだったよ!」
どうやらアイラでもあの問題は難しかったようだね……言われてみれば僕は過去に師匠に教えてもらっていたからわかったけど、皆と勉強した問題集にも載ってなかったかも。
ちなみにビロスは午前中の問題を思い出したのか頭から煙が出ていた。
「式を構築しようとするだけ凄いぜ。俺なんて他の問題だって頭悩ませてなんとかだったもんな」
「僕は他は何とか、でも最後の問題は無理でした。マゼルはどうでしたか?」
モブマンが苦笑し、ネガメが眼鏡を直しながら僕に聞いてきたよ。でもどうしよう? ちゃんと答えた方がいいんだろうか……
「え~と、い、一応答えは書いたけど、じ、自信はないかなぁ」
うん。あまりはっきり言うのもちょっと嫌味っぽいし、ここはやっぱり答えを濁しておこうっと……
「ええ! マゼルあの問題を解いたのかよ!」
「え? いや、だから一応書いただけで……」
「……マゼルが解答欄を埋めたということは答えたも同然。流石大賢者マゼル。知識量も半端ない」
「本当に驚きですね」
「凄い! マゼル凄い!」
うぅ、結局しっかり正解したみたいに思われてしまった。いや、確かにそうなんだけどね……
そして僕たちはハニーが運んでくれた昼食を食べたんだけど、料理は凄く美味しかったよ。ハニーが考案したというハチミツケーキもセットでついてきたけど、これも程よい甘さで午前中に使った脳の栄養をしっかり補給してくれたように思える。
そして僕たちは午後の実技試験の会場に向かった。
「うん? はは、来たか魔力なしの落ちこぼれさんよ!」
すると会場入りしてすぐにバッカーと遭遇した。はぁ、また妙なのに……
「へ、午前中の学科は上手いことズルがバレずに済んだようだな卑怯もんの無能がよ。だが午後の実技はこうは痛ぇええぇえぇええええ!」
顔を歪めてやけに敵対的なバッカーだけど、後ろからビロスに針で刺された。あ、やっぱり針を出したりは出来るんだ……バッカーはお尻を両手で押さえて悲鳴を上げて飛び回ってるよ。
「お前嫌い! マゼルの敵!」
「ビロス! 大丈夫だから! それより針は引っ込めて!」
流石に針出してたら不味いからね! 僕のために怒ってくれるのは嬉しいけど。
「な、なんだ? 何で俺の尻に激痛が?」
「……おいお前」
「は? う、うひょぉおぉぉぉ! 超美人じゃねぇかぁあ! て、そっちにも可愛子ちゃんが!」
アイラとビロスを交互に見てバッカーが突然はしゃぎだした。二人共可愛いのは確かだけどね……ただアイラの目は険しい。
「……大賢者マゼルのことを悪く言うのは許せない」
「へ? な、何だよ! あんな魔力もないやつと何でお前なんかが!」
「……二度は言わない。消えろ」
アイラ、結構気が強いからね……バッカー相手に凄く睨みを効かせてるよ。
「え? 何? 俺様に言ってるわけ? おいおい、いくら可愛いからってあんま調子乗ってると――」
その瞬間バッカーを鉄の槍や剣が囲った。アイラの錬金魔法だね……それにしても随分と腕が上がってるよね。
流石にこんなところで手を出しては来ないと思ってるけど、一応僕も構えは取ってる。でも、余計なお世話だったかな。バッカーは冷や汗を掻いて腰も引けてるし。
「え、えと……」
「……消えろ」
「くっ、お、おまえら! 覚えてろよーーーーーー!」
そしてバッカーはなんとも情けない捨て台詞を残して去っていった。ふぅ、それにしてもいきなりこれとは先が思いやられるなぁ……
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