第159話 魔力0の大賢者、試験の申込みに向かう

 明朝――食堂で朝食を頂いた。朝はお米ではなくてパンだったけど、柔らかくて凄く美味しかったよ。

 

 料理の味は凄くいいと思うけど、宿の人気はあまりなさそうなんだよね。確かにホテルみたいに近代的な魔導設備はないけど、それに二人だけで切り盛りしているから建物の損傷した部分にも手が回っていないみたいだ。


 でも勿体ないよね。この料理の味は一見の価値ありだと思うのだけど。


「坊主、旨いか?」

「はい。凄く美味しいです」

「そうか。確か今日は試験の申込みに行くんだったな。ま、しっかりな」

「ありがとうございます。本格的に試験が始まるまでは少しありますけどね」

 

 今日はあくまで申込みだけだ。そして受験票を受け取って後日試験となる。


 朝食を摂った後は宿を出て、昨日と同じ場所で待ち合わせた皆と合流した。


「……マゼル休めた?」

「うん。ぐっすりだったよ。皆は?」

「流石にホテルのベッドはふかふかでしたからね」

「むしろマゼルに申し訳ないぐらいだったからな」

「はは、僕の方も寝具に問題はなかったよ」

 

 少しは硬かったけど、前世では野宿することも多かったし、マグマの中や氷の中で眠ることも多々あったし、それを思い返せば全然快適とも言えるしね。


「……じゃあ、受付に向かう」

「そうだね」

「受験料忘れてないよな?」

「そういうモブマンこそ大丈夫?」


 そんな会話をしながら僕たちは学園に向かう。といっても受付は学園の敷地から離れた場所に設置されてるみたいだけどね。


「……ここ」

「ふぇ~受付でも立派な建物だねぇ」


 3階建てで冒険者ギルドの建物よりも外観はお金掛かってそうだよ。


 中に入ると試験目的の子たちが既に数多く並んでいた。僕たちも列に加わる。


「試験料は金貨6枚だ」

「……ん、金貨6枚」


 試験料は金貨6枚。聞いていたとおりだね。アイラは流石に躊躇なく支払ったけど、ネガメとモブマンは何度も金貨の枚数を確認して緊張していた。


「試験は金貨6枚だが……支払えるの?」

「は、はいあります!」


 ネガメが確認して渡していたけど、受付の人、あまり雰囲気良くないかも。眼鏡を掛けた神経質そうな人だけど、ちょっと横柄な気がした。


「モブマンです! これが金貨6枚!」

「うるさい。そんなに大声出さなくていい。魔術士を目指しているならもう少し落ち着きを持ったらどうだ?」

「す、すみません」

「だいたいねえ。君みたいな図体がデカいだけでいかにも頭が悪そうなのが、本当に由緒あるうちの魔法学園の試験を受けるつもりかね? 大体お前、育ちは?」


 なにか、口調が更に横柄になったような……


「え? うちは農民ですが――」

「はぁ~? 農民? の・う・み・ん? 全く農民風情が魔法学園の試験だなんて身の程知らずもいいところじゃないかね? 大体この金はどうした? 農民がどうにか出来る金じゃないだろう? まさかどこかで盗んだのか? 勘弁してくれよ。うちは有力貴族だって何人も通ってるような高尚な学園なんだ。農民風情の犯罪者が気軽に」

「その金貨はローラン領からの補助金ですよ。魔法使いになりたいという熱意があって本気で勉学に励みたいと思っている子どもは補助を受けられる制度になっているんです」


 悪いけど口を挟ませてもらった。流石にこれ以上聞いていられない。


「……何だお前は?」

「彼と一緒に試験を受けに来たマゼルです。モブマンが魔法を覚えるために必死に勉強し練習を積んできたことは一緒にいた僕がよくわかってます。ついでに言えば彼は犯罪を犯すような人間でもない」

