第131話 魔力0の大賢者、特別制度を知る
ネガメやモブマン、そしてラーサと一緒に魔法の鍛錬や勉強をしてきた僕たち。ちなみにその輪にいつのまにかアイラも加わっていたりした。
話を聞いてラーサだけズルいと何故か言われてしまった。正直僕からしたらラーサにもアイラにも特に教えるようなことはない気がするのだけど――
でも皆で集まって勉強したりするのは結構楽しい。僕は前世ではこのぐらいの年だと師匠と2人でいるほうが多かったからね。ずっと修行してた気もする。
そして楽しいこともあったからか、あっという間に時間が過ぎて気づけば春になり僕も11歳になっていた。
「お兄様……いよいよ、来年学園に入られるのですね」
「え?」
そんなある日、ラーサが僕にそんな話題を振ってきた。ちょっとさみしそうな顔でね。
「……私はどうしてもお兄様よりは後になってしまいますので……あ、でも安心してください! 私だってお兄様の妹として恥ずかしくないよう、後輩として入学してみせますので!」
「あ、うん。ラーサならきっと大丈夫だよ」
「はい!」
春になり暖かな日差しを届ける優しい太陽のような笑みをラーサは浮かべてくれた。
だけど、実際のところ僕はまだ決めあぐねている。何か僕が学園に行くものと周囲から思われちゃってるけど……本当にそれでいいのかなって。だって僕が魔力を持たないのは事実だし、魔法だって使えてないんだ。
それなのに魔法学園に通うのもね……そもそもそれで試験を突破できるのかな? というのもあるけど。
それにラーサも寂しそうだし。兄としては妹を悲しませたくはないものだ。て、こんなのは言い訳みたいなものか。
はぁ、でもどうしようかな、とそんなことを思っていたある日、意外な人物が家に顔を出した。
「おっと、これはまた久しいな魔力0の大賢者」
「……リカルド――ワグナー卿、どうしてここに?」
そう。やってきたのはあのリカルドだった。まさか僕の暮らすローラン領にやってくるとは思わなくて僕もちょっと驚いたのだけどね。
「何、今日用事があるのはお前の父であるマダナイと――妹のラーサだ」
「え? ラーサ?」
「そうだ。どちらもいるのだろう? 既に確認は取れているからな」
「……これはこれはワグナー卿、わざわざこのようなところまでおいで頂けるとは」
僕がやってきたリカルドと話していると、父様がやってきて彼を出迎えた。とは言え父様も何の用件かわかっていない様子で困惑している。
「そんな顔をしてくれるな。別に私は悪い話を持ってきたわけではない。むしろこの家にとって良い話さ」
「良い話?」
「そうだ。貴方のご息女の学園への入学についてのな――」
「お兄様! 私、お兄様と一緒に入学出来るかも知れません!」
「う、うん。良かったねラーサ! 今までの頑張りが評価されたんだよ!」
僕はまだ戸惑いがちではあったけど、ラーサが喜んでいるのに水をさすわけにはいかないし、それに実際いい話だからね。だから一緒に喜んだ。
しかし、リカルドからは父様とラーサが話を聞いたようだけど、どうやらラーサは学園が新しく始めた制度の第一号生として選ばれたとか。
この特別制度は才能ある魔術師を発掘し育成するため、これまでの12歳から入学できる学園とは別に10歳から授業を受けられる特別学区を設けるという内容のものだった。ただこの制度で選ばれる生徒はそれ相応の素質を持った子どもだけとされているようで、そのため試験などは無く、あくまで学園側からの選出のみで決まるとのこと。
そういった事情だから普通入試と異なり、試験というものがない。ただ魔法の披露と面接程度はあるようだけど、それは形式的なものでその時点で落とされることは先ずないようだ。そして当然特別学区で教育を受けたなら基本は12歳になった時点でそのまま学園に入学することとなる。
尤も、著しく成績が落ちたり大きな問題を起こしたりした場合はその限りではないようだけど、そういったことがない前提で選ばれるのが特別学区の生徒だからね。
ちなみに特別学区とその校舎は既存の学園のすぐとなりに建設されているそうだ。それもラーサが喜んだ要因の一つなんだとか。
父様としても特に断る理由もないからね。ラーサも喜んでいるし、受けることとしたようだ。
尤も気になる点もなかったわけじゃないようだけど、リカルド曰く、
『どうも私が特別このローラン家に恨みを抱いているとか、嫌がらせで大賢者に声を掛けないなどと思われているようだが、そんなことはなく、才能があれば声は掛ける』
などと口にしていたようだ。まぁ僕には結局声は掛かってないけど。
それにしても、僕は何となく話が終わりうちを後にする時のリカルドの言葉を思い出す。
『どうやらお前も入学試験を受けるつもりのようだな。まぁ受けるのは自由だ好きにするがいいさ。例え魔力が0でも大賢者であればどんな手を使うか知らんがきっと上手くいくことだろう。お前が合格出来るよう陰ながら応援しているよ』
あいつはそんなことを皮肉まじりに言っていた。それにしても、リカルドまで僕が試験を受ける前提でいて参っちゃうな。
でも、ラーサもこれで僕と一緒に学園に行けると妙に喜んでいるしね……ま、もう少し良く考えて見ようかな。
◇◆◇
「うぅ、大賢者様~ビロスのビロスが大変なんです~」
ある日ハニーがうちに来てどうしても僕に会いたいということですぐに出迎えたのだけど、すると彼女が涙ながらに僕にそんなことを訴えてきた。
とにかく家に上がってもらって紅茶や菓子を出して落ち着いてもらった。涙を流しながらもハニーは焼き菓子をポリポリと食べていた。何か小動物みたい。でも、大変ってビロスに何かあったのかな?
