第152話 魔力0の大賢者、12歳に

side農民


 オラはスメル村の農民だッペ。スメル村言うんはスメナイ山地に新しく出来た村だっぺ。


 この辺りは元々は凶暴な魔物が多くてとても人の住めるところじゃない言われていたッペ。


 でも領主様のご子息で偉大なるゼロの大賢者の再来とされる大賢者マゼル様のお力で開拓が進むようになり、こうして村も出来たッペ。


 農耕作業も進み、オラたち農民にとっても働きやすい環境になったッペ。大賢者様はただお強いだけじゃなく領地についても色々考えてくれる御方だッペ。領主様も凄くいい人でオラ達領民からも信頼されるッペ。そしてその息子さも大賢者とあればこの領地はきっと安泰。そして開拓が進むこのあたりもどんどん活気づいていくに決まってるッペ。


 さぁ、領主様や大賢者様の為に今日もイナ麦を育てるッペ!


「た、大変だぁあああ! オフロードブルの大群がこっちに向かって来てるぞ!」


 だども、村の仲間の1人が大慌てでこっちむかて走ってきたべ。しかも、お、オフロードブルの大群だッペか!


 豪いことだべ。オフロードブルはデカい牛の魔物だっぺ。足が速くてすぐに興奮して突撃してくる困った魔物だべ。


 オフロードブルが走った後にはぺんぺん草も残らない言われてるッペ、そんなのがやってきたら折角育てたイナ麦が全て台無しだッペ!


 村の皆も畑を放り出して逃げていくべ。だども、だども、やっぱり諦められないッペ! 


 あぁ、きたッペ。遂にオフロードブルの大群がこっちさ近づいてきてるべ。鍬持って見たけど、あんなのとても止められる気がしないべ。


「だ、だども! 大賢者様に託された畑は命に代えても守るッペ!」

「その気持ちは嬉しいよ、でも――」

 

 え? 何だッペ! 今おらの横をビュンっと風が通り過ぎだべ! そして目の前に、お、おお! こ、この御方は――


「悪いけど、ここから先は通行禁止だよ。止まれ!」

「「「「「「――――ッ!?」」」」」」


 お、おお! 何たることだッペ! オフロードブルの大群が一瞬にして動きを止めドタドタと倒れていったべ! まさか、まさかおらの目の前で、こんな奇跡が起こるなんて――すげぇべ! こんなことが出来る御方は一人しかいないッペ!


「うん、これで大丈夫。でも、命より大事なものはないから、今度からはしっかり逃げてね」

「だ、大賢者マゼル様ーーーーーー!」






◇◆◇


「凄いッペ! これがあの、奇跡の大威圧魔法マゼルプレッシャーだべか! こんな大魔法を見られるとは思わなかったべ!」

「え、えぇ……」

 

 また魔法と勘違いされてるよ……うぅ、あれただの威圧なんだけど。て、そもそも大威圧魔法ってそれ威圧だよね! 威圧が魔法になるっておかしくない? 威圧は物理だからね!


 ふぅ、でも村にいる皆にも挨拶をと思ってラーサとやってきたんだけど、まさかこんな現場に遭遇するなんてね。


 でもオフロードブルかぁ。これお肉が凄く美味しいんだよね。お土産としては丁度いいかな?


 うん、だから僕は次元にパリンっと穴を開けて中にオフロードブルをぽいぽいっと放り込んでいった。それを見たおじさんがこんなにあっさり次元収納の魔法を! なんて驚いていたけどただの物理だよ?


 さて、これで皆も畑仕事を再開出来るね。ひと仕事終わったところで待たせていたラーサと合流したらキラキラした目で凄いです! なんて言われてしまったよ。悪い気はしないけどね。


「いや全く。相変わらず無茶苦茶だなぁマゼルは」


 村について冒険者ギルドに顔を出したらカトレアさんに呆れられちゃったよ~オフロードブルを倒したってだけなのに大げさじゃないかな?


