第125話 魔力0の大賢者、の父、騎士達をあしらう

sideマダナイ


 さて、王城に趣き、訓練場に集まった騎士達から早速奇譚のない意見を貰った私だったが、どうにも一部の騎士は私に対して不満が多いようだ。


 やはりかつて将軍であり軍の総督でもあったガーランドを心酔していた者もそれだけ多かったということか。それ故にガーランドの権威を失墜させたと私達は思われてしまっているようだ。


 既にガーランドはこの世にはいないが、死してなお影響を残すとは。勿論これがいい方向に向けば問題ないのだが、彼らの態度を見ているとガーランドの悪い面が色濃く出ている気がしてならない。


 王国として騎士団の今後を不安視するのもわかる気がする。とにかく、今日は大事な初日だ。私の立場はここで明確にしておくべきだろう。


「さて、他にはいないのか? 遠慮する必要はないぞ。今も言ったが私に不満があるものは遠慮なく前に出てくるがいい」


 騎士達が隣のものや周囲の騎士と会話し、途端に周りが色めき立った。それから暫く待っていると騎士達が続々と前に出てきた。数は、ふむ全部で100人か。


 ただいくら遠慮なく出てこいと言ったにしてもこれでも全体の一部だろうな。明らかな不満はなくとも心の奥底で燻っているものとているだろうし、前には出ず様子見で私がどれだけやるか見てやると思っているものもいるはずだ。


 そう考えれば、私に不満を持つのは更に倍か3倍程度はいると考えるべきだ。そういった者にもはっきりわかるよう、私も少しは気合を入れなければな。


「これで全員か、本当にいいのだな?」

「おいおいおっさん。強がりはそこまでにしておけよ?」

「王国を誇る騎士団の内、100人が出てきたんだぜ?」

「実は内心焦ってんじゃねぇの?」

「全くだ。言わなきゃ良かったと後悔してるんだろ?」

「後悔? はは、心配は無用だ。寧ろ思ったより数が少なくて驚いているぐらいだからな」


 騎士達の額がピクピクと波打ち一様に満面朱を注ぐといった様相だ。こちらを挑発していたつもりだろうが、逆に冷静さを欠くとは確かに精神的な脆さが目立つな。


「腹立つおっさんだ。こうなったら先ず俺から行かしてもらうぜ。あんたもさっさと剣を取りな」


 ハイデルが一歩前に出てそんな事を言ってきた。手には刃のない模擬剣が握られている。私の分はカレント殿が持ってきてくれていた。騎士達の態度に思うところはあるようだが、私がけしかけた形でもあり、静観を決めてくれているのだろう。それはヤカライ殿にしても一緒のようだ。


