第165話 魔力0の大賢者、学科試験に挑む

 僕たちはいよいよ試験当日を迎えた。会場の前ではエルフのお姫様でもあるイスナとその付き人であるクイスに応援を受けて見送られた。


 おかげで僕も頑張らないとと思ったよ。そして受付のお姉さんに受験票を渡すと教室の番号が書かれた札をくれた。


 試験は先ず学科から始まる。午前中は学科試験で午後から実技だ。僕たちは全員教室はバラバラだった。


 僕はDというプレートのある教室でテストを受けることになった。教室はどことなくピリピリしている。魔法学園の試験は難しいことで有名だからね。


 テストが始まるまでの間も、机にかじりつくようにして魔導書を読みふけっている。午前中の学科試験は前半が魔法学関係で後半は一般教養となる。


 だけど、重視されるのはやはり魔法学で、魔法学の試験が優秀なら一般教養が多少悪くても合格できるって話があるぐらいだからね。


「うん? お前、魔力が無いとかいうくそズル野郎だな!」


 受験票と交換で貰った番号どおりの机に座ると、隣に座っていた男子生徒に声を掛けられた。


 試験だから机と机の間隔は離れているけど、会話は出来る程度だ。喧嘩腰に声を掛けてきたのは坊主頭で眉のない男だった。


 見た目にはインパクトあるなぁ。でもいきなりなだろうね。


「魔力も無いくせに座ってんじゃねぇよ! とっとと出ていけ!」


 すると彼が机を叩き、いきなり帰れと怒鳴り散らしてきた。初対面の相手にそこまで言われる筋合いはないかなぁ。


「受験の資格は得ているから問題ないよね?」


 こんなところで揉め事はゴメンだから、出来るだけ角が立たないように伝える。


 だけど、相手はチッ、と舌打ちして立ち上がり僕の胸ぐらをつかんできた。


「俺が気に入らねぇんだよ! 大体テメェみたいのがいるせいでツキが落ちたらどうしてくれるんだ! 魔力ゼロの能無しなんかがいたら縁起が悪いんだよ!」


 ツキって……なんとも見当違いな絡まれ方してる気がするなぁ。


「いや、試験は実力で取り組んだ方がいいと思うよ? ツキ頼みじゃなくて。ほら、まだ時間あるし君も魔導書でも読んでおけば?」

 

 そう親切に教えてあげると、周囲からくすくすという笑い声が聞こえてきた。文句をつけてきた彼の蟀谷に血管が浮かび上がる。


「俺を舐めてんのか? あぁん? テメェが出てかねぇっていうんなら俺が力づくで」

「力づくで何?」

「ひゅんッ!?」


 僕の胸ぐらから彼が手を放し、ふらふらと後ずさりして椅子に尻をつけた。


「そろそろテストも始まるし、皆に迷惑だからもう少し静かにしておいた方がいいと思うよ?」

「ぐっ、て、てめ、あ、く、くそ! 何で震えが――」


 これ以上トラブルはゴメンだからちょっとだけ圧を込めたら、納得してくれたみたいだね。


 それからブツブツと独り言を言い続けていたけどおとなしくしていてくれたよ。


 そしていよいよ教室に眼鏡を掛けた試験官がやってきた。


「これよりテストを始める。机の上にはペンだけ置き、それ以外は机の下の空間収納に収めるように。その中に入れたものはテストが終わるまではロックが掛かり取り出せない。例外はなしだから気をつけるように」

 

 確かに机の下には物をいれるところがついているね。僕も読んでいた魔導書を入れた。机の上にはペンだけを残している。


「それではこれより答案用紙を配るが、テスト中は余計な会話や勝手に立ち上がるような行為は厳禁だ。他の生徒へ話しかけることは勿論、他の生徒の答案を覗き込んだりといったカンニング行為が発覚した場合は即座に失格とする」

 

