第166話 魔力0の大賢者、カンニングを疑われる

「さぁ、お前のような卑怯者は、この場にいることも相応しくない。勿論このことは上にもしっかり伝えさせてもらうぞ」

「待ってください。どうして僕がカンニングしたなどという話になるのですか?」


 僕はとても納得が行かなくて試験官に聞き返した。当たり前だけど僕はカンニングなんてしていない。


「往生際の悪い奴だ。お前がカンニングしたことなどこの答案を見れば明らかなのだぞ」


 答案をだって? でも、そんなことで何故?


「ふん。随分と不満そうにしているな。やれやれ仕方のない奴だ」


 そして試験官が眼鏡を直しながら教壇に立ち、その場にいる受験生全員に聞かせるように声を上げた。


「お前たちに問おう。この試験の最後の問題について、明確な答えを記入できたものはいるか?」


 明確な答え? 一体何を言ってるんだろうか? 試験なんだから答えを記入しないと仕方ないと思うのだけど。


「そこのお前。お前はどうだ?」

「え? あ、はい。見たこともないような問題だったので、明確な答えとなると……ただ問題の感想を問われたのでそれは記入しました」


 え? 見たこともない?


「そこのお前はどうだ?」

「私も一緒です。難問過ぎてもし答えを書けと言われてもとても無理でした。ただ問題の感想を問われてもいたのでそれを記入いたしました」


 そして試験官が次々と受験生に同じ質問を繰り返すと誰一人として答えそのものを記入した者はいないようだった。


「はは、ちなみに当然俺は回答も出来てないし感想だって書けてないぜ!」

「そんなことでいばるな」

  

 僕に絡んできた奴は、何か一番残念な答えだった。試験官にも呆れられていたけど。


「さて、ここまで話を聞けばわかるな。本来はここで明かすことでもないが、仕方ない。この最後の問題については実は最初から答えられない前提で作成されていた。だからこそこの問題に関しては答えだけでなく感想も対象としたのだ。わからないからとただそれだけで終わるようでは先がないからな」


 試験官が淡々と真相を明かしていく。ただ、僕としては解せない話だ。あれは師匠が教えてくれた中ではかなり簡単な部類だったんだけど、それが解答不可能?


「さて、ここで重要な事実がある。ここにあるこれがマゼルの記入した解答用紙だが、この最後の箇所を見てみるがいい。なんと計算式が記入されているのだ。しかもしっかり答え付きでだ」

「え? 嘘だろう?」

「あの難問を? まさか」

「あんな問題、どんな魔導書をみても書かれていなかったぞ」

「私の家庭教師も教えてくれなかった」

「はは、当然だ! こいつはカンニングをしたんだよ! そうでなきゃこんな問題に答えられるわけがねぇ。はは、まさか本当にカンニングしてやがったとはな!」


 僕に難癖つけてきた男が勝ち誇った顔で、敢えて皆にアピールするように声を張り上げた。


 だけど、今のは聞き捨てならないね。


「今、君はまさか本当にと言っていたよね? それってどういうこと?」

「え? あ、いや、だからお前が予想通りカンニングしていたってことだよ!」

「君は僕がカンニングしたのを見たって言っていたよね? 今の発言はそれと矛盾すると思うけど」

「あ、ぐぅ、こ、こまけぇことはいいんだよ!」


 握った拳で机を叩きつけて、顔を歪ませた。どう考えてもカンニングしたのを見たというのは嘘だね。勿論そんなことしてないのだから当然だけど。


「マゼル。貴様は何か勘違いしているようだが、もはやそいつが見ていようが見ていまいが関係ないのだ。この問題を解いている時点でな。これが答えも含めてデタラメだというのならともかく正解なのだから致命的だ」


 正解で致命的って、そんな無茶な話もないだろう。


「どうやら他の問題も含めてしっかりと解答欄を埋めているようだが、調子に乗って全てを埋めたのが失敗だったな。魔力もない貴様がこれだけ出来るのがそもそもおかしい。きっと全ての解答はカンニングによるものだろう」

