第149話 魔力0の大賢者、ここから先は僕の戦いだ!
「ここから先は、僕の戦いだ!」
「フンッ」
僕がそう宣言すると、目の前の相手が鼻を鳴らして僕を睨んできた。すごい殺気だね。確実に相手を殺す気で来ている。
「――父様」
「マゼル、すまんな。またお前に任せることに」
酷い怪我だ。父様だけじゃない。皆、大なり小なり傷を負っている。こいつが皆を、内側からこみ上げてくるものがあるけど、先ずは――僕は皆に近づいて、全員の傷を癒やすことにした。
「お、おお、やはりマゼルは凄いな」
「お父様の怪我があっという間に……」
「俺の傷も治っちまったよ。やっぱ大賢者の魔法は凄いな!」
「クモー! クモー!」
皆の傷が治っていく。モブマンと僕に皆のことを教えに来てくれた蜘蛛も驚いていたけど、何かこれを使うといつも申し訳ない気持ちにもなるんだよなぁ。
とは言え、そのままにしておくわけにはいかないからここはしょうがないんだけど。
「――なるほどな。それが究極の回復魔法とされるディアグランドか」
いえ、ただの汗です。魔狩教のあいつが何かわかってるぞみたいな顔してるけど、全くわかってないからね。寧ろ回復している物の正体が汗だからこっちも気が引けてるわけだし。
「さて、これで僕は気兼ねなく――お前をぶっ飛ばせる」
とは言え、これで皆の怪我の心配はなくなった。後は――こいつだけだな。
「何? はは、面白いことを言う。このダンゼツをぶっ飛ばすか。大賢者と称されるだけあって随分と強気だな。よっぽど魔法に自信があると見える」
「……いや、魔法には自信がないんだけど」
ダンゼツと言うんだな。そのダンゼツは僕が魔法を使うと信じて疑ってない。
「フンッ、とぼけたことを」
どうも話が通じないね。ただ、それはともかくとしてもだ。
「一つ聞いていいかい? お前たちはこんな真似して一体何が目的なんだ?」
「ははっ、貴様がそれを言うか大賢者マゼル。我らの目的は貴様だ大賢者。貴様という傲慢で愚かな存在がいるから人は魔法などに夢を見る。下劣な人間ごときが神の領域に手が届くと勘違いする。お前のような存在は我らにとって害悪でしか無い」
「……だったら僕だけを狙えばいい話だろう。他の皆は関係ない」
僕は暫く出ていたから町にはいなかった。僕だけが目的ならその時点で引き返せばいい。
「馬鹿か貴様は。我々がこの街を狙ったのは見せしめの為だ。そもそも当然貴様も殺すが、貴様という存在の影響を受けた連中は我らにとって病魔と同じだ。だから殺す。残さず殺す。血縁者も町の連中も、この国そのものも浄化のために消し去る。それが我ら魔狩教団の務めだ!」
……狂ってるね。それしか言いようがない。
「ねぇ、それなら僕が魔法を使えないと言ったら諦めてくれるのかい?」
「何を馬鹿な。俺の目の前であんな魔法を見せておいて」
ありえないといった顔で返してきた。やっぱり無理か。言っても信じてくれなさそうだし。
「まぁ、もしもそれが本当ならわれらとしてもやりやすいがな。大賢者に幻想を持った連中が絶望したところで更に我等の手で処刑する!」
そしてそんなことまで語りだした。
「もっともそれはお前がいようがいまいが関係ないがな。だが悲しむことはない。この世界のあらゆる魔法の使い手は我々魔狩教団の手によって駆逐されるのだから!」
ダンゼツが笑みを深めて、随分と勝手なことを口走っている。
「やっぱり話すだけ無駄みたいだね。もういいよ。お前も僕と戦いたかったんだろう? 始めよう」
「……その余裕ぶった態度が気に食わんな」
そしてダンゼツが腰に帯びた剣の柄に手をかけ動き始めた。
「ムッ、いかんマゼル! その動きは!」
「もうおそ、イッ!?」
ダンゼツが目を見開いて叫んだ。何をそんなに驚くことがあるんだ。僕はお前の動きに合わせて
それにしても、わざわざ自分の後ろに斬撃を残して何がしたいんだ?
「くっ、くそ、何だ! 何故!」
ダンゼツがバックステップで距離をとりながら顔を歪めた。
「お、お兄様凄い……」
「むぅ、あの消える歩みを物ともしないとは!」
「……やっぱりマゼルはとんでもない」
「クモッ♪ クモッ♪」
「うぉおぉおお! マゼルすげー何だ今の魔法!」
そして皆からも妙に称賛されてしまったけど、え~とただ動きに合わせただけだから魔法じゃないんだけど。
「――くそ、ありえん! そうだ偶然に決まってる!」
するとまたダンゼツがあの動きで迫ってきたから僕はずっとこいつの正面に立ち続けた。その度に、そんな! や、ありえん! とそんなことばかり口にしてくる。
「ぬぅううおおお! 貴様! 何故俺の正面に立てるのだ!」
「え? いや普通だよね?」
「馬鹿な!」
ダンゼツが一旦距離をとった。何がしたいんだろうこいつ?
「まさかこの俺の動きが通じないとは……だが、読めたぞ。今のは瞬間移動の魔法だな」
「いや、違うけど――」
「惚けても無駄だ。そうでなければ俺の無拍子に対応できるわけがない」
無拍子、あぁあの予備動作無しで間合いを詰める歩法か。縮地を覚える前に先ず習うとされる技術だね。
もっとも師匠の話だと僕はいきなり縮地を使えたらしいけどね。当時は師匠が無拍子を教えた筈とか言っていたけど僕が出来るぐらいなら縮地だって誰でも出来るんだと思うけどな。そう考えてみたらなんでこいつは無拍子なんだろう? やっぱり見た目が子どもだから舐められてるのかな。
「まぁいい。ならばまた瞬間移動の魔法をやってみろ! やれるものならな!」
う~ん、妙に挑発じみたこと言ってきたけど、だから今のは別に瞬間移動の魔法じゃないんだけど。
そしてまたダンゼツがあの歩法でやってきた。しつこいね。だからダンゼツの正面にピタッとついてみせる。
――シュパパパパパパパパン!
「掛かったな! 馬鹿正直に正面に移動したな! 魔法を使うとわかればあとは余裕で膾切りに!」
「う~ん、もしかしてこれで勝てると思ったの?」
「は、ハァアアアァアアアァアアア!?」
何か攻撃を仕掛けてきた後、ダンゼツがまた叫んだ。うるさいなぁ。さっきから驚いてばっかりじゃないか。
「ば、馬鹿な! 俺は確かに斬った! 貴様を何度も斬った筈だ! なのに何故立っていられる!」
斬った? いや、確かに12回ぐらい切られたけど、全部弾いたから別に平気なんだけどね……
「当然です! 大賢者のお兄様なら、あの伝説の絶対防御魔法アルティメットガード程度余裕で使用できるのですから!」
えぇ! 待ってラーサ! 違う違う! ただ相手の攻撃を弾いただけだし!
「魔法だと! 馬鹿なありえん! 例えギフトでも魔切りの効果は乗る! 魔法なら切れる筈だ!」
あぁ、そうだったね。こいつらは魔法を切っちゃうんだった。でも、そもそも魔法じゃなくてこれ物理だから切れるわけないけどね!
「愚かなり魔狩教団! マゼルの魔法はただの魔法ではない。伝説の大賢者の魔法なのだ! 魔法を切れるなどという概念、とっくに超越しているに決まっているだろう!」
いや、だから父様、そもそも魔法じゃないんだってば!
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