第123話 魔力0の大賢者、父様を見送る
メッサとの面会も終わり、僕は父様に報告に来た。謁見室ではなく父様の私室で話をする。
「以上、メッサの発言です。やっぱり思ったとおりメッサは洗脳されてる可能性が高いと思う」
「ふむ、メッサは宮殿に仕えるメイドの中でも優秀でお前たちの面倒もよく見てくれていた。確かに父親が罪人として処罰されたりといった過去はあったが、メッサはそれを負い目に感じることもなく頑張ってくれていた筈」
「だからこそ私としても解せませんでしたが、洗脳ですか……それは魔法で?」
「いえ、むしろ魔法ならまだ良かったかも知れないのだけど、魔狩教は相手の心に上手く訴える形で精神的に支配しているようなのです。だからこそ厄介と言えるかと……」
「教団に心酔しきっているということか……本人も完全に吹っ切れていたはずの弱みを上手くついて信者とし、更に魔法や魔法使いに対する恨みと変えこのような真似をさせているわけか……全く愚劣で卑怯な連中だ!」
父であり王でもあるルイス・マナール・ロンダルキアが机を強く叩きつけた。拳がぷるぷると震えて顔にも怒りが満ちている。
マゼルの活躍もあって妹のアリエルは助かった。マゼルには感謝しかない。だけど、逆に言えばマゼルがいなければ妹がどうなってたか……僕は今回自分の力不足をまざまざと見せつけられてしまった。
しかもメッサの話を聞く限り、魔狩教団のやり口は周到でそれでいて邪悪だ。決して野放しには出来ない存在だけど――
「しかし……まさかメッサ以外全員死ぬとはな……」
父様が肩を落とす。そう、マゼルの手で捕まったあのマサツもそうだが、あれから間もなくして死体として発見された。勿論枷もしていたし口も封じて舌も噛めないようにしていた。
自殺などさせないために、だけど、死んでいた……心臓が止まっていたらしいが原因は不明なようだ。薬を使った形跡もない。
魔狩教団はあまりに謎が多い組織だ。魔法が使えない筈なのに魔法が切れるというだけでも信じられないけど、今回のことも奴らの仕業だというなら、組織の底が知れない……。
メッサだけは死ぬことはなかったけど、恐らく組織についてまだ深くは知らないというのも大きいのだと思う。実際教団の本拠地がどこにあるのかも、奴らが言っていた階位に属する人物についても全く知らない。
魔法でチェックさせたけど、知らないという点は本当だった。だから死なずに済んだのかもしれないが、暗に連中が忠告してきているとも言える。
王に親しいものであっても、油断は出来ないのだぞということを――
「父様、念の為、騎士も含めて全員を調べた方がいいかと思います」
「そうだな……全く厄介な課題を残してくれたものだ」
父様にとって、いや、国にとって頭を悩ます問題だ。でもこれは国として最優先で取り組まなければいけない問題とも言えるだろうね。
「ところで父様、メッサの処遇なのですが……」
「うむ……残念だが宮殿に仕えるのは当然不可能であるし、アリエルは助かったがこれだけのことをした……それ相応の罰は受けざるを得ないだろう」
「それはわかるよ。だけど、僕から一つ提案を」
「提案?」
「はい、メッサは確かに罪を犯しました。だけど、それも教団の洗脳によるもの、だから、治療を優先させる形とはいかないかな?」
「治療?」
「はい。これは今後の課題にも関係すること。ここでメッサの洗脳を解くことはある意味では教団への対策に繋がるからね。勿論洗脳されないことに越したことはないけれど、洗脳を解く方法が確立出来れば、教団への牽制にも繋がる」
僕の提案に父様は腕を組んで唸り声を上げる。やはり悩みどころではあるのだろうけど。
「父様、勿論メッサの行為は罪は罪、だけど、このままではメッサは自分の行為を正しいことと思い込んだままだ。それは真の意味で罪を償うことは出来ない。メッサ自身に己のやった行為がどれだけ罪深いことだったかを認識させた上で償わせなきゃ、意味がないと僕は思うよ」
「……そういう考えもあるか」
「貴方、私もヘンリーの提案には賛成です。勿論メッサは罪を犯しました、でもだからこそヘンリーの言うように自らの過ちを認識させてあげなければ贖罪にはつながらない」
