第147話 魔力0の大賢者、動く!

sideラーサ

 マレツが私の目の前まで迫ったその時、お父様が飛び出してきてお兄様から贈られたヒノカグヅチを振るいました。


 ですが、マレツはお父様の一閃を避け後ろに飛び退きます。


「チッ! 何だお前は?」

「大丈夫かラーサ?」

「う、うん! ありがとうお父様!」

 

 間一髪だった気がします。お父様、来てくれたんだね……。


「今そいつはその女を娘と言った。つまり大賢者の父親ってことだろう」

「何こいつがか?」


 後ろで控えていたダンゼツに言われ、マレツが探るような目をお父様に向けています。


「ふ~ん、しかし、強いのかね?」


 腰だめに構え刀という武器の柄に手を掛けるお父様。マレツを正面に見据え背中から気迫が漂ってきています。


「……ラーサ怪我はない?」

「私は大丈夫です。お父様のおかげです」

「領主様かっけぇ……」


 アイラさんが心配そうに声をかけてきましたが傷一つついてません。モブマンくんはお父様の勇姿に感動を覚えているようです。


「妙な剣もってやがるな。だが、剣を鞘に納めたままでどうしようってんだ?」

「……マレツ、俺はその得物を知ってる。東の島国で刀と呼ばれる代物。そして恐らくそいつの構えは抜刀術だ。鞘滑りを利用した最速の一撃を叩き込むとされる業だ。十分気をつけることだな」


 あ、あのダンゼツという男、そんなことまで知っているのですか!


 お兄様から教わりお父様は、あの刀の力を最もいかせる抜刀術を磨き続けていました。しかし、知っているとなると少し厄介かもしれません。


 それにしても、まさかお兄様がいない間にこんなことになるなんて――お兄様は蟲使いの村に行っていてまだ戻ってません……お兄様、それでもやっぱり願ってしまいます。どうか、どうか早く――






◇◆◇


「うん?」

「どうしたのマゼル様?」


 何だろう? 何か妙な胸騒ぎがして空を見上げてしまった。するとハニーが心配して聞いてきた。

 

「ちょっとね……とにかくビロスの為にも早くこのローヤルゼリーを届けないとね」

「うむ、そうであるな。村ももうすぐじゃし、急ぎましょう!」

「あ、うん。そうだね」


 ちなみに大長老は帰りも、僕がおんぶしている。急いで大丈夫かな?


「私もビーダーに乗ります! これなら更に早くつきますよ!」

「ビービー!」


 ハニーがビーダーに飛び乗った。乗せたビーダーも任せたと言ってるように思えるよ。


「うん、じゃあ僕もちょっと急ぐね」

「え? ぬ、ぬふぉおぉおおぉおおお!」

「あぁ! ま、待ってくださーーーーい!」


 そして僕は地面を蹴って速度を上げた。何かちょっと気になることがあったから若干早足になったんだけど、村についたら大長老が魂の抜けたような顔を見せていた。


 ちょ、ちょっと速かったのかな? 自分としては大したこと無いつもりだったんだけど。


「何かごめんなさい」

「だ、大丈夫じゃよ。何か川っぽいのが見えたけど大丈夫じゃ」


 それあまり大丈夫じゃなかったかも!


 それはそれとして村についてすぐにビロスの下へ向かった。


「おお大賢者様お戻りでしたか。いや、ビロスの熱がかなり高くなってしまっていまして」

「それはいかん! 大賢者様!」

「うん!」

 

 日ロスを見てくれていたのはハニーのお父さんだった。


 だけど状況は予断を許さないかもしれない。僕はローヤルゼリーを取り出してビロスの口の前まで持っていったけど。


「ビィ……」

「むぅ、かなり朦朧としているようじゃ。自分で口にするのは厳しいかもしれん……」

「そ、そんな!」

「ビィ~!」

「ビービー!」

「ビビビビビィ!」


 他の蜂たちも心配で来てくれていたけど話を理解しているのか、心配そうに騒ぎ始めた。


 でも、自力で食べられないのか……このままじゃビロスが大変なことに! それは僕だって嫌だ。

 

 こうなったら仕方ないね。


「ローヤルゼリーをちょっと頂きます!」

「え?」


 僕は先ずローヤルゼリーを口に含んだ。ものすごく上品な甘さが口いっぱいに広がった。凄くおいしい、思わず飲み込みそうになったけど、僕が食べるためにやったわけじゃない。


 だから僕はそのまま直接。


「え、えぇええええぇえええ!?」

「ビィ!?」


 僕は口移しでローヤルゼリーをビロスに食べさせて上げた。蜂相手に上手く出来るかなと思ったけど大丈夫みたいだ。


「だ、だだ、大賢者様」

「うん、よし、これで無事食べさせて上げることが出来たよ!」

「お、おおぉおおお! なるほどそうきましたか!」


 大長老が背筋を伸ばしてバンザイしてくれた。あれ? 腰痛いんじゃなかったっけ?


