第129話 魔力0の大賢者、強化魔法の体で模擬戦する

「先ず俺はマゼルの自己強化魔法を見てみたいぜ!」


 モブマンが最初に僕を見て、強化魔法を見せてほしいと願ってきた。


「え~と、それじゃあカトレアさんと模擬戦してみますか?」

「そ、それは勘弁! マゼルとやったらとても持たないって。激しそうだし」

「……カトレアさん、わざと言ってます?」


 あれ? な、何かラーサの目が怖い……わざとってでも何のことだろう? 何故かモブマンとネガメの顔が赤いし。


「おう、中々面白そうなことやってるじゃねぇか」


 すると、急に大きな影が僕たちを覆った。見上げると身の丈3メートル以上ありそうな大きな男が僕を見下ろしてきていた。顔もゴツゴツしていて肩幅も広いからより大きく見えるよ。


「げ! ゲンコツ!」

「おおカトレア~こんなところで出会えるとは天のめぐり合わせだな。それでどうだい? 俺とのことは考えてくれたかい?」

「冗談じゃない。それなら前にちゃんと断っただろ!」

「知り合いなの?」

「え~と、知り合いというか一方的というか、ゲンコツがカトレアにホの字らしくて……」


 へぇ~そうだったんだ。姉御肌なカトレアさんだけど、美人だしやっぱりモテるんだね。


「とにかく、今はマゼル達の魔法を見てやってるんだから邪魔するならあっちへ言ってな」

「マゼル? あの噂の大賢者? このガキがかぁ?」

「ゲンコツ、失礼だぞ」

「おっと、これはギルドマスターまでいるとは、随分と注目集めてるんだな大賢者は」


 ゲンコツは僕をまじまじとした目で見下ろしながら顎をさすった。流石に手も大きいね。


「大賢者様申し訳ない。この男は最近この町にやってきた冒険者で、礼儀がなってないのです」

「おいおい、そりゃないぜマスター。俺だって最低限の礼儀はわきまえてるぜ? おい大賢者、俺がいい子いい子してやろうか?」

「お兄様になんて無礼な!」

「うん? お兄様? へぇ可愛い妹がいるんだな。しかも年の割におっぱいあんじゃねぇか」

「妹を変な目で見るのはやめてもらえるかな?」

「ムッ!」


 つい僕も威圧を込めちゃった。大男が眉を顰める。やっぱり初対面で妹を軽んじられるのは嬉しい気がしないよね。


「お兄様、私の為に怒ってくれるのですね――」


 ラーサはゲンコツの視線から隠すように手で胸を覆いつつ、瞳をウルウルさせた。兄としては当然のことと思うけどね。


「ゲンコツ、大賢者様に謝罪するんだ」

「おいおい勘弁してくれよ。俺は謝るようなことはしてないぜ。大体冒険者たるものそう簡単に頭を下げたら駄目だろ?」

「あんたねぇ、痛い目に合う前に素直に謝った方が身の為だよ」

「俺が痛い目だって? ガッハッハ! なるほど、面白い冗談だ。Bランク冒険者の俺が、大賢者とはいえ子どもに痛い目ってか?」


 うん、見た目で判断されるのもわりと久し振りかも最近はこんなことなかったし。


 あ、でもそれなら。


「別に謝って貰う必要はないよ。それより、お兄さん腕っぷしには自信があるんだよね?」

「おうよ。見ての通り特にパワーに関しちゃ右に出るものはいないぜ」

「なら、僕、丁度強化魔法で模擬戦してくれる相手を探していたから、付き合ってもらってもいいかな?」

「うん? なるほど大賢者だけに強化魔法というわけか。ガキは大変だな。そんなものにでも頼らなきゃロクに戦えないんだから」


 本当は魔法じゃないんだけどね。


「うん、そうだね。それで、相手はしてもらえる?」

「なるほど。よしきた! やってやるぜ。まぁ安心しな手加減はしてやるからよ」


 豪快に笑い飛ばしてくるゲンコツ。かなり自信がありそうだね。もしかしたら本当にものすごい実力者なのかもしれない。


「ゲンコツ、あんた本当とんでもない真似してくれるね」

「なんだ、あのガキを心配しているのか?」

「あたいがマゼルを? はは、面白い冗談だよ。寧ろ相手の実力もわからないあんたをかわいそうに思ってるのさ。だからってあんたみたいな身の程知らずな馬鹿も心配しないけどね」

「言ってくれるぜ。だったらカトレア、俺があいつに勝てたら俺と付き合えよ。お前強いのが好きだって言ってたんだしよ」

「あぁ、もし勝てたらいくらでも付き合ってやるよ」

「マジか! 言ったな! よっしゃ俄然やる気が出てきたぜ!」


 えぇえええええ!? カトレアさんそんな約束しちゃって……本当にいいのかな?