「……マゼル、マゼルだって?」


 受付の男が眼鏡の奥の瞳を細めながらジッと僕を見てきた。何か……いい気分しないな。


「……一ついいですか?」

「何だ」


 僕が聞くとぶっきらぼうな答えが返ってくる。凄く偉そうな態度だ。


「魔法学園は身分に関係なく公平に通える機関だと聞いていました。ですが、今の貴方は明らかにモブマンを馬鹿にし、貴族を優先しているかのような発言に思えましたがどういうことなのでしょうか?」

「……チッ、もういいわかった。お前は先に行け」

「僕の質問の答えをもらっていませんが?」

「うるさい! ここではこの私が担当しているんだ! これ以上逆らうなら試験の資格なしと判断するぞ!」


 なんて奴だ。流石にちょっと腹も立ったけど。


「いいってマゼル。俺は試験が受けられるならそれでいいから」

「モブマン……」

「ふん。当然だ。しっかり受付してやったんだから文句を言われる筋合いじゃない。わかったらとっとと行け! あとがつかえてるんだ!」


 モブマンが気にするなと言い残して先に進んだ。そして僕の番がやってくる。


「マゼル・ローランか。ふん、偉そうなことを言って貴様だって貴族の端くれなんだろうが」

「それと友だちを馬鹿にされたこととは関係ないですよね?」

「馬鹿になどしてない。事実を言ったまでだ。それより金貨はどうした?」

「……どうぞ」

「ふん。確かにな。支払ったらとっとと行け」


 ……支払いを済ませ係員が示した方へ向かった。


「……モブマン、マゼル、何かあった?」


 アイラが僕たちに気がついて聞いてくる。アイラとネガメは受付を済ませたあとのことだったもんね。


「何でも無いって」


 モブマンが笑顔で答えた。厄介事に巻き込みたくないって考えかもしれない。なら僕も余計なことは言わないようにしておいた。


「ここで受験票を配りますがその前に魔力を測定させて頂きます」


 え? 魔力の測定があるんだ。


「なお、ここでの測定値が試験に影響することはありませんので」


 係員からそう説明がつけ加えられた。あくまで参考程度ってことなのかな。


「よし、魔力20だ!」

「俺は24だったぜ!」


 先に測定した子たちからそんな声が聞こえてくる。ここでは魔力測定の水晶を使って数値を測っている。魔力は5以上あれば最低限の魔法は使えると言われているんだよね。


「次」

「はい!」


 ここでは順番は少し入れ替わってネガメ、モブマン、アイラ、僕の順番で量ることになったのだけど。


「え? 魔力120?」

「やった! 100を超えてた!」


 ネガメが喜んだ。うん、魔力100超えは成人した魔術士でもそうはいないとされているからそう考えたらかなり優秀だよね。


「君は、え? 105?」

「くぅ、ネガメには叶わなかったか」


 モブマンが悔しがっていた。それでも100を超えてるからね。


「……私の番」


 そしてアイラが水晶に手を触れたのだけど。


「嘘、魔力――2000!?」


 周囲からどよめきが起き、アイラが僕を見てVサインを見せてきた。


「おいおい、2000ってあの子何者だよ……」

「でも、可愛いよな」

「有名な貴族の子かな?」

 

 周囲から一気に注目を浴びてるね。モブマンとネガメも流石アイラと感心しているよ。


「えっと、では気を取り直して次……」


 さて、いよいよ僕の版だけど、魔力測定だと結果はわかってたりするんだよね。


「待った、ここからは私が変わろう」

「バスタ係長!」


 すると、さっき受付をしていた神経質そうな男が僕の前についた。この人、係長だったのか。


「さぁ、マゼル。水晶に手を起き給え」


 何か粘つく目で見られてるけど、仕方ない。水晶に手を置く、が、やはり光らない。


「く、かか、水晶が光らない! こいつ魔力が0だぞ! 魔力もない癖に、貴様伝統ある我が学園の試験に挑めると思っていたのか? 馬鹿が! 貴様のような無能はこの時点で失格だ! さぁさっさと荷物をまとめて帰るがいい!」

 

 へ? な、何か妙な話になってるんだけど、これで帰れって――

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