「あれ? でも、た、大変だ! ビロスの顔が何か赤いよ! 熱が上がったの? 何で?」


 しっかり食べさせたつもりなのに、凄く赤いんだ!


「ほっほっほ、それはあれじゃ、まぁ心配する必要がない奴じゃ。しかし、流石大賢者様は蜂をも魅了してしまうのですな」


 魅了? 何か言われている意味がいまいちわからなかったけど……。


「はわわ、はわわ――」

「ビ、ビー!」

「ビビィ!」

「ビビッビー!」


 そして何故かハニーの顔も赤い。蜂達も心配してるよ。


「ビィ~……」

「ほっほっほ、どうやら大分落ち着いたようじゃな。幸せそうな顔をしとる。うむ、これなら大丈夫じゃ」


 そうなの? ちょっとまだ顔が赤い気も、でも、確かに呼吸は落ち着いているようだね。


「あ、あの、だ、大賢者様のおかげです! ありがとうご、ごじゃいました!」

「あ、うん。何か顔が赤いけど大丈夫?」

「ひゃ、ひゃい! りゃいじょうびゅです!」


 ほ、本当かな? でも大長老は笑いながら大丈夫大丈夫と言っていたし大丈夫なんだろうね。


 さて、これで無事村の問題も解決したね。後は――


「大賢者様、宜しいですか?」


 すると、村の男性が入ってきて僕に声をかけて来た。


「なんじゃ何かあったのか?」

「あ、はい大長老様。実は門の前に蜘蛛が一匹やってきてまして」

「え? 蜘蛛?」

「ふむ、蜘蛛ぐらいそりゃいると思うがどうかしたのか?」

「それが糸で器用に文字を作って大賢者様を大至急と呼んでいるんですよ」


 え? それってもしかして!


「すぐに行きます!」

「うむ、何かのっぴきならないことが起きているようじゃのう」


 とにかく僕は急いで門の前まで向かった。そこには案の定アネが使役している蜘蛛の姿があった。


「もしかして何かあったの?」

「!? クモクモ! クモックモ~!」


 僕に気がついた蜘蛛が体を揺さぶり糸も使って僕に教えてくれたんだけど。


「え! 魔狩教団が町に!? アネも怪我を! え~と、それは大丈夫? うん、大変だ!」


 蜘蛛によるとどうやら魔狩教団から二人領地にやてきて町に向かっているんだとか。

 

 もしかしたら、もう町にやってきているかも! こうしちゃいられない!


「な、なんとそんなことが……」

「ご、ごめんなさい! 私が村に来てもらったばかりに!」


 僕は大長老たちに事情を話して街に帰ることを伝えた。ハニーが申し訳ない顔だけど。


「そんなハニーのせいじゃないよ。ビロスがそのままじゃ大変だったのは確かだし」

「とにかく、お急ぎならすぐにでも蜂を出して……」

「いや、大丈夫。その代わり、地面を一部貰ってもいい?」

「へ、地面ですか? 勿論大賢者様の頼みとあれば」

「ありがとう! それなら早速!」


 許可を頂いたので僕は足で地面の一部を円状にくり抜いた。


「「「「「なんとおおぉおおおお!?」」」」」


 そしたら大長老や村の人が随分と驚いていたよ。


「こ、これが大賢者様の大地魔法か……」

「やはりとんでもないな」


 いや、魔法じゃなくて物理だけど、て、そんなことを言っている場合じゃないね!


「それじゃあ僕はいくね。エイッ! ハァアアア!」

「クモッ!?」


 僕はくり抜いた地面を街に向けて投げた。すぐに伝言に来た蜘蛛を抱きかかえて飛んでいく地面に飛び乗る。


 何か、あれが伝説の浮遊大陸魔法ラピ――みたいな驚く声が聞こえてきたけど、とにかくこれですぐに町にいけるよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る