第139話 魔力0の大賢者、に頼まれていた彼女
sideドドリゲス
「やれやれ、大賢者の暮らす領地と聞いていたから、冒険者もそれなりにやるかと思えば、序列第5位の神官相手に手も足も出ないとは。拍子抜けもいいところだ」
ローブ姿ではない男がそんなことを口にした。ダンゼツ様と呼ばれていた無精髭を生やした男で、気だるそうな目をしているのに、その口調からは妙な自信が除き見える。
しかし、確かにもう一人のマレツというローブ姿の男に一撃貰ってしまった。それは事実。しかも私の防御をあっさりと打ち破ってです。
「ぐぅううう! そ、そんなあたいが!」
「はは、女を切り刻むのは愉快愉快!」
「姐御から離れやがれ!」
カトレアに容赦なく攻め込むマレツ。すると気配を魔法で消して後ろから迫ったアッシュがマレツに切りかかりました。ですが、マレツは振り返りもせずナイフを片手剣で受け止めてしまう。
「そんな――」
「それが盗賊魔法って奴か? だが無駄さ。攻撃する瞬間には気配が漏れる」
アッシュの短剣を跳ね除け、返す刃がアッシュに迫る。しかし、アローが放った矢に気が付き軌道を変えて矢を斬り飛ばしていった。
しかし、強い――動きもかなりいいし、簡単ではない。本来なら加勢したいところですが。
「フレイ、こっちはあいつを狙いますよ」
「はいマスター!」
恐らく2人の内、立場が強いのは静観を決め込んでいるダンゼツの方でしょう。ならば早いうちに押さえ込んでおいたほうがいい。
「支援魔法――反転式ヘビーウェイト!」
私が得意とするのは支援魔法。しかしそれは何も仲間をサポートするためだけにあらず。術式を反転式に変化させることで相手を阻害する魔法も使用が可能。
このヘビーウェイトは掛けた相手の重みが増し、自由に動けなくさせる魔法。かつて大賢者が使用したという重力魔法のように、重力そのものを操作しているわけではありませんが、これでも十分相手の動きは封じられる。
「フレイ、貴方の魔法も強化してあります。頼みましたよ!」
「任せて! 私のとっておきを見せてあげる! 圧縮の炎、荒々しい朱宴、飲み込む赤熱、放てよ爆炎――ブレイズキャノン!」
これは、フレイもどうやら新しい魔法を覚えたようですね。大賢者マゼル、そしてその妹ラーサ、この兄妹に触発され破角の牝牛も日々絶え間ぬ努力を続けてきました。
その結果が今、ダンゼツ目掛けて放たれる。巨大な爆炎球が身動きが取れなくなったあの男に命中……。
――スパァアアアァアアアアン!
しかし、男に命中する直前、フレイの行使した魔法は真っ二つに斬られ、そして消滅しました。これは、一体何、がッ!?
「ぼーっと見ている場合じゃねぇだろうが」
私の体中を駆け抜ける痛み。それはきっとフレイも同じことだったでしょう。さっき受けた傷など比べ物にならないほどの切り傷、ローブもあっというまに血に染まり、私は前のめりに倒れました。
「全く、見えなかった――でも、なぜ、魔法で動きを封じた筈……」
「はは、魔法? そんなもの魔狩教団には通用しないさ」
魔狩、教団、そうかこいつらがあの噂の。そういえばこの連中は魔法を切ると、そんな話が……でも、解せない。今のは魔法を斬ったどころの話ではなく、何よりこいつは武器らしきものを一切持っていない――
「マレツ、そっちも終わりそうか」
「はは、全く、こいつらも大したことなかったぜ」
「そうか。この程度とはがっかりだが、全員見せしめに首を切り落として持っていけば、少しは面白いかな」
「くっ! やめ、なさい――」
なんとか上半身を起こし、状況を確認しましたが、全員倒れてしまっています。まだ命に別状はないようですが、このままでは――
「はは、大賢者への見せしめって奴か。でも、惜しいねぇ。野郎はともかく、女は中々の美人揃いだ」
「やめとけ。こっちも時間がないんだ。とっとと片付けて終わらすぞ」
「わかりましたよ。司祭には逆らえませんからね」
司祭――あのダンゼツのことか。そしてマレツがアッシュの首を持ち、剣を当てて、だ、駄目だこのままじゃ!
「そこまでにしておくんだね!」
「何?」
「チッ!」
その時、なんとも威勢の良い女性の声が私の耳に届きました。この声は――
「あ、アネさん――」
「あんたは確か、マゼルの町のギルドマスターじゃないかい。どうしたんだいこんなところで?」
「はは、ちょっと色々とあって、情けない姿に」
アッシュの首をかろうとしたマレツをアネさんが強襲し助けてくれたようです。この状況で彼女の存在は非常に頼もしい。
「しかし、主様の領地で随分と勝手な真似してくれたようだね。主様一の従魔であるこのアネ様が来たからには、もう好き勝手させないよ!」
◇◆◇
sideアネ
主様がいない間は、言いつけどおりあたしが領地を見守ることとなった。領内に危険が無いかを常に監視し続けるのがあたしの仕事さ。
大賢者である主様の従魔になってからは、あたしは色々な蜘蛛を仲間にしたからね。蜘蛛たちを四方八方に散らせることで、領内のあらゆる場所を監視できる。
まぁそうは言っても、この領地は比較的穏やかで平和だからね。主様の活躍ぶりも広く知れ渡って盗賊の類も殆ど近づかなくなったからそんな危険なこともおきるわけがない。
そんなことを思いながらわりとのんびりしていたのだけどね、ところが蜘蛛たちから知らせが来た。何かヤバい奴らが近づいているって。それを見つけた蜘蛛は何匹かやられたようだった。
嫌な予感がして蜘蛛のやられた方に向かったのだけど、案の定だった。見たこともないような二人組がうちの冒険者と戦っていた。
いや、戦いとも言えないねこれは。冒険者は皆倒されていて、相手には全く傷を受けた様子がなかった。しかもやられていたのは主様も良く知る連中だった。確か破角の牝牛と言ったね。
その一人が二人組の片割れに首を切られそうになっていた。主様の知り合いをここで見殺しには出来ないしね。すぐに割り込んで爪で薙ぎ払った。
でも、反応がいいね。男は飛び退いて剣を構えてこっちを睨んできたよ。
そして改めて周囲を確認したら、確かギルドマスターだったかな。その男も倒れていたよ。全く冒険者のボスじゃないのかい。こんなところで倒れている場合じゃないだろうさ。
とは言え全員このまま放置はしておけないね。
「あんたらは逃げな」
「が、そう、したいのは山々だけどよ……」
「か、体が動かない」
「大丈夫だよ。お前達!」
あたしが呼びかけるも、全員かなり傷が酷い。だから仲間の蜘蛛を呼んで、全員を運ばせた。町まで運ばせれば誰かがなんとかしてくれるだろうさ。すると二人組の一人が運ばれた連中を指差しながら口を開き。
「ダンゼツ様、追いますか?」
「いや、構わんだろう。それに、こっちのほうが楽しめそうだしな」
全く、アラクネのあたしの姿を見て楽しめそうとはね。随分と生意気な連中じゃないのさ――
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