第160話 魔力0の大賢者、試験を拒否される

 試験の受付にやってきた僕だけど、魔力測定を受けた結果、魔力が0という理由で試験すら受けさせてもらえないって話になってしまった。


「……異議あり! 魔力の多寡は試験には関係ないと言っていた」


 するとアイラが近づいてきて係長とやらに意見した。確かに事前の説明では魔力の大きさだけで試験に影響することはないという話だった筈。


「勿論、魔力があればその多い少ないで決めることはない。だが、こいつは魔力がそもそも0! ないのだ! 魔法学園に魔力もないでどうするというのか! 魔法がつかえないなら意味がない!」


 う! メチャクチャ痛いところをつかれてしまった……確かに僕は魔法は何一つ使えないし魔力もない。


 それでもここまで物理でごまかしてきたけど、もしかしてこの人には気づかれたんだろうか?


 だとしたら流石は魔法学園都市だね……


「……何を言ってる? マゼルは魔法が使える」

「そうだぜ。俺達はマゼルに魔法だって教わったぐらいだ」

「そうですよ。そもそもゼロの大賢者の再来と言われているマゼルに、魔法を使えないから試験をうけさせないなんてありえない話です」


 だけど、アイラとモブマン、そしてネガメは納得していないようで係長に文句を言った。


「ふん。お前たちは仲間だからと擁護しているようだが、そんなもので騙されはしない」

「……流石に魔法学園の係長やっているのに常識がなさすぎる。マゼルは大賢者として凄く有名」


 いや、アイラ、それは流石に大げさかなと……流石に誰でも知ってるなんてことはないかなと思うんだけど……


「ふん。田舎の領地でいくら有名でもね」

「何を言ってるんですか! マゼルは国を救った英雄としても名が知れているのですよ!」

「王様が直接マゼルに会いに来るぐらいなんだからな!」

「あ、あの、そこはちょっと大げさな気も……」

「……全然大げさじゃない。マゼルはもっと堂々としていていい」


 きっぱりとアイラに言われてしまった。うぅ、でも魔法が使えないのは事実だからなぁ……


「ふん。国ねぇ。だけど私が実際に見たわけじゃない。それにいくら国がどうこう言われようと魔法学園は完全中立都市。特別扱いはしない」

「……だったらマゼルの魔法を見る。それで全てがわかる」

「え、えぇえええ!」


 まさか試験前から魔法を見せるなんて話になるなんて! 


 でもそうしたらどうしよう……この人、もしかしたら魔法かそうじゃない物理かぐらいはわかるぐらい優秀な可能性もあるし。


「だ、黙れ! 何故私がそんなことせねばいかんのだ! いいか! 魔法学園では魔力がない奴の試験などうけつけん! それが全てだ! 魔力0なら例え魔法が使えたとしても入学はできん!」

「それはおかしくありませんか?」


 何か半ば意地になって僕の試験を拒否しようとしている係長だけど、後ろから歌姫を思わせる綺麗な声が掛けられた。


 あれ? でもこの声、確か――振り返るとそこにはフードを被った二人の姿。


「な、何だお前たちは突然口を挟みおって!」

「これは申し訳ありません。ですが、今の発言には思うところがありまして。貴方は先程の話の中で学園とは魔法を学ぶところであり魔法が使えなければ試験を受けさせられないと言っていました」

「……確かにそう言ったが。実際そのとおりであろう」

「いえ、ですが貴方は直前の話の中で魔力が0なら魔法が使えようと関係ないと申しました。これは流石に言っている内容がコロコロとかわりすぎでは?」

「ぐ、そ、それは――」

 

 話に加わった彼女が、係長に意見を述べる。係長は喉をつまらせて反論できていない。


「そもそも、魔法学園なのだから魔法が使えても試験を認めないというのがそもそもおかしいであろう」


 そしてもう一人も問い詰めるように言う。この声はやっぱりそうだよね。


「う、うるさい黙れ! 貴様ら何様だ! もし試験の受付に来たのなら身の程をわきまえろ! この私の一存で試験を受けさせないことだって可能なのだぞ!」


 えぇ! 今この人凄いこといったよ! そんな一存で勝手に試験を受ける受けないまで決められるということ? それじゃあ公平性も保たれないよ。


「……あまりに身勝手。大体ここに来るまでに試験料は払ってる」

「ふん。そんなの関係ない。ついでにいえば一度支払われた試験料は何があっても返還はしないからな。試験を受けられなくなるのは言動を含めて貴様らのせいなのだから当然だ! お前もそんな質の悪そうなローブを来ているということはどこぞの貧乏貴族か金もない平民なのだろう」


