第150話 魔力0の大賢者、とにかく魔法が凄いと褒め称えられる
「だが、何故だ。俺の攻撃が来るとなぜわかった?」
「いや、気配でなんとなく。それにそれって多分だけど剣を抜かなくても相手を切りつける技、ギフトっていうんだっけ? そういうことなんだよね?」
僕が相手のギフトとやらについて推測したことを告げると、顎が外れんばかりに驚いていた。でも、全く剣を抜いてなかったし、それで斬撃が発生すればそう思うよね。
「何故それが……」
「当然です。お兄様の鑑定魔法ロイヤルアナライズに掛かれば、どんな秘密も通用しません!」
いや違うよラーサ! 僕はただ相手の行動から察しただけだし!
「うむ、その上で大賢者たるマゼルには究極の察知魔法パーフェクトサーチがあるのだから見えない斬撃だろうと完全に見破ることが出来る!」
父様までまた! 知らない内にどんどん魔法のおかげにされてるよ!
「なるほど。どうやら大賢者の魔法を少々俺は舐めすぎていたようだな」
こっちもか。皆して僕の物理を魔法だと信じ切ってるんだからなぁ。
「ならば、俺も本気を出さざるを得ないな――ハァアアアアァアアァアアア!」
するとダンゼツが気合を入れるように声を上げ、かと思えば纏う空気が変化した。肉体的にも強化されたように思える。う~んこれは?
「い、いかん! あれはマレツが使ったのと同じ技!」
ん? マレツというと僕が到着した時には既に倒れていたあの男か。傷からして父様が倒したと思うんだけど――
「くくっ、一緒だと? 馬鹿を言え。俺のはマレツより更に一段階上の預流果だ! これで私の戦闘力は10倍にまで強化される!」
「な、じゅ、10倍だと?」
父様が驚き、ダンゼツがニヤリと口角を吊り上げた。刹那、ズババババッ! という斬撃音が響き渡り周囲の地面が深く抉れた。
「ふぅ、見たか? 預流果を解放したことで俺の無閃もより強化された。貴様の障壁など恐れるに足らず!」
う~ん、その預流果というのはわからないけど、これで10倍かぁ。
「さぁ、これで終わらせてやる――無閃・千殺刃!」
ダンゼツが叫び、僕を囲むように斬撃が飛び交った。名前の通り千の斬撃といったところなんだろうけど――
――パパパパパパパパァアアアン!
「う~ん、こんなものかぁ」
正直特に問題にならなかった。剣を抜かなくても斬れる斬撃。それはもしかしたら極めたら強力なのかもだけど、でも来るとわかってる斬撃は僕にとってはそこまで怖くない。
つまるところ来た斬撃を全て避けるなり弾くなりすればいいだけだもんね。とは言え、あれだけ大層なことを言っていたわけだし、ダンゼツもこれで終わりってことはないかな? と思って様子を見てみたけど。
「あ、が、な、な、なんで……」
何か凄い顔して立ってたよ。とんでもない化物でも目にしたかのような顔だ。何でそんな顔してるかわからないけど、今は凄く隙だらけだし。
「さて、それじゃあそろそろ僕から行かせてもらうよ」
溜めを作って身構えた。こいつらには随分好き勝手されてるから、これでも僕は怒ってるんだ。
「はぁああぁああぁ!」
体が熱くなる。全身を小刻みに揺らした振動で体温が急上昇する。血液が沸騰する感覚。
「お、お兄様の魔法! す、凄い!」
「むぅ、熱気がここまで――」
「……炎がマゼルの全身を覆っている」
「一体どんな魔法を見せてくれるってんだマゼル!」
魔法じゃないんだけど――高まった高温によって生じ僕に集まった炎を物理的に集束し、イメージを具現化させる。
「な、何だと? 巨大な焔の鳥」
「喰らえぇええええぇえ!」
「お兄様ぁあああ!」
「見せてやるのだ大賢者の力を!」
「いっけぇえええぇえ! マゼルーーーー!」
「……マゼル凄い、これが究極の極焔魔法――フェニックスエンド!」
焔の鳥をイメージしてダンゼツに突撃する! 師匠はこの技のことをこう呼んでいたんだ!
「ありえん! どんな魔法だろうと! この俺のギフトがあれば斬れる! 無閃・千殺刃!」
「
ダンゼツの斬撃が進行方向上にばら撒かれるけど、そんなものでは僕の焔は斬られない! そして僕の突撃がダンゼツに炸裂! 焔が吹き荒れ衝撃が爆発した。
「グハァアァアァアアアアァアアア!」
正面にダンゼツの姿はなかった。見上げると、遥か上空まで打ち上げられた黒焦げのダンゼツが錐揉み回転しながら落ちてきた。
潰れたような状態で倒れているダンゼツ。でも、あれだけ得意がっていたし、まだ起き上がってくる可能性はある。
気をつけながら近づいて様子を見るけど……ピクピクっと痙攣して動こうとしない。
う~ん……あれ?