「ふむ、何か勘違いしているようだな」


 私はカレント殿への礼を口にし模擬剣を受け取りつつ、ハイデル、いや前に出てきた騎士全員に向けて言うが。


「は? 何だよ。まさか今更ビビったのか? ふん、まぁこの中じゃ確かに俺が一番強いとは思うが――」

「私が勘違いしていると言ったのはそういう意味ではない。一人ずつなど相手していても仕方ないからな。全員纏めて掛かってくるがいい」

「何だと?」

「俺たち100人全員をいっぺんに相手するっていうのかよ?」

「そうだ。何度も言うが遠慮の必要もない。本気でくるがよい」


 騎士達の怒気がより強まった。随分と熱くなっているようで肌に感じる温度が2、3度ほど上昇した気がする。


「どうした? もう始まっているぞ? 実戦のつもりでこい。それとも私から攻めて欲しいのか?」


 腰だめの構えで、私は剣を抜くこと無く鞘に収めたまま、迎え撃つ姿勢を取った。


「何だその構え?」

「舐めやがって……剣も抜かないでどう戦おうっていうんだ……」


 どうやら騎士達は私が手を抜いていると思っているようだ。だが100人を同時に相手するのに舐めてなどいない。これが抜刀術の構えなのだ。


 尤も本来の刀では無いため、効果はかなり落ちるが、それぐらいが丁度いいだろう。


「だったら、全員でやるぞ! こいつがこう言ってやがんだ!」

「死んでも文句はいうなよ!」

「むしろぶっ殺せ!」

「ふん、死なせないにしても全身の骨が粉々になるぐらいは覚悟しろよ!」

「やれやれ野良犬じゃあるまいし、お前たちとて一応は騎士なのだろう? ならば口ではなく腕で示してみろ」

「「「「「「「「「「舐めてんじゃねぇぞゴラぁああぁあァ!」」」」」」」」」」


 騎士達が一斉に私に襲いかかってきた。100人の騎士が纏めて掛かってくる様相は中々に迫力がある。


 そして私を囲むようにして、前後左右から剣戟が飛んできた。逃げ道を塞ぎ、確実に攻撃を当てるつもりなのだろう。


「だが甘い!」

「「「「ぐわぁああぁあああ!」」」」


 私が剣を抜くとほぼ同時に仕掛けてきた四人が吹っ飛んだ。確かに逃げ場を封じ攻撃するという手は間違いではない。だが、接近戦においては同時に来るのは最大でも四人だ。それがわかっていれば対処のしようはある。


「ば、ばかな、今、あいつ何した?」

「剣を抜いたのか?」

「さっぱり見えなかったぞ……」


 ふむ、一人として抜くのが見えなかったか。ヒノカグツチではないから本来の一割も速度は出ていないのだがな。


「ひ、怯むんじゃねぇ! こっちはまだ90人以上いるんだ! どんなに強がっていてもいずれ体力が尽きる!」


 そして再び騎士達が襲いかかってくる。なるほど、確かに並の体力では100人を相手しては持たない。だが、私は並のつもりでここには立っていないのだ!





「つ、つぇえ……」

「あ、ありえねぇ、なんだよこれ……」

「誰だよ、凄いのは大賢者で、親父なんて大したことねぇとか言ったのは――」


 ふむ、これで全員か。結局全員倒すのに10分と掛からなかった。尤もこれがマゼルなら10分ところか10秒、いや1秒持つかも怪しいだろうが。


「指導官の強さが身にしみてわかったようだな」

「ぐ、くそ、こんな馬鹿なことが……きっと何か卑怯な手を」


 ハイデルはまだ納得がいってないようだ。そんな彼をカレント殿が見下ろし。


「馬鹿かお前は? 卑怯どころか指導官は本来の力を全く見せていないのだぞ? マダナイ卿が本来の力を発揮するのは愛用の刀という得物を持ったときだ。模擬剣の時点でその力を万全とは発揮できていない。その相手に手も足も出ていないのだから貴様らとの差など火を見るより明らかだ」

「な、そ、そんな……くそ!」


 正直、カレント殿が語ってくれたことを私自ら語るのは自画自賛みたいで憚れる思いだったので助かったとも言えるか……。


「さて、これで私の実力はわかってもらえたかな?」

「ぐ、くそ、絶対、絶対いつか抜いてやる!」

「うむ、その気概はよし。それぐらい強気でなければな。だがそこで見ているお前たちもよく覚えておくがいい。私がここに来たのは肉体や技術的な強化の為、だけではない。心の強化も課題としている。だが、今見ている限りお前たちの心についてははっきり言って最悪だ。だから一つ言わせてもらう。私はお前たちに好かれようなどと思って来てはいない。嫌いなら嫌いで結構だ。気に入らないと言うならそれもいいだろう。だが、だからといって陰でこそこそとするな! 言いたいことがあるならはっきりと言え! プライドが少しでもあるなら騎士として恥ずかしい真似をするな!」


 語気を強め言い放つと、特に倒れている騎士達は悔しそうにしながら私に強い視線をぶつけてきた。うむ、へこたれたりくさってはいないようだな。なら、まだ立ち直れる。


 しかし、この件で私はより多くの敵を作ってしまったかもしれない。だが、それぐらいが丁度いいだろう。意識を変えさせようというのなら先ずはぶつかりあわないとな……さて、ここからが大変だが、息子に負けないよう私も気合を入れて頑張らねばな――

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