第130話 魔力0の大賢者、相談にタジタジ
「次は大賢者の鑑定魔法が見てみたいです!」
「え、えぇえええ!」
思わず声をあげちゃったよ。でも、それは参ったな。何度も心のなかで言うけど僕は魔法が使えないんだ。
だからネガメの言っている鑑定魔法は中々に敷居が高いような……。
「ふむ、では大賢者マゼルよ。これが何かわかるかな?」
「え? あ、それはメアリーストーンだね。魔力反応が顕著な石で魔力の込め方で硬度が変化するんだ。それに――」
ギルドマスターのドドリゲスが見せてくれた石について知ってることを話した。一見すると凄く役立ちそうだけど硬度は鉄より低いし、調整は結構手間だからあまり実用的ではなくて前世ではもっぱら子どもの玩具として使われていたのがこれなんだけど。
「これは素晴らしい。最近になってスメナイ山地で見つかったばかりの未解明の石なのにここまでわかるとは。勿論うちでも鑑定士が鑑定したがそれよりずっと詳しい。これが大賢者の鑑定魔法か……」
「へ?」
「僕も鑑定魔法で見てみたけど、あたりさわりのない情報しか得られなかったよ。流石マゼルだね!」
「勿論、お兄様は鑑定魔法においても完璧です!」
「全く、マゼルの魔法はやっぱすげーな!」
いえ、それ魔法じゃなくて物理、でもなくてただの知識です。
「お兄様、私もお兄様の魔法を見てみたいです!」
鑑定魔法はなんか勝手に納得されちゃった。ま、まぁいっか。そしてラーサが目をキラキラさせて僕にお願いしてきた。これは、兄として妹の期待には答えないと! 魔法じゃないけどね!
「それじゃあ、張り切って」
「ま、待ってくれ。それは、ちょっと勘弁してもらっていいかな?」
ラーサに頼まれてつい僕も(魔法も使えないのに)やる気出しちゃったけどドドリゲスさんから待ったが掛かったよ。
「正直大賢者の魔法に訓練場が耐えられる気がしないんだ。今度訓練場そのものを強化しようと思うが、それまで待ってもらっていいかな?」
「確かにマゼルが気合い入れて魔法使ったらギルドごと吹っ飛びかねないもんな」
「いやいや、下手したら町ごと消え去っても……」
えぇえええ! いやいや、カトレアさんとフレイさんから僕どんな目で見られてるの!
「少し残念ですが、確かにお兄様の魔法は絶大です。致し方ないのかも知れません……」
ラーサにも納得されちゃった。僕、本当にどんな風に見られているの?
「でも、色々マゼルの魔法を見せてもらったけど、凄すぎて逆に自信が……」
「確かに参考にはならなかったかもな……」
「お兄様の魔法はそのままでは常人には難しすぎるかもしれません」
「う~ん、確かにマゼルくんの魔法は応用をふっとばして神って感じだもんね」
何それ! 応用をふっとばして神ってどれだけの工程をふっとばしたらそうなるの! そして僕の魔法じゃないんです……。
「その、何か大賢者的なコツとか教えて貰うことは出来ませんか?」
「え? コツ?」
「そうそう。そもそもマゼルはどうやってあれだけの魔法が使えるようになったんだよ?」
そ、そう来たか……それはそもそもの問題が魔法ではないことなんだけど……だからコツと言われてもなぁ。
「その、何というか僕はこうしたいって思ったことを実現するために頑張ったらこうなったってところなんだけど……」
「は? う~ん、それじゃあ正直何もわからない――」
「いや、待って! そうか、そうだったんだね!」
僕の話にモブマンが腕を組んで顔を顰めた。これでわかるわけないよね、と自分でもそう思ったんだけど、何とネガメが何か閃いたような顔を見せて興奮しているよ。
「何かわかったのかネガメ?」
「うん、つまり大賢者マゼルはこう言いたいんだね! 魔法で大事なのはしっかりとしたイメージだって!」
「……へ?」
「どういうことだよネガメ?」
「それはねモブマン。僕たちはこれまで魔法の本に載っていたり教えてもらった魔法をただ再現しようとしていた。君だってそうだろう? 自己強化魔法はこういうものだと思いこんでいた筈だよ」
「お、おう。確かにそう言われてみれば、魔法の効果は決まってると考えていたな」
「それだよ! マゼルは僕たちにそれじゃあ駄目だと、そう言ってくれてるんだ! 先ずしっかりと顕現したい魔法をイメージするんだってね」
「え?」
「流石お兄様! 確かに私も伝え聞く魔法をそのまま発動させようと考えてました! それでは成長が見込めないと、そう苦言を申されたのですね!」
いやいや、僕そんなこと何一つ言ってないから!
