第153話 魔力0の大賢者、出発の時

「はぁ、マゼル。こんなに大きく立派になって」

「ハッハッハ! 全く子どもというのは成長が早いものだな。もっともマゼルは人間的には幼少にて既に最高潮ではあったが」

「お兄たん、かっこいい!」

「御主人様はますます格好良くなったねぇ。惚れ惚れしてしまうよ」

「アネ少し離れなさい!」


 着替えた後、家族にどうかな? と聞いてみたら様々な反応が返ってきた。母様はどこかしみじみとした様子で僕を見ているし、父様は僕の成長を喜んでくれた。今年で2歳になるライルは木刀を振り振りしながら褒めてくれる。


 アネも僕を称えてくれた。何かすごく近い距離から顔を寄せてきたから照れちゃうけどね。そしてラーサから注意を受けてた。


 それにしてもライル――くぅ、我が弟ながらかわいすぎる。それにしてもついこないだ弟が出来たと思ったらもう元気に動き回り会話もしっかりしているんだから僕からしたらその成長にも驚きだよ。


 ちなみにライルは既に父様に剣の稽古をつけてもらっている。将来は有望な剣士や騎士になるだろうと父様は期待しているようだ。


 実際筋がいいから、僕も期待してしまうよ。


「はぁ、お兄様――素敵すぎます。何を着てもお兄様は似合いますが、今日は更に素敵に見えます。そしてまた会う時はきっと更に素敵なのでしょう」

「はは、それは流石に褒め過ぎじゃないかな」


 ラーサも僕の格好を見て似合うと言ってくれた。何故かちょっとテンションが高い気もするけど。


 ラーサも学園に行くことが決まっているから気持ちが高ぶっているのかもね。


 でも変じゃなくてよかった。マントには自信があったんだけどね。今日のために父様が用意してくれたものだし、寧ろ恐れ多いぐらいかもしれないけど、折角用意してくれたのだからしっかり身につけて行こうと思う。

  

 姿見の前で再度チェック。皆もこう言ってるし問題ないかな? 

 

 普段はここまで服装に頓着はないのだけど、今日はいつもと違うからね。


 そう、今日僕はいよいよ魔法学園の試験を受けるために領地を出る。長年親しんだローラン領から旅立つんだ。


 さて、格好も整ったし、屋敷から出る。門の前にはアイラ、モブマン、ネガメの三人がいた。


「……マゼル、準備できた?」

「うん、大丈夫かなと思うのだけどどうかな?」

「……とても、よく似合っている。そもそもマゼルは何を着ても似合うけど、今日は一段と良く似合ってる」


 な、何かアイラまでラーサと同じようなことを言ってくれた。背中がむず痒くなりそうだよ。


「おう! いいと思うぜ!」

「ちょっとワイルドな感じがマゼルっぽいですね」


 モブマンがニカッと歯を覗かせて答えてくれた。ネガメは眼鏡をくいっと押し上げながら印象を口にする。


 ワイルド、なのかな? 自分ではあまり意識してなかったけど、でも比較的動きやすい格好にしたのは確かかな。


 そういう意味では魔法使いっぽくはないのかもしれない。


「うん、でもみんなも決まってるね」


 僕も成長したけど当然、他のみんなも成長している。

 

 モブマンは体格がかなり良くなった。僕も身長が大分伸びたけど、モブマンは僕以上に背が伸びて筋肉量も増えた。完全にガッチリ系で魔法使いっぽくないと言えばどっこいどっこいかもしれない。


 一方ネガメは眼鏡の似合う知的な少年に成長した。白いローブを纏っていて学者っぽい雰囲気が漂う。

 

「……マゼル、私はどう、かな?」


 アイラが僕を見上げるようにして聞いてきた。アイラも成長してより美人になって、ふとした表情でドキッとしてしまうこともある。


 ラーサも成長したけど、アイラは更に顕著かも。スタイルもいいし胸も大きいし、て何を言ってるんだろう僕は!