 眼鏡を直しながら淡々と試験官が注意点を説明していく。すると、彼の目が僕に向き、そして手にした帳簿を確認しだした。


「やはり、貴様が噂の問題児のマゼル・ローランか。魔力もない癖に魔法学園の試験を受けようとはな。一応確認だが、本気で受けるつもりなのか? やめるなら今のうちだぞ」


 うわ、ここでもそんな扱いなんだ……


「勿論受けます。そのために来たのですから」

「ふん。私は親切心で言ったつもりなのだがな。貴様のような劣等種が合格できるほど、我が学園の試験は甘くない。下手に意地を張ったところで恥をかくだけだと思うがな」

「くくっ、おい言われてるぜケケッ」


 さっき絡んできた生徒が我が意を得たりと言わんばかりに嘲笑してきた。


 ふぅ、全く。


「とにかく試験は受けるので」

「……ふん」


 そして答案用紙が全員に配られていく。テストが始まるまでは用紙を裏返しにして待つことになった。


 そしてテストの開始を知らせる鐘の音が鳴り響く。


「時間だ用紙を表にして速やかに取り掛かりたまえ」


 そして僕も試験に挑んでいく。ペンを走らせるカリカリという音が教室に響き渡った。


 さて、ざっと内容を確認した。うん、皆と事前に勉強した内容が多く出ているね。このあたりも押さえておいてよかった。試験は全員一緒だろうから、皆もホッとしているかもね。


 僕も順調に解答欄を埋めていった。そして最後の問題を見た時、僕はなんとなく懐かしさを覚えた。


「これ、師匠に教えてもらった問題だ……」


 そう、転生前の話だけどね。師匠は僕が魔法を使えないことを知っている唯一の人だけど、魔法が使えないことと知識がないのは別ということで徹底的に魔法学を教えてくれたんだ。


 それにしても懐かしいな。師匠はただ答えを知って終わりでは駄目だって様々な応用の仕方を僕自身が考えるということを徹底させた。


 ふむ、この問題は師匠が出した中では比較的簡単な問題だ。でも、だからこそありきたりな解凍方法じゃ怒られちゃうね。


 それにこれはこのままだと無駄が多い。ここはあの知識の応用で――


 そして僕は無事、答案用紙を答えで埋め尽くした。


 う~ん、でも改めて見ると最後の問題だけ妙な言い回しだね。


 この問題は解かこの問題について何を思ったかを答えよだなんて。


 う~ん、ま、いいか。大分時間が余っちゃったけど一応問題を読み直したりしていたらその内にテストの終了を知らせる鐘がなった。


「それでは用紙を集める」


 そしてあの試験官が答えを記入した用紙を回収していった。僕の座っている席にも近づいてきたんだけど。


「試験官! 俺、実は見たんです! こいつがカンニングしているのを!」


 勢いよく立ち上がり、僕を指差してあの絡んできた奴が急にそんなことを言い出した。試験官がギロリと僕を睨む。


「本当か?」

「嘘ですやってません」

「ふん」


 突然何を言い出すんだか。当然僕はそんなことをしていないけど、試験官はひったくるように僕から用紙を奪ってジロジロと角煮にし始めた。


「――くくっ」


 そして妙に不敵な笑みを残しその場では何も言わず全員分の用紙を回収。その後教卓に立ち、厳しい目を僕に向けてきた。


「さて、これで魔法学のテストは終了となるがここで君たちに残念な知らせがある。一人の受験生が教えてくれたことだが、マゼル・ローラン! 貴様からカンニングという卑劣な行為が認められた! よって失格とする。さっさと荷物をまとめて出ていけ!」


 え? カンニングって、そんな馬鹿な――


お知らせ

本日発売の月刊コミックREX10月号にて本作のコミカライズ版の第2話が掲載されています!機会がありましたら読んで頂けると嬉しいです!マゼルの物理が炸裂!妹のラーサも可愛いのです!

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