「なんて奴だ!」

「この卑怯者!」

「私達は真面目に試験に挑んでいるのに信じられない!」

 

 突如周囲の生徒から非難の声が噴出しだした。まるで僕がカンニングしたかのような空気が教室内に充満している。


「はは、お前らこいつのカンニングをよぉ、許しておけるか?」

「「「「「「「「「「許せないーーーーい!」」」」」」」」」」

「そうだろうそうだろう。おい、そういうことだこの糞野郎。ただ出ていっただけで済むと思うなよ」

「……言っておくけど僕はカンニングなんてしてないよ」

「黙れや! もはやいいわけなんて不可能なんだよ! 解けない問題を解いた! それだけ証拠が揃えば十分だ。お前は由緒あるこの魔法学園の試験そのものに泥を塗ったんだ! 許せるわけない、だったらどうする? ごめんなさいと土下座だろうがぁああぁああああ!」


 難癖してきたアイツが叫んだ。僕が土下座?


「なるほど。確かに貴様はこの試験をカンニングなどという卑劣な行為で泥を塗り穢した。土下座の一つでもしてもらわないと示しがつかんな」


 それになんと試験官までもが同意しだした。周りの声も更に大きくなる。


「そうだ土下座だ!」

「土下座しろ!」

「土下座!」

「土下座よ!」

「「「「「「「「「「土下座! 土下座! 土下座! 土下座! 土下座!」」」」」」」」」」


 周囲から土下座コールが沸き起こる。そして試験官が僕を見下すようにし、指を床に突きつけた。


「さぁ、土下座だマゼル。今、この場で! 土下座して謝罪しろぉ! マゼル!」

「嫌です!」

「何ィ?」


 周囲からざわめきが聞こえてきた。だけど、何も悪いことをしていないのに土下座なんて出来るわけがない。


「僕がカンニングしたなんて事実無根です。この問題は僕が考えて導き出した答えだ。非難される覚えもない!」

「ふざけるな! 貴様は一体親に何を教えてもらった! 悪いことをしたら謝罪! それが人としての最低限の礼儀で常識だ。それとも貴様の父親も母親もそんなこともわからない程のクズだったのか? あぁそういえば貴様はローラン領などという聞いたこともないような小さな田舎の弱小貴族の出だったな。そんな卑しい両親の元から生まれたからこんな塵が生まれたのだろう。どうせカンニングも貴様を生んだご、なッ!」


 試験官が目を見開く。表紙に眼鏡がずり落ちた。今のは聞き捨てならない言葉だった。つい怒りがこみ上がる。


「僕自身のことは幾ら言われても我慢しよう。だけど僕を一生懸命育ててくれてこうして試験にまで挑ませてくれた父様と母様を悪く言うのは絶対に許せない。絶対に!」

「あ、が、な、なんだ、これ――」

「やれやれ、これは一体何の騒ぎでしょうか?」


 その時、教室のドアが開き白衣を纏った何者かが入ってきた。眼鏡をしていて髪がボサボサだ。声とその、白衣の盛り上がり方からして女性だと思うのだけど。


「――ふむ、見たところゲズル試験官以外は何故か気絶しているようだね。あは、面白いことになってそうだねぇ」

「へ?」


 教室に入ってきた彼女に言われて、改めて周りを見渡してみたけど、た、たしかに、皆泡を吹いて気絶していた。えっと、そういえば感情が高まっちゃってつい圧を込め過ぎちゃったけど、そ、そのせいじゃない、よね?


おしらせ

発売中の月刊ComicREX11月号にてコミカライズ版の3話が掲載!

破角の雌牛登場!とても魅力的に描いて頂きました!

コミカライズ版も是非とも宜しくお願い致しますm(_ _)m

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