「ありがとう大賢者マゼル。マゼルのおかげで僕たちは大事なものに気がつけたよ。これまでのやり方を一度完全に否定するところから始めるのは大変だけど、そうでないとマゼルの足元にもたどり着けない。だから既存の考えをぶっ壊してでも先にすすめるよう、敢えて回りくどい表現で教えてくれたんだね!」
「そうだったのか流石マゼルだぜ!」
「はい。お兄様はただ与えるだけではないのです。大賢者としてしっかり人を導く力を持っているのです」
「うむ、しかしなるほどイメージですか……」
「これは私もいいことを聞いたわ!」
「おう、マゼル、何かまた一つ伝説に残るようなことが増えたようだな。本当、あたいも惚れちゃいそうだぜ!」
「え? だ、駄目です! そんなの!」
な、何か勝手に納得されて話が盛り上がってしまった。ま、まぁ確かにイメージは大事だよ。魔法じゃないけど僕もそれは心がけたからね。
でも、それが魔法に繋がると思っていたわけじゃないんだけどな……しかも偉業扱いに……あとカトレアさんの言葉にラーサが凄い反応してたね。
それはまぁ、冗談に決まってるからいいとして……でも、本当にこれで魔法の修行に役立つのかな?
あれから2週間ほど経ったけど、モブマンとネガメの魔法は格段に上達していた。もう以前とは別物になっていたけどどうやら僕のおかげらしい。本当に!?
「マゼルのおかげで魔法はかなり強化されたと思うんだけどよ。その分魔力があまり持たなくなったんだよな」
「そうなんですよね……マゼルみたいにあれだけの超魔法を使っても全く魔力が切れないなんて羨ましい限りです」
「はは、ま、まぁそれで言ったら僕は元々魔力0だからね」
これはまぁ周知の事実だからね。僕が使ってるのは魔法じゃないってのもあるけど、だから魔力の心配はいらない。
「でも、それならそれで魔法使っても疲れない秘訣が何かあったりしないのか?」
「う~ん、秘訣と言っても、僕だって最初は何度も倒れたけど、それでも続けてたらこうなっただけで……」
「そうか、体の作りが最初から違うってことなの
かな?」
「いや、そうか、そういうことなんだ!」
「おお! ネガメなにかわかったのか!」
また!? え、今ので一体何が!
「つまり大賢者マゼルはこう言いたいんだね! 魔力も筋肉と一緒、一度徹底的に魔法を使って限界まで魔力を消費して倒れることを繰り返すことで、魔力が上がると!」
「おおなるほど、そうだったのか!」
「凄いですお兄様、また魔法の歴史に新たな1頁が刻まれました!」
いやいやいやいや! だから僕そんなこと何も言ってないってば! 大体筋肉と同じでそれで魔力が増えるなんてそんな――
「マゼル! 凄いなお前! マゼルが考案した大賢者式魔力増加法であたいの魔力も上がったよ!」
「流石兄貴だ! 魔力0でも魔力の増加法がわかるなんて!」
カトレアさんとムスタッシュに随分と称賛されてしまった……そう、いつの間に勝手に納得された魔力は筋肉と同じ理論は実際に効果あったようだ。そしてそれも僕のおかげみたいに言われてしまってちょっと戸惑う。
「マゼル~魔法も大分使えるようになったし魔力も上がったんだけどよ。何か細かい制御が難しいんだよ」
「細かい制御?」
「はい。どうも魔法に無駄が出てしまっている気がして、もっと仔細に調整出来ればいいんだけど……」
「やはりお兄様みたいには上手くいきませんね……」
何か相談内容が随分と細かい技術的なことになってきたような……。
「そうだ、マゼルはあれだけの魔法を完璧に使いこなすんだから何かいい方法を知っているんじゃないのか?」
「え? いや……」
それこそ結構な無茶振りだと思うんだけどね。いや、みんな僕が魔法を使えないって知らないのだから仕方ないのだけど。
でも、何か凄く期待に満ちた目でみられてるよ。う~ん、僕が言えることなんて……。
「あ、敢えていうなら基本的に大事にしてるのは呼吸かな……」
「呼吸? いやいや、呼吸なら俺だっていつもしてるぜ?」
あぁ、うん。やっぱりそうだよね。僕のは氣に関係している話で魔法とは――
「そうか、そうだったんだね!」
「わかったのかネガメ!」
また!?
「うん、つまり大賢者マゼルはこういいたいんだね。魔力を呼吸に乗せろと!」
うん、言ってないです。
「こ、呼吸に乗せる、な、何か難しいな?」
「確かに、それはそうだよ。でも、これが出来ればきっと魔法の細かい制御が出来るんだ。呼吸に合わせて魔力を乗せる感じで術式を構築することでね!」
「流石お兄様です。次から次と未知の方法を教授されるその賢豪ぶりに涙が溢れてきそうです!」
また何か勝手に納得された! そして早速その呼吸に乗せる方法を試すそうです。
そして――
「マゼルよ。流石だな、マゼルが考案した大賢者式呼吸法が画期的だと随分と話題になっておるぞ。私は父親としてこんなにうれしいことはない」
はい、結局僕が考案したことになった呼吸に魔力を乗せる方法は効果があったようです。父様からも褒められたけど、いやこれって、僕じゃなくてあそこからそこまでの理論を構築したネガメが一番凄い気がするんだけどね!
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