 冒険者だったらあれぐらいそんなに苦もないと思うしね。


「う~ん、成長してもちょっとズレてそうなところは変わってないな。逆に安心だけど」

「え! ズレてるの僕!」


 驚きの事実だよ。僕がズレてると思われていたんて……


「カトレア様、それはお兄様に失礼です! ズレてるだなんて!」

「お、おぉ、ラーサ……」


 流石僕の愛妹だよ。僕のことをわかってくれているんだね。


「お兄様は常識では計り知れない力を持ちすぎたばかりに、世間との常識に齟齬があるだけなのです!」

「うんうん、て、あれ?」


 何か、擁護してくれているんだと思うけど、何かあんまり変わんない気が……


「でも、大量のオフロードブルの素材や肉なんていいものを貰ったじゃない」

「おう! 大賢者様々だな!」


 僕が外に積み重ねてオフロードブルを見ながら、アローさんとアッシュさんが笑顔を綻ばせた。喜んでもらえたなら嬉しいよね。


「カトレアさんのギルドマスター就任祝いにはなったかなぁ?」

「よしてくれよ。ここだって扱いはマゼルの町からの出張所という形だし、当面の間だけあたしが所長を任されたってだけ。それだって冒険者と兼任なんだから」


 カトレアさんはそういって肩を竦めていた。でも、まんざらではなさそうだよね。


「でも、ちょっと見ない間に大賢者様もラーサちゃんも成長したわよねぇ」

「本当だぜ。マゼルなんてもうあたしより背が高いんだから」


 そう言ってカトレアさんが僕の肩を叩き、白い歯を見せながら豪快に笑った。

 

 う~ん、確かに背はかなり伸びたかも。そう、僕も今年で12歳になった。ラーサは10歳だ。


「お兄様はより一層素敵になりましたから」

「本当、イケてるよな。男っぽくなったしこりゃ学園でも女の子が放っておかないかもなぁ」

「え!?」


 アッシュさんがニヒヒと笑う。それを聞いていたラーサが何か驚いていた。


 どうしてのかな? 今のはアッシュさんなりの冗談だと思うんだけどね。


「お、お兄様がモテモテ、いえ、確かにお兄様なら、お兄様に魅力があるのは当然。それが周知されるのは嬉しいけど、も、モテるのは、お兄様は私だけの、うぅぅううううう!」


 な、何かラーサが頭を抱えてブツブツ言ってるけど大丈夫かな?


「でも、それを言うならラーサちゃんも凄く綺麗になったしすっかり大人びてきたわよね。これは男が放っておかないぞ。結婚の申し出だってくるか――」

「そんなのラーサにはまだ早いよおおおぉおお!」

「ふぇ?」


 フレイさんがとんでもないことを言い出したよ! ラーサがけ、結婚!? 


 冗談じゃない! ラーサはまだ10歳だよ、それなのに、それなのに!


「結婚なんてまだ早いから!」

「あ、うん。わかったわよ。落ち着いて。大体ラーサちゃんも学園にいくんでしょう?」

「そうだぜマゼル。学園にいる間に結婚なんて先ずないから安心しろって」


 カトレアさんからそう聞いて僕は胸をなでおろした。そうだよね。学園にいる間は大体学業に専念するものだし。


「お兄様、そんなに私のことを……安心してください! 私はお兄様以外の男性に心奪われたりしませんから!」

「ら、ラーサ……」


 うぅ、なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。僕をそんなに慕ってくれるなんて。


 でも……そんなラーサだっていずれは他の男と、うぅ、でもそれもまだまだ先の話だよね!


「あぁ、でもマゼルはあたしが今から唾をつけておこうかな。絶対将来有望――いや、じょ、冗談だって」


 カトレアさんは結構子どもをからかうのが好きなタイプだよねぇ。勿論僕も本気にはしてないよ。でも、なんでラーサの顔を見てたじろいだのかなぁ?


「ま、何はともあれ来てくれて嬉しかったよ」

「だな、これから暫く会えなくなるんだもんな」

「少しさみしくなるわね」

「でも、仕方ないわよね。大賢者様ぐらいの力があれば、いずれは魔法学園にいくのはわかっていたもの――」

「はは――でも、学園には休みもあるからその時には戻るよ」

「おう! 土産話期待してるぜ!」

「でも、その前に試験を突破しないといけないし、それで落ちたらすぐ戻ることになるかも知れないけどね」

「「「「「「「「「「その心配はない!」」」」」」」」」」


 えぇ! 何故か周りで聞いていた冒険者達も声を揃えたよ。いやいや、だって僕実際は魔法使えないし、ありえないことじゃないからね!


 そして僕たちはカトレアさんたちに挨拶した後、帰路についた。


 家に戻ったら荷物の確認もしておかないとね――そう、だって僕は3日後には慣れ親しんだここローラン領を離れて、いよいよ魔法学園の入学試験を受けるために出立するんだから――

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