第126話 魔力0の大賢者、10歳になる

 今日、ヘンリーから手紙が届いた。


『この手紙を読んでるころ、僕はきっともうこの国にいないだろう――』

 

 ヘンリーから届いた手紙の書き出しなこうだった。そして直後にこう綴られており――


『そう! 僕は見事、魔法学園の試験で首席となり堂々と入学できたのだからね! さぁ次はマゼル君の番だよ我が友よ。君が2年後魔法学園にトップで入学する日を楽しみに待っているよ。あぁそうだ。実は学園では――』


 と、学園に無事入ることが出来たという報告が綴られていたんだ。それ以外にも、10枚以上に及ぶ形で学園でのことと後、何故か詩が認められていたけど、とにかく僕が入学する日を楽しみにしているという内容だった。


 ふぅ、それにしても早いものであの王女様誘拐事件から時が経ち、僕は10歳になった。そしてついこの間、妹のラーサも8歳になった。


 父様も大分指導官の仕事も板についてきたみたいだね。まだまだ改善しないといけないことが山盛りとかで家に帰ってからも机に齧りつくようにして計画を練っているみたいだけど、同時に領主の仕事もしているのだから尊敬しちゃうよ。


 そうだ、変わったことと言えば母様が無事赤ちゃんを産んでくれて、僕に弟も出来た。前世ではあまり家族に関してはいい思い出はなかったけど、生まれ変わったら妹だけじゃなくて弟も出来るなんて、何か凄く幸せな気がする。


 ちなみに弟は魔力の数値は12だった。ラーサ程ではないけど平均よりちょっとだけ上だ。でも、何よりお父様を喜ばせたのは、生まれて間もなくして父様が持たせた木製の剣に反応してキャッキャと喜んだことだ。


 それを見て、これはきっと将来凄腕の剣士か騎士になるに違いない! と興奮していたからね。母様は気が早いって笑っていたけど、家から大賢者と大魔導師と大剣聖が生まれると大喜びだった。うん、みんな大がついているね。


 でも、大剣聖っているのかな? 僕の記憶にもないのだけど、新しく出来たのか希望なのかはちょっとわからないや。あ、そういえば父様はあれから正式に剣聖の称号を賜っていたよ。


 父様もゴブリン戦で凄く活躍していたし、指導官としての腕も評価されていて、その結果剣聖の称号を授与しようという話になったんだとか。


 剣聖になるのは父様の夢だったから、決まったときには感無量といった様子だったね。家族で一杯お祝いしたよ。


 あとは大賢者米の輸出も調子が良くて、注文も増えて水田の規模も拡大中だ。スメナイ大山地の開拓も進んでいて村がもうすぐ完成する。


 そう考えると、領地の変化も大きいね。さて、ヘンリーは僕にわざわざ手紙を送ってくれて期待してくれているみたいなんだけど……学園は、流石に無理だよなぁ。


 今の僕にとっては悩みの種だ。正直これまでは学園に通う気なんてなかったしね。でも、ヘンリー王子からここまで言われると、やっぱり申し訳ない気持ちにもなる。


 でも、学園には色々厄介な問題もある。あれから父様と話してなかったけど、東の魔法学園都市の理事長はあのリカルドだからね。


 どうもワグナー家に僕は目をつけられているようだし、本人は気にしてないみたいな事言っていたけど、弟のマイル・ワグナーが捕まって没落したことに僕も関わりがある。それについて密かに根に持っている可能性は十分にある。


 そんな相手が理事長やってるわけだし、学園に通うことになったら色々面倒なことにもなるかもしれない。


 それを思うとね……。


「お兄様――」


 僕がそんなことを含めていろいろ考えていると、ラーサが部屋に入ってきた。8歳になったラーサ……なんというか女の子は成長が早いと言うけど、ラーサもまた大人っぽくなってきた気がする。


 成長も早いし、うん、主になんというか女性の主張が……ちょっと驚くぐらいだよ!


