第128話 魔力0の大賢者、新しい制度を提案

「実は……ワグナー家が魔法学園都市のトップとなってから随分と制度にも変化があってな。元々魔法学園に関しても貴族も平民も平等に分け隔てなく教える機関を作るというのが目的で出来たものだった。だから授業料も平民であっても苦もなく通える程度であり、勿論試験についてもそこまで高いものではなかった。一応現在でもその理念は保たれているという名目であり、平民であっても入学試験を受けるのは可能だが……」

「もしかして実質が伴っていない? 確かに受験料も随分と高いみたいだけど……」

「うむ、それに貴族から色々と融通してもらい、その見返りにその貴族の子息などを優遇しているという話もある。勿論これは本来の学園の理念からは遠くかけ離れたものだ」

「そんなことが……でもワグナー家はあくまで東の魔法学園都市の理事長だよね? あまり勝手なことをしていたら他の理事長はよく思わないんじゃ?」

「……ふぅ、だからこれはあまり聞かせたくなかったのだがな。だからこそワグナー家は他の学園都市にも関与し自分たちに都合のいい関係を築いていたとそんな話も一部で囁かれているのだ」


 何か聞いてると色々と問題も抱えてそうだったりもするのだろうか?

 

「でも、それは陛下は知らなかったのかな?」

「いや、勿論陛下はご存知だ。そしてだからこそ殿下を魔法学園に通わせたかったのかもしれない。学園は完全に独立した組織でもあって、国からは干渉しにくく内情もつかみにくい。しかし王子自らが学園に通えば、外からではわからないことも掴めるかもしれない」


 あ、そういうことか。陛下もそこは気にしていて、だからこそ殿下が魔法学園に行くことを喜ばしく思っていたのかも。尤も魔法学園を卒業できればそれはそれで経歴に華を添えることにはなるようだけど。


「私としてはマゼルにも勿論学園に進んでほしいし、マゼルも当然行きたいと思っていることだろう。だが、ワグナー家が関わってるとなると、嫌な思いをするかも知れないと心配になってしまってな。全く大賢者の称号を持つマゼルに余計なお世話かもしれないが」

「そんな、僕のことを思ってのことですし。それに学園についてはそのようなこと特に気にしてはいませんよ。僕は無理してまで――」

「むぅ、やはりそうか! 全く私としたことが杞憂が過ぎたな。ワグナーが何をしようがそんなものは跳ね除け、見事試験を突破してみせるとそういうことだな!」

「え? いえ、そうでは……」

「みなまでいわなくてもいい。わかった、私も覚悟を決めよう。学園の費用も気にしなくていいからな! そもそも大賢者米やスメナイ山地の開拓のおかげでローラン領はこれまでにない好景気に湧いているからな!」


 うぅ、また何か勝手に納得されてしまった……でも、好景気か。それなら――


「父様、その、僕のことは一旦置いておくとして、モブマンとネガメのことで1つ思いついたことがあるのです」

「うむ、思いついたこととは?」

「はい。実は――」






◇◆◇


「え! 補助金制度!?」

「うん、正式にローラン領で施行されることになったんだ。魔法を真剣に学ぶ意思がある子どもたちには学園に入るための試験料と入学後の学費を負担する。勿論誰でもというわけじゃなくてある程度条件があるし、面接もあるけど、それで認められれば家の負担も大分減ると思うよ」


 僕が2人にそう説明するとお互いに顔を見合わせた後、凄く喜んでくれた。


「お兄様は素晴らしいのです。この制度を提案したのは何を隠そうお兄様なのですから」

「そうだったのか! でも、もしかしてマゼル、俺達のためにその制度を?」

「う~ん、きっかけは2人から話を聞いたからだけど、2人だけ特別視したというわけではないよ。ただお金が掛かるからという理由で魔法を真剣に学びたいと思ってる人が諦めるのもちょっと違うかなって」


 勿論これは本来学園側が考えなければいけない問題だけど現状がそうでないからね。なら領地側で対応できないかなと思ったんだ。勿論学園側を是正出来ればそれが一番なのかもだけど、それは一朝一夕でできることじゃない。


「でも、それ領主様が全て負担してくれるのだよね? それはそれでもうしわけない気も……」

「それは心配ご無用です。お兄様はそこまでしっかり考えてくださっております。例え一時的に負担することになっても、その結果優秀な魔法使いが育てば、それが後の財産になるわけですから」


