第146話 魔力0の大賢者、マゼルの町の死闘

「……予想通り。錬金魔法で作り出したものでも、魔力が通ってなければあいつは切れない」


 アイラさんが自信ありげな口調でいいました。見事アイラさんは、なぜマレツが錬金魔法で生み出した物まで切れるかを見破ってくれたようです。


「くそ、こんな単純な手に引っかかるとはな」

「へへっ、どうやら俺たちでも勝てる見込みはありそうだな」

「調子に乗るなよガキが」


 モブマンくんが岩を持ち上げながら自信を漲らせます。それをマレツは吐き捨てるようにして言い返してきました。

 

「……モブマン、追加」

「よっし任せとけ!」

 

 モブマンくんがアイラさんが作成した岩を次々と投げていきます。しかし、マレツは避けることを重点してきました。


「く、くそ当たらねぇ!」

「はっは、どうしたガキども! 当たらなければ意味がないぞ」

「……」


 挑発めいた言葉を投げかけてくるマレツ。完全に遊んでますね……ですがこれはあまり良い状況ではありません。


 錬金魔法で魔力を抜くというのはそれほど簡単なことではありません。魔法で作成したものから魔力を抜くという行為自体にも魔力が消費するからです。繊細な作業なので精神的にも疲弊します。普通に錬金魔法を行使するよりもアイラさんの負担は大きいのです。


 だからこそ、ここは私の出番なのです。


「自在なる電撃――エクレールドミシオン!」


 魔法を唱えたことで雷撃がマレツへと突き抜けます!


「馬鹿が、避けてる隙をつけば当たるとでも思ったのか。甘いんだよ!」


 岩を避けながらもマレツは私の魔法を切ろうとします。ですが、それはわかってました。

「ハッ!」

「何ッ!?]


 掛け声を上げ、私は放った雷撃の軌道を変化させます。それによりマレツの剣が空を切ります。そして私の意思で更に雷の動きが変わり、回り込むようにしてマレツの背中に命中しました。


「グハッ!」


 うめき声を上げマレツが前のめりに倒れそうになります。そのまま転べば、モブマンくんとアイラさんの追撃があたる!


「オラァ!」


 ですがマレツは剣を地面に突き立て支えにし、さらに力を込めて無理矢理後方に飛び退きました。


 お、惜しかったのです!


「くそ、転んでたら岩をどんどん投げつけてやったのに」

「……残念。でも、やっぱりだった。あいつは正面からの魔法ならほぼ斬って消してしまうけど、背後まではカバー出来てない」


 アイラさんは私にもそれを伝え、魔法で背後から狙えないかと聞いてきました。だから私はこの魔法を選んだのです。


「……でもラーサは凄い。流石マゼルの妹。普通そんなに何属性も扱えない」

「え? そ、そうかなえへへぇ」


 私は錬金魔法を自在に操るアイラさんの方が凄いなと思ってたけど、褒められるとやっぱり嬉しい。


「相手も遂に一歩退いたぜ、このまま畳み掛ければいける!」


 モブマンくんが拳を握りしめて力強く言い放ちます。さっきので倒れなかったのは残念ですが、確かに今は私たちの方が押している筈です!


「くくっ、あっはっはっは! いいねぇガキども! 面白い、面白いぞお前ら!」


 ですが、てっきり追い詰められて焦っているかと思えば、マレツは高笑いを決めてから獰猛な視線を私達に向けてきました。


「ダンゼツ様! もっと遊びたいんで一つ解除していいですよね!」

「……好きにしろ」

「はっはー許可は下りたぜガキども!」


 な、なんですか一体? やけに自信がありそうですが……。


「光栄に思うんだな。俺たち神官クラスじゃギフトこそ貰えないが訓練次第で使える技もある」


 ギフト? わからないことばかりですが、何かをしようとしているのは確かなようです。


「今からそれを見せてやるぜ、解放――預流向よるこう!」


 マレツが叫びます。途端に、何か急激に圧が増したような、そんな気になりました。


「な、なんだこいつ……別に何が変わったわけでももないのに……」

「……見た目に変化はない。だけど、何かがおかしい」

「だとしても、俺たちはこいつを食い止めないといけないんだ! オラァ! オラッ!」


 モブマンくんが岩石を次々と投げつけました。そうです。彼の言うとおりです。ここから先に通すわけにいきません!


「無駄だ!」

「なっ!」


 ですが、驚くべきことが起きました。モブマンくんの投げた岩が全て、マレツによって切り裂かれたのです。


「お、おいアイラ、魔力を込めちまったのか?」

「……違う、私は魔力をしっかり抜いた」


 モブマンくんがアイラさんに確認を取りますが、アイラさんがそんなミスをおかすとも思えません。もしあったとしても投げた岩の全てが間違っていたとは思えない。

 

 つまりそこから導き出されるのは。


「こいつ、普通に岩を切ってるってことか!」

「はは、そのとおりだガキども。今の俺は岩だってなんなら鋼だって切ってやるさ!」


 そういいながら意気揚々と大地を蹴り進んできます。さっきより動きが速い!


 どうやらさっき行使した技で、肉体的にかなり強化されているようです。


「……だったら切ってみろアイアンプリズン!」


 アイラが地面に手をやると同時にマレツの正面に鉄の壁、さらに次々と鉄の壁が周囲に現れマレツを閉じ込めました。


「おいおいマジか。流石アイラだぜ」

「……はぁ、はぁ――」


 確かに流石です。しかもあの壁もしっかり魔力を抜いているのでしょう。だけど、それだけにアイラさんの表情に疲れが見えます。より高度な物ほど生み出すのに魔力をより多く消費する上それを抜いているのです。


 しかもさっきから岩石を生み出すために魔力を消費し続けています。アイラさんの魔力はもう残り僅かなはず。


「アイラさん大丈夫?」

「……問題ない。それにこれで一人動きを封じた」

「封じた? お前らは聞いてなかったのか? マレツは鋼だって切ると言ったはずだぞ?」

「は? お、おいおいまさか――」


 その時です。空気を切り裂く音が聞こえ、マレツを囲っていた鉄の壁に亀裂が走りました。


 その直後、壁がずれ落ち、中からにやけた顔のマレツが姿を見せたのです。


「残念だったなガキども」

「それはどうでしょう!」


 確かにさっきよりも更にマレツは強化されています。だけど、私だって手をこまねいて見ていたわけじゃない。


「モールサンダー!」

 

 地面から飛び出して電撃がマレツの背中を狙いました。さっきは背後から狙いましたが今度は背後のうえ、更に下からです。



 敢然に不意を突きました。これで――


「甘いんだよ!」


 ですが、マレツの剣が私の魔法を切り裂きました。そんな、おそらく回転して魔法を切ったのでしょうが目で追える速度じゃなかった。


「だけど、お前はちょっと厄介だから先に始末するぜ」

「……ラーサ!」


 魔法を斬った直後、マレツが私目掛けて駆けてきました。動きが速い、詠唱は間に合いませんしとても逃げ切れるとは――


「私の娘に手を出すなーーーーーー!」

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