「というわけでマゼル! そいつに目にもの見せてやってくんな! 負けると思ってないけどあたいの貞操がかかってるんだからね!」


 何か腕をブンブンっと振り回しながら凄いことを言ってきたよ。うぅ、責任重大になっちゃった。


「カトレアさんお兄様を賭けに利用するなんて酷いです」

「硬いこと言うなって。大体ラーサだってマゼルが負けるなんて思ってないだろう?」

「え? それは、勿論です! お兄様があんなウドの大木に負けるわけありません!」

「ウドの……かっかっか、妹に感謝するんだな。俄然やる気でちゃったもんねぇ」


 ゲンコツの頭に血管が浮かび上がってピクピク波打ってるね。別に僕は何もしてないのだけど、勝手に挑発されたみたいな雰囲気になっちゃったよ。


「さぁその強化魔法とやらでどっからでもかかってこいや!」

「あ、いえ、そちらからどうぞ」

「は?」


 そして凄んだ声でそんなことを言ってきたけどね。なんとなくはわかるんだけど、一応実際に攻撃を見てみたいから先手は譲ろうと思う。それに一応名目は魔法を見せることだし。


「強化魔法を見せる必要があるので、先手はお譲りしますよ」

「……はは、いい、度胸だこら! 泣いても許してやんないからな!」


 そしてゲンコツが大きく一歩踏み込んだ。図体が大きいからそれだけで腕の届く間合いになり、握り締めた拳を振り下ろしてきた。


「オラァ! これで終わりだ! どうだカトレア、俺の勝ちだ! へへ、勢い余って大賢者をぺちゃんこにしちまったぜ。治療係を呼んだほうがいいかもな」

「「「「「「…………」」」」」」

「ん? おい聞いてんのか! 本当に死んじまうぞ!」

「いや、あんたこそ何言ってるんだい?」

「は?」

「呆れたものですね、まぁ、それだけお兄様の実力が凄まじいということでしょうが」

「あ、あぁ、すげーぜマゼル! 指一本であんなデカい拳を受け止めるなんて!」

「は? ゆ、指一本?」


 うん、そうだね。何かゲンコツは僕が潰されたと思いこんでいたみたい。子どもの僕はまだまだ小さいから、拳に隠れた僕が見えなかったんだろうね。


「僕はまだ元気ですよ」

「イィイィイィッ!?」


 なので指をずらして拳も動かしてあげることで相手からわかるようにしてあげた。そしたら何か凄い顔をして驚いていたよ。


「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁあああぁッ!」


 そして今度は何度も何度も拳骨を振り下ろしてきた。でもまぁ、これぐらいなら指だけでも捌けるかな。


「強化魔法も鍛えるとここまで出来るのかよ……」

「お兄様の大賢者流強化魔法は伊達ではありませんからね!」


 ま、魔法じゃないんだけど、今回は仕方ないね。何故か大賢者とついているのが気になるところだけど。


「く、くそ! だったら踏み潰してやる!」


 今度は僕を踏み潰そうとしてきたよ。でもそれも指一本で支えてあげる。


「うぎぎぎぎぃ! 潰れろ潰れろ!」


 顔を真っ赤にさせて体重も乗せてきてるけどあまり重さを感じないな。見た目200kg以上はありそうなんだけどね。


「はい」

「は? なななななななっ!」


 僕はそのままゲンコツを持ち上げてみた。転びそうと思って慌ててるみたいだけどバランスは僕の方で取っているからね。


 でも、これで納得してくれてるかな? う~ん、念の為――


「よっと」

「うぉ、どどどど、どうなってんだこれぇええええぇえええ!」


 僕はそのままゲンコツを上に投げるようにして逆さまになって落ちてきたところで頭を指で支えてあげた。


「お~いゲンコツ、まだやる気かよ? いい加減素直に負けを認めた方がいいんじゃないかい?」

「み、認める! 認めるよ! 馬鹿にして悪かった! 謝るからもう勘弁してくれぇえええぇええ!」

 

 あれ? 何か悲鳴上げられちゃった……Bランクの冒険者だと言っていたしこれぐらいなら大丈夫かなと思ったんだけど、うん、でも参ったと言ってるから床に戻してあげた。


 すると地面に膝を付けて頭をこすりつけるようにしながら、生意気な真似して申し訳なかった! と凄く謝罪されちゃった……あくまで模擬戦の相手のつもりだったんだけどね。


「本当に半端ないぜマゼル! 強化魔法も鍛えたらこんなことが出来るんだな!」

「当然ですが、でもお兄様の域に達するのはそう簡単ではありません。お兄様だから簡単に見えるだけですから」


 興奮するモブマンにラーサが説明してくれていた。ただ、魔法じゃなくて普通に身体能力だったりするんだけどね――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る