「どうかしたのですかお兄様?」

「いや、うん、なんでもないよ、え~と、そうそうヘンリー王子から来た手紙を読んでいたんだ」

「あ、そう言えば手紙が届いていると言っておりましたね。何が書かれていたのですか?」

「うん、試験に合格して魔法学園に無事入学出来たって。しかも首席だって言うんだから、やっぱり王子は凄いよね」

「確かに王子も凄いですが、きっとお兄様も試験を受ければそれぐらい出来ますよ」

「え?」


 ラーサがニコニコとした笑顔で僕を見ている。何か凄く期待に満ちた瞳だね。


「はは、でもほら、学園に行くと決めたわけじゃないし……」

「え! 行かれないのですかお兄様? 私はお兄様と学園に通える日が来ると楽しみに思っていたのですが……」


 うん、ラーサは魔力が高い。何せ8歳で判定した魔力測定値が800だ。魔導師と呼ばれるほどの使い手でも魔力が500もあれば凄いと言われるのにラーサはその値を大きく上回っている。このまま行けばあと数年で4桁に達するだろうね。


 そして僕はやっぱり0だ。わかっていたけどね。でも、それが原因で逆に大賢者なんて呼ばれることになっているのだけど。


「お兄様……」

「あ、うん。そうだね、僕もまだ進路を決めきれてはいないんだ。学園というのもいいかな~とも思うけど、少し考える時間が欲しいかな……」

「なるほど……でもそう考えて見ると既に大賢者として誉れ高いお兄様が今更学園に行って何を教わるのかという考えも……あ! それならいっそ教師としてはどうでしょう?」

「はは、流石にそれは飛躍し過ぎかな」

「そんなことはありません! お兄様ほどの魔法の使い手であれば、教師として引く手あまたかと!」


 ラーサが興奮気味に語り迫ってきた。ち、近い近い! 顔が近い! 


 ふぅ、大体からしてそもそも僕は魔法が使えないからね。魔法に見えてるの全て物理的な力だからね! そんな僕が教師は流石に無茶が過ぎるし。


 勿論それは生徒としても一緒だと思うけどね……。


 とにかく、このまま部屋にいてばかりじゃその話ばかりになりそうだ。今日はちょっと落ち着いてるし気分転換に町にでも下りてみようかな。





「おお大賢者マゼル様だ」

「妹君のラーサ様もご一緒ですな」

「いやはや、ありがたいことです」


 うん、町に下りてみたらそれはそれで、何か凄く注目されてしまった……。


「大賢者様、この間はうちのを助けて頂きありがとうございます」

「え? あ、もしかしてあの時の? はは、たまたま大鷲に捕まってるの見つけただけだから大したことでは」

「マゼル様! 畑を荒らしていたアンタッチャブルモールを追い払ってくれてありがとう!」

「え? あの畑の方でしたか」


 ふぅ、何か色々感謝もされてしまった。そういえば父様が指導官として出ている間は少しでも助けになれればと領内を色々見て回っていたんだった。


「ふふ、お兄様はやはり大人気です。既にローラン領のシンボルでもありますものね」


 ラーサは僕が町の人に声を掛けられたり感謝されている姿を見れるのは嬉しいそうだ。あまり大げさにされると僕としては弱ってしまうのだけど。


「マゼル!」

「マゼルく~ん」


 そして少し落ち着いてきたなと思ったころ、僕の名前を呼びながら駆け寄ってくる2人が見えた。モブマンとネガメだね。2人とはよく遊んでいるからもう顔なじみだ。最近はちょっとバタバタしててあまり遊べなかったけどね。


「良かったマゼル来てくれて」

「え? 良かったって?」

 

 そんな僕に安堵の表情を浮かべる2人。何かあったのかな?


「実は、僕たちマゼルくんに相談があったんだ」

「相談? 僕に?」

「おお! 実は俺とネガメに魔法を教えて欲しいんだ!」

「え? ま、魔法!」

「うん、お願いだよマゼルくん!」


 そ、そんな、僕が魔法って――

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