「お兄様ーーーー!」
ダンゼツの様子を見ていたら、妹の声が近づいてきた。振り返るとラーサが僕の胸に飛び込んできて、グスグスっと泣き出してしまった。
「ら、ラーサ大丈夫! もしかしてまだ痛いところあるの?」
「ヒック、うぅ、違います。もう、嬉しいんです。お兄様が駆けつけてきてくれて」
「……むぅ、先を越された」
ラーサは僕が戻ったことが嬉しくて泣いてくれたらしい。ラーサ! 妹にこんな風に思われるなんて僕も泣きそうだよ。
一方でアイラが頬を膨らましていた。すぐに喜んでくれたけどね。
「ハッハッハ! 全くやはりマゼルは大したものだ。大賢者様の魔法を余すことなく使いこなしていて父として誇らしいぞ!」
「クモ~クモ~♪」
お父様も豪快に笑って僕を褒めてくれた。ちょっと照れくさいや。アネが使役している蜘蛛も喜んでくれている。
「うぉおぉおおおお! 俺は今猛烈に感動しているぅうう! こんな凄いマゼルに魔法を教えてもらえていたなんてこんなすげぇことはないぜぇええぇええ!」
そして何故かモブマンまで泣き出してしまった。男泣きだって話だけどね。
さて、それはそれとしてまだ全てが終わったわけじゃない。色々皆から聞いてみると町を襲撃してきたこの2人は魔狩教団の神官と司祭だったようだ。以前僕が戦ったマサツも神官だったけどダンゼツはそれより位が高かったようだ。
気になるのはギフトと言っていたあの力かな? 父様の話だと魔法とも違うらしいけど、う~ん?
とにかく気絶した2人は冒険者ギルドに運ぶことにしたんだけど。
「すげぇ全く傷がねぇぜ」
「本当マゼル様々だね!」
「あぁ、大賢者様の魔法が見たかったのにぃいい!」
「皆、しっかり大賢者様にお礼をいわないと」
破角の牝牛やギルドマスターが大怪我を負ったと途中で教えてもらったから、皆も回復してあげたらすごく感謝されたよ。やっぱり魔法ってことになってるけどこれは本当のことは言わない方がいいかなぁ。
「本当に大賢者様の魔法には感服ですよ。しかし、この連中――色々と話は聞いた方が良さそうですねぇ」
うん、たしかにね。気絶してたけど、流石に全快にするつもりもないんだけど……と思っていたらギルドの治療師が来てくれて気絶から目覚める程度に回復してくれた。
2人に一体何でこんな真似をしたのかや魔狩教団についても聞こうと思ったのだけど。
「カカッ、そんなこと答えるわけがないだろう?」
「喋らないならそれでも構わないが、こちらにもそれなりのやり方があるのだぞ?」
と、父様がゴゴゴゴゴゴッ、と凄い威圧を込めてダンゼツやマレツを見下ろした。
う~ん流石父様。普段は優しくて頼りになるけど、こういうときはちょっと怖いよね。
「何を言ったところで無駄だ。どうせ我々はここで死ぬ」
「くぅ、やはりそうなりますか」
「何?」
え? 今死ぬって言った?
「カカッ、覚えておくがいい傲慢たる愚かな人間どもよ! 神のみが扱える魔法を我が物顔で扱う背信者共よ! 我が死しても必ずや捌きは下る! 魔狩教団に栄光あれ!」
「栄光あれ!」
ダンゼツとマレツが叫ぶ。そして、カクンっと頭を垂れて動かなくなった。
「な、死んでるぞ……」
「こっちも駄目です。心臓が止まってます」
「冗談だろ、なんて勝手な奴らだ!」
父様とドドリゲスさんが脈と心臓を確認して死んだと判断した。これにはカトレアさんも憤っているし、僕も一緒だ。
「僕に任せてください」
「え? 大賢者様、一体何を?」
ドドリゲスさんが目を丸くさせていたけど、僕は死んだとされる2人に近づき両手に電撃を纏わせて胸に触れた。そして電撃を流し込む!
「「ガハッ!」」
「よし上手くいった! 蘇生したよ!」
師匠から前に教わった電撃ショック療法だ。例え心臓が止まっても電撃を流せば蘇生は可能だからね。
「な、なぜだ、俺は死んだはず……」
「い、生き返ったのか?」
「そう簡単に死んでもらっては困るからね。話も聞く必要あるし罪は生きて償ってもらうよ。ね、父さん、て、あれ? 皆?」
僕が皆を振り返ると、何故か時が止まったように呆然と立ち尽くしていた。え~と?
「す、凄いです! まさか伝説の蘇生魔法リザレクションまで使えるなんて!」
「えぇええええぇええええ!?」
様子を見ていたネガメが叫んだ。て、ちょっと待って何それ! 蘇生魔法って!
「うぉおおおおお! やはりマゼルは奇跡の大賢者だ! 蘇生魔法とはうぉおおおおおお!」
「お兄様、お兄様お兄様お兄様ーーーー!」
「……マゼル凄い。これは凄い」
「うぉおおおお! 俺は今猛烈に感動しているぅうぅうう!」
「いやいやいや、ちょっとまって誤解だからぁああぁあ!」
結局その後色々と説明したけど、死んですぐなら蘇生出来る魔法として認識されてしまった。うぅ、ただの電撃ショックなのにぃ……
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