 え? これが? 確かに派手さはないけど、素材は結構いいの使ってると思うんだけどなぁ。


「身分の低いやつは余計なこと言わず黙ってればいいんだ! 支払った金を無駄にしたくなければな!」


 な、なんて横暴なんだ。僕だけのことなら仕方ないと思えなくもないけど、全く関係ない人にまでこの言い方は酷いよ!


「ちょっと! 流石にそれは」

「やれやれ、これは驚きました。魔法学園は公平中立。歴史ある由緒正しい学園だと聞き及んでいたので楽しみにしていたのですが――このような不当なやり方で未来ある生徒をふるいにかけるなんて」


 僕が文句を言おうとすると、彼女たちの声が重なりフードを捲る。て、あれ? 姿を晒しちゃっていいのかな?


「え? え、えぇえええええ! そ、その耳! その美しさ! ま、まさか貴方様は! エルフィン女王国から留学してきたという、え、エルフィン殿下!?」


 すると係長が仰天して声を張り上げた。やっぱり正体はイスナとクイスだったね。でも、殿下? それに留学?


「全く恐れ入ったぞ。留学する学園の様子を密かに見に来てみれば、このような不当なやり方がまかり通っているとはな」

 

 そして一緒にいたクイスが厳しい視線を係長に送る。


「あ、あわわ、あわわ、で、でもどうして、貴方達は試験は免除されているのに」

「今、私の付き人をしてくれているクイスが言ったとおりです。様子を見に来たのですよ。本来は正体が知れると面倒事になるかもしれないとクイスが言うので、入学当日までは隠しておきたかったですが、あまりにも見ていられなかったので」


 そしてイスナ、まさか姫様だったなんて。そんな姫様が僕にニコっと微笑んできた。


「し、しかし、これは別に私も、その、意地悪で言っているのではありません。魔力0では魔法が使えないのは当然のこと! だからこそ!」

「ならば魔法が使えたら問題ないのですね?」


 必死に取り繕うとする係長にイスナが問う。


「え? ま、まぁ。いやしかし、この場で魔法を使わせるなどは認められません。さっき魔法が使えても認めないと言ったのは意味が違い、ここで魔法が使えても、そ、そうだ! トリックだ! 何かしらトリックでごまかす可能性がある!」


 係長が必死だ。僕は別にトリックなんて使うつもりはないんだけどね。物理が魔法だと判断されちゃってるだけで。


「ふん、それで弁解のつもりか? だが無駄なことだ。なぜなら私達が来た時点でマゼルが試験を受ける資格は得られたようなものだ」

「は? それはどういう?」

「はい。実は私、昨日、大賢者マゼル様に助けて頂いたのですが、その際にしっかり魔法を見ております」

「……ふぇ?」


 あ、昨日のことか……そういえばクイスもイスナも魔法だと思っていたっけ。


「いや、しかし見間違いでは?」

「私もしっかり見ていたぞ。それ以前に、貴様は姫様の申されることを信じられないというのか?」

「い、いえいえ滅相もない!」


 クイスが睨むと、大慌てて係長が否定した。何かさっきまでとまるで態度が違うよね。


「そもそもで言えば、かの大賢者の噂は私の国も届くほどに有名です。にも関わらず試験を受けさせることも許さないとは如何なものでしょうか?」


 イスナがニコリと微笑む。けど、何か笑顔が怖い。


 それにしても、僕の話ってエルフの国にも届いてるの? 一体父様はどこから話を広めたのだろう。うぅ、凄く恥ずかしい!


「やれやれ困ったものだな」

 

 その時、聞き覚えのある声がまた耳に届く。そこに姿を見せたのは。


「り、理事長!」


 そう、リカルドだ――


お知らせ

今月27日発売の月刊ComicREX9月号より本作のコミカライズがスタートです!

どうぞ宜しくお願い致しますm(__)m

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