第161話 魔力0の大賢者、試験を受けられるように……

 姿を見せたのはリカルド。あのワグナーの血縁者だ。ラクナの父だったマイル・ワグナーはガーランドの件もあり逮捕され今も幽閉されているという。


「魔力0のマゼル久しぶりだな」

「……大賢者をつけるのを忘れてる」


 相変わらずどことなく高圧的な男だ。僕を見下ろし話しかけてきたが、アイラが前に出て異議を唱えた。ただ魔力0という部分だけ強調してきたので言い返してくれたみたいだ。


 それは事実だから僕としてはあまり気にしてないところでもあるけどね。


「ふむ、しかし我が学園では他国の称号というのを考慮しないのだよ」

「でしたら魔力0というのを強調なさるのもおかしいいのでは?」


 リカルドの反論に、なんとイスナが口を挟んだ。まだ知り合って間もないのだけどさっきの係長の件といい、僕を庇ってくれているような発言を多くしてくれる。


 もしかしたら昨日、助けたことがあったからかな? だとしたら凄く律儀な子だ。後で僕からもちゃんとお礼を言わないとね。


「これはこれはイスナ・エルフィン殿下。この度は留学先に当学園を選んで頂き感謝の言葉もありません」

「そういった挨拶は結構です。そもそもこの学園では外での権威などは一切考慮しない筈では? それならば私にしても大賢者マゼルにしても対等に扱うべきでは?」


 イスナ――昨日話した時とは印象が違う。やっぱりこのあたりはエルフの国の姫様だけあるね。とても凛としていて気品も感じられる。


「――勿論学園内では区別なく接してもらいますよ。ただここはまだ学園の外ですからね。しかし、確かにマゼルについてはこちらも配慮が足りなかった。この男にしてもそうだ」

「え! で、ですが私は!」

「黙れ――」

「う……」

「全く困ったものだ。確かに魔力がない場合、魔法が使えないと判断するものも多いだろう。だが、だからといって試験を受けさせないなんてことはありえないのだ。この男も形式ばかりに拘り凝り固まった考えしか持てなかった。済まなかったなマゼル」


 リカルドが僕に対して頭を下げてきた。ただ、目は全く笑ってないんだよなぁ。それに、あの係長も悔しそうに歯噛みしてうつむいている。


 さっきも何か言いたそうだったけど、リカルドによる無言の圧力で沈黙してしまっている。


「つまり大賢者マゼルは試験を受けられるということで宜しいのかな?」

 

 クイスが念を押すようにして聞いてくれた。それに顎を引いてリカルドが答える。


「勿論だ。試験前のテストなんて馬鹿らしい真似も必要ない。受験生の皆さんにはしっかり明日の試験で合否を決めさせてもらうよ」


 両手を広げ、全員に聞こえるように威勢良く言い放った。


「マゼルも期待しているよ。魔力が例えなくてもそなたならきっと良い成績を収めて試験を突破するだろうからな」


 ……言葉では労ってるように思えるけど、その目には挑発的な感情が垣間見える。


「あ、あの、私は――」

「ふむ、お前はどうやら少し疲れているようだ。すぐに代わりの者を手配するから、荷物をまとめて出ていき暫く休暇でもとると良い」

「そ、そんな――」


 係長の男ががっくりと項垂れた。休暇と言ったけど実際は違うんだろうな……


「ちょっと気の毒かな……」

「……あれぐらい当然。マゼルを不当に追い返そうとしたのだから」


 僕が何となしに吐露するも、アイラはさも当然と言った様子だ。他の皆もうんうんと頷いている。


「あ、そうだ。そのイスナありがとうね。おかげで助かったよ」

「いえいえ、私は間違いを正しただけですから」


 イスナにお礼を言うと、彼女が手を振りニコリと微笑んでくれた。か、可愛い……て、転生前はいい年だったのに何を言ってるんだ僕は、もう!


「……初めまして殿下。私はアイラ・ナムライです」

「あ、あの! おれ、いや自分はモブマンと申します!」

「ね、ネガメです宜しくお願いします」

 

 イスナと話しているとアイラや皆も彼女に挨拶してくれた。何かモブマンとネガメはかなり緊張している様子だ。


「これはご丁重に。私はイスナ・エルフィン。こちらは私の親友の」

「付き人だ。私はイスナの付き人として学園に同行したクイスである。以後お見知りおきを」


 イスナが親友としてクイスを紹介しようとすると、彼女が前に出てきて付き人と自ら名乗った。


 う~ん、何というか真面目な子だなって印象かな。付き人として立場ははっきりさせないといけないって考えなのかも。


「あの、それで皆様は大賢者マゼルのお友達なのですか?」

「……マゼルとは、子どものころ・・・・・・からの長い付き合いです。殿下はどのようにしてマゼルと?」


 あ、あれ? アイラは相手が姫様だけに恭しく接しているんだけど、何か若干空気が重いような――


「……へ、へぇ。あ、いえ、そうですね。マゼル様は昨日、町で絡まれているところを颯爽と駆けつけ、助けてくれたのです。私を守ってくださる大賢者様はとても凛々しく、私にとってまさに理想の――」

「コホン、殿下その辺りで」


 一人盛り上がるイスナをクイスが諌めた。僕としても助かる。感謝の気持ちが強かったのかな? ちょっと話が盛られてる気もしたし正直照れくさい。


「……ふ~ん。そう、昨日、そうなんだ」


 あ、あれ、何か背中にゾクゾクとしたものを感じるぞ。そう言えば皆には上手くごまかしてたんだった。だけど、あの時はエルフのことは話したらマズイかなと思ってのことだったんだけど。


「ところでイスナ様。そろそろ出られた方が」


 クイスが辺りをキョロキョロ見ながらイスナを運がした。見るとイスナへの注目が集まっている。


 そこはやっぱりエルフだし、王女だからね。


「行きますよ殿下」

「あぁ、うぅ。ま、マゼル! 学園での再会を楽しみにしてますので!」


 そしてクイスに引っ張られてイスナが去っていった。


 中々忙しないね


「……マゼル。姫様のこと隠してた」

「あ、いや違うんだ。あぁ、とにかく僕たちも外に出ようか。事情は歩きながら話すよ」


 そして僕たちも受付の会場を後にする。その途中で顛末を話したら納得してくれたよ。


「……確かに姫ならそうそう公にできない」

「ましてやエルフの国だもんね」

「でもよぉ、すっげぇ綺麗だったよな! 流石はエルフって感じだよ。アイラよりお淑やかそうだグホッ!」


 あ~あ、モブマンも余計な事を言うから、アイラの肘鉄を喰らっちゃったよ。


 ふぅ、とにかくこれで試験は無事受けられそうだけど。


「――マゼル、マゼルーーーー!」


 と安堵していたら僕に向けて女の子が駆けつけて、だ、抱きついてきた! えええぇえ! 


「え、その、あれ、君、ビロス!」

「うん! 私ビロス! マゼル会いたかった!」


 驚いた。そういえば、ここ半年ぐらいは会ってなかったけど、凄いな以前はまだまだ辿々しかったのにすっかり人語を介しているよ――


作者より

本日発売の月刊ComicREX9月号より本作のコミカライズの連載が始まりました。

どうぞ宜しくお願い致します!

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