 そうだね。魔法使いが育てばその力で将来的にローラン領の助けになってくれるかもしれない。そういった点も見越しての制度だ。


 そしてこの数日後、モブマンとネガメは面接を受けた。勿論忖度なしで、面接官も冒険者ギルドから派遣してもらった魔法使いに見てもらった。


 その上で、2人は見事補助金対象者になれたよ。


「マゼル、本当にありがとう。うちの親も凄く喜んでたぜ!」

「うちもだよ。もう大賢者マゼルに足を向けて寝られないって」


 いや、それはもう存分に向けてもらいたいです。


「でも、こうなったら意地でも試験に受からないとな」

「はい。ですから大賢者マゼル! ビシバシお願いします!」

「私もお兄様にしごかれる覚悟は出来てます!」

「え、えぇ!」


 そういえばそうだった……僕が魔法を教えるってことになってたんだっけ……でも、どうしよう。はぁ、とにかく先ずは知識から見ることにしようかな。これなら僕も勉強していたからもしかしたら役に立てるかもと思ったけど……。


「あ、頭が、頭がぁああぁああ!」

「しっかりモブマン! これはまだ基本的な魔法構築理論だよ!」


 うん、ラーサとネガメについては全く問題なさそうだったんだけど、モブマンは勉強がかなり苦手そうだよ……とにかく、知識的なことは僕もなるべくわかりやすいよう教えてあげたけど。


「すげー! これならしっかり頭に入る! さすがマゼルだぜ!」

「うん、役に立てたなら何よりだよ。あ、それとこの部分はモブマンの自己強化魔法に応用できると思うから」

「おお、なるほどそうか!」


 ふぅ、とりあえず僕の知識は役立ったようだ。よしこれで何とか乗り切ろう!


「なぁマゼル、勉強もいいけど、そろそろ魔法の実技を教えてくれないか?」

「そうですね。座学もそうですが実技も大事ですし」

「私もそろそろお兄様の魔法を見て感じて、そして手取り足取り教えてもらいたいです!」

「何かラーサの言い方とか聞いてるとドキドキするな……」

「ふ、不謹慎ですよ! そんな!」


 うん、どうやら甘かったみたいです。やっぱり実技も言われるよね。そしてモブマンもネガメも妹相手に何を考えているの!


 それはそれとして、実技に関しては冒険者ギルドに練習場を貸してもらえることになったからそこで見ることになったんだけどね。


「おおマゼルじゃん! それに妹とあと2人も前見たな!」

「蟲騒動依頼ですね」

「相変わらず大きい……」

 

 モブマンどこ見て言ってるの! ふぅ、そしてやってきたの破角の牝牛のカトレアさんとフレイさんだった。


「そういえば私、今度新しい制度の面接官に選ばれちゃった。あれももしかして大賢者様の提案?」

「はい! お兄様の提案した偉大なる大賢者補助金制度です!」

「ちょっとまって! 頭の大賢者いらないよね!」

「あぁそれなら正式に大賢者補助金制度になったと私も聞いてますよ」


 ギルドマスターのドドリゲスさんも話に加わって教えてくれた。大賢者を冠にしたの多すぎではないでしょうか?


 そして何故かカトレアさん、フレイさん、ドドリゲスさんも見ている中で魔法の実技を僕が見ることになった。フレイさんとドドリゲスさんが教えてくれた方がいい気がしないでもないけどね。


「むんっ! やぁ! おりゃ!」

「ふむ……」

「ど、どうだったかな?」

「悪くないんじゃないかな? ただ、本当に悪くない止まりなのがな」


 モブマンは自己強化魔法が主体になる。だからカトレアさんが強化したモブマンの剣を受けてくれたんだけど、悪くないけど、それだけという判断だった。それは、僕にもわからないでもない。


 それに自己強化魔法は本来魔法がそれほど得意でない戦士でも扱う魔法だ。だからそれだけだと学園に入学するにはインパクトが弱く、試験に合格するのは難しい。

 

 後はネガメだけど、彼は鑑定魔法を磨いて挑もうとしているみたい。ただこれも試験を突破するには物足りない印象を受ける。


 ちなみにラーサに関しては正直問題ないんじゃないかなと僕は思う。何せ風と火と雷の魔法を順番に見せたからね。普通は1属性を極めるだけでも大変なのに、とフレイさんが自信をなくすぐらいだったし。

 

「マゼル、お前の魔法も見せてくれ!」

「僕もみたいです!」

「お兄ちゃん!」


 そしてやっぱりこうなってしまった。皆期待の目で僕に魔法を見せてと言ってくれてるけど、でも魔法使えないからね、本当はね!

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