「に、似合うよ。凄く良く似合ってる」

「……マゼルにそう言ってもらえると嬉しい」

「本当、アイラさん凄く似合ってると私も思うよ!」

 

 と、ここでラーサが割って入りアイラを褒め称えた。うん、僕は男だから似合うと思っても気づけない点もあったかもしれない。


 でも同じ女性目線でラーサがそういうなら間違いないかもね。


「ガッハッハ、いやいやみんな本当に成長したな。さて、ここから学園まではここにいる四人で向かうことになるのだが、みんなうちのマゼルのことをよろしく頼むよ」

「仲良くしてあげてくださいね」


 父様と母様がみんなに向けてそう告げる。今日皆が集まったのは学園まで一緒の馬車で向かうからだ。


「……勿論。任せる。でも、どっちかというと私達の方がマゼルにお世話になるかも」

「そうそう、何と言っても俺たちが学園の試験に挑めるようになったのもマゼルのおかげだしな」

「はい。僕たちの魔法が以前より成長出来たのも大賢者マゼルの教えによるところが大きいですから」

 

 モブマンとネガメが僕に感謝するようなことを言ってくれたけど、実際は魔法に関してはそんな大したことは出来てないんだけどね……


 だってそもそもで言えば僕のは魔法じゃなくて物理だから。寧ろ僕のちょっとした言葉から魔法のヒントにこじつけてしまったネガメが一番の功労者だと思うよ。


「はぁ。本当はあたしもついて行きたいとこなんだけどねぇ」


 アネも見送りに来てくれたんだけど、一緒にこれないことには不服そうだよ。でも流石に学園に同行は無理だからね。アネにはローラン領を守って欲しいとお願いしてある。



 弟のライルもまだ小さいからアネがよく子守もしてくれていた。それも凄く助かってるしね。


 アネも僕がそういうならと受け入れてくれたよ。


「うぅ、でも、でも、私もお兄様と一緒に行きたかったです」


 ラーサが瞳を潤々させながら残念そうな顔を見せる。


 そう実はラーサは一緒ではないんだ。僕たちは試験を受けて合格できれば入学。だから早めに出発するんだけどラーサの場合は新しい制度によって選ばれた特別枠。


 当然試験もない。だからラーサは後から追いかけてくることになる。そのための専用の馬車も学園から派遣されてくるようだしね。


 だから僕もラーサとは暫く会えない。そう考えるとやっぱりちょっと寂しい。


「……マゼルのことは任せて。ラーサの分もしっかり私が見守る」

「ありがとうございます。アイラさんは尊敬してますし信頼もしてますから、節度を保ってお兄様を見ていてくれると信じてます」


 ラーサは僕を心配してくれてるんだね。やっぱり優しい妹だなぁ。そしてラーサと仲良くしてくれているアイラにも感謝だね。


「お、おいネガメ! 何かあの2人怖いぞ!」

「僕の眼鏡には見えてます! 2人の間でバチバチと迸る稲妻が!」


 うん? 何かモブマンとネガメが真剣な目で語り合ってるけどなんだろうね?


「皆様、まもなく学園行き出発致しますが準備は宜しいでしょうか?」


 僕たちが会話をしているところで学園行きの馬車を操る御者が声をかけてくれた。


 ちなみにこの馬車はなんと王国が手配してくれたんだ。今回の学園への入学は陛下からもお願いされたことだった。


 だからせめて馬車ぐらいはと手配してくれたんだよね。


「はい。それではお父様お母様、ラーサにライル、それにアネもちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃいマゼル。手紙を頂戴ね」

「ハッハッハ、マゼルなら手紙など送らなくても魔法で一発だろう」

「そうでしょうけど、私はマゼルの手紙も形として取っておきたいの」

「ふむ、そういうものなのか」


 それは僕も母様に言われていた。急ぎなら魔法でもいいけど、僕が認めた手紙を読んで保管しておきたいんだとか。手紙が残されるというのもちょっと照れるけどね。


「いや、なるほどそういうことか。流石は私の妻だ。手紙であれば伝説の大賢者の偉業が形として後世に残るわけだしな」

「いや、それはちょっと大げさだから!」


 流石にそこまで残すのは勘弁してほしいよぉ。


「お兄たん、行ってらっしゃい」

「あぁライル行ってくるよ」

「……マゼルの弟も可愛い」

「お兄様の血を受け継いでますからね!」


 いや、ラーサそれはどちらかというと父様や母様のというべきな気も……。


「御主人様。もし夜が寂しくなったらいつでも呼び名よ」

「いや夜って……」


 アネも突然こんなこというから油断できない。そもそも学園に呼ぶなんて不可能だからね。


 さて、なにはともあれ、いよいよ学園に向けて出発だね!

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