「ハニーさん、ビロスちゃんに何かあったのですか?」
ラーサも気になったのかハニーに問いかける。ズズズッと紅茶をすすった後、ホッ、と一息つき、そしてハニーが教えてくれた。
「ビロスがね、全く動かないの。元気もなくて、鳴き声も上げない。それでね、大賢者様に助けて貰いたくて!」
「え? 僕が?」
「うん! だって、大賢者様なら凄い回復魔法が使えるし、それに……も、もしかしたら大賢者様と会えるだけでよくなるかも知れないし!」
「え? いや、流石に僕に会っただけで治るとまでは――」
勿論、傷ついたりした相手を治せないこともないし、毒や病気でも僕の抗体でなんとかなるようならどうにかできないこともないけど、全く何もしないってわけにはいかないからね。
「……マゼルは鈍い」
「え! 何で!?」
今日も勉強を一緒にしようと来ていたアイラが何故か呆れたように言った。どうして!?
「う~ん、でもそういうことなら行ってあげないとね。あ、でも皆……」
「お兄様、私たちの事は気にせずどうぞハニーさんと行ってきてください」
「……ラーサがそう言うなら私もここでラーサたちと勉強していることにする。でも、ラーサは居残りでいいの?」
「うん……今回はお兄様だけで行ってあげた方がビロスちゃんにも良さそうだし。それに、蜂なら安心……」
うん? 何かラーサの声、最後の方がゴニョゴニョしていて良く聞こえなかったけど、でも大丈夫ならハニーと一緒に森に行くとしようかな。
なので父様と母様に一応森に行くことは伝えておく。今は父様も休暇で家でゆっくりしているからね。
「フンフンフンッ! おおライルも中々筋がいいじゃないか!」
「あ~い」
うん、と言っても父様は庭で素振りをしているけどね。休みでも体を動かしていないと落ち着かないとか。そういえば父様最近抜刀術も色々試しているみたいで最近完成形が見えてきたみたいなことも言っていたね。
そしてライルは僕の弟だ。まだ1歳なんだけど、母様の隣で父様から与えられた木製の剣を振り回して喜んでいるよ。父様は後にライルに剣を教え込もうとしているようだね。今のうちに剣を持たせて興味を持ってもらおうという考えなようだよ。
「父様、精が出ますね」
「おお我が子マゼルよ! いやいや私も中々気が抜けないからな。それにマゼルが贈ってくれた剣に相応しい父親にならねば、お前の弟にも笑われてしまう」
「あ~い!」
「ふふ、全くこの人は親ばかなんだから。でも、ライルも元気で将来も安心できるわね」
母様の言うとおりライルもすくすくと成長していきそうだ。う~ん、それにしても父様の声に反応するライルが可愛い。でも、父様もしっかりヒノカグツチを使いこなしていると思うけどね。
さて、僕は父様と母様にビロスのことを教えて森に行くことを伝えたのだけど。
「うむ、蜂にもいつもお世話になっているしな。マゼルが行って助けになるようなら是非行ってあげるといい」
「蟲使いの一族さんに宜しくね」
「はい、ありがとうございます。それでは行ってまいりますね」
「あ~い!」
ライルが可愛い。一頻り撫でておく。ハニーも凄く愛でたそうだったから抱っこさせてあげたら最初はおっかなびっくりだったけどすぐにライルの可愛さの虜になってたよ。
「おや、主様お出かけかい?」
「うんアネ。ちょっとハニーの村にね」
「へぇ~1人でかい?」
「うん、うちからは僕だけだね。ラーサはアイラたちと残って勉強するみたい」
「ふ~ん、ま、あの子達がそう言うならね。仕方ないあたしも大人しく待つとしようかね」
アネが頭を擦りながらそんなことを言った。何かよくわからないけど、とにかく家のことはアネに任せておけば安心だしね。ま、アネが出なきゃいけないようなことはおきないだろうけど。
さて、皆に伝え終わったし、ハニーの村に向かうかなっと――
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