母様の後押しもあり、暫く悩んだ父様であったけど。
「わかった。その方向でなんとか出来るよう教会とも相談しよう。教会側も魔狩教団の存在には業を煮やしているであろうし、治療という点には注目すべき点もあるだろうからな」
良かった、ここから先は父様の仕事だけど、父様の手腕なら上手くやってくれると思う。
「ところで父様、話が変わるのだけどいいかな?」
「うむ、構わないぞ。何だ?」
「はい、あのリカルド・ワグナーからの件ですが」
「うむ、魔法学園への入学についてか」
「はい、それなのだけど、実は断ろうと思うんだ」
「な!?」
「まぁ……」
父様が絶句し、母様も驚いた顔をしている。いささか唐突すぎたかもしれない。
「それは、魔法学園に通うことが嫌になったということか?」
「そうではないのです父様。僕がいいたいのはあくまで試験免除で特待生として迎えたいという話を断りたい、そして僕はしっかり試験を受けて堂々と入学したいのです」
「――ほぅ、しかしそれはなぜだ?」
「父様、マゼルは特待生として迎え入れては貰えないのだよね?」
「……あぁ、奴は強情でな。話はしてみたが決して譲らなかった」
「そう、あのマゼルですら特待生として迎え入れられなかった。しかし僕は彼の実力に関しては、身にしみて理解しているつもりです。だからこそ自分自身納得が出来ない」
「そういうことか……」
「はい。それに父様、僕は特待生になれなかったとしてもマゼルなら必ず試験を突破し入学してくると信じているのです。そう、この美しい僕さえも魅了した彼ならば! 出来ないはずがない! ならば、僕だって負けていられないではありませんか! 華麗に試験を突破し、マゼルに恥じることのない先輩として迎え入れなければ!」
バラを取り出し口に咥え、華麗に舞う僕に母も喜んでくれているね。父は少しポカーンとしていたけど息子とは言え僕は華麗かつ美しいから仕方ないね。
「……ゴホン、ま、まぁ話はわかった。ならばリカルドにはそう伝えておくことにしよう」
「立派よヘンリー」
「ありがとうございます父様母様」
「ただねヘンリー。その、バラを咥えたり突然踊りだすのは学園では控えた方がいいかしらねぇ」
「はは、何故でしょう? あ、なるほど、世界で二番目となる僕の美しさが罪ということですね!」
「……それはもう、私は諦めているよ」
父様は言葉を間違っているね。そこは諦めているではなく、呆れるほど美しいなのだから!
さて、これで話は決まった。マゼル、僕は来年試験を受けて、一足先に学園で舞っているよ――
◇◆◇
sideマダナイ
「父様、朝から精が出ますね」
「うむ、いよいよ今日、城に出向くことになるからな」
「父様ならきっと大丈夫ですよ! 応援してます!」
「はは、マゼルにそう言われると、より気合が入るというものよ。大賢者の父として恥ずかしくない働きをしなければな」
そう、いよいよ私が指導官として王国騎士団の猛者たちの前に立つ時が来た。実はこれでもわりと緊張しているが、マゼルに誇れる父であれるよう気合を入れなければな。
「では行ってくる」
「頑張ってください父様」
「貴方、しっかりね」
「お父様ならきっと大丈夫です!」
そして皆に見送られ、私は迎えにやってきてくれた蜂に跨った。どうやらマゼルが新しく作ってくれたこの刀という剣と一緒に、蜂用の馬具、この場合蜂具になるのかな? も作成して貰ったようだが、これがとても乗りやすい。
「それではいきますね」
「ハニー、宜しくね」
「はい! お任せください!」
そして私は彼女の操る蜂に乗り、王城へと向かった。しかし空から行くと流石に速いな。速度は勿論だが障害物がなく真っ直ぐすすめるのが大きい。
尤も空にも魔物はいるが、それは全て彼女の操る蜂の攻撃で撃退されていった。蜂達は以前より更に強くなっている気がする。
息子のマゼルに触発され、ハニーは蜂たちとより密度の濃い訓練を続けているようだ。マゼルの凄いところはその行動で周りに良い影響を与え続けていることだ。
冒険者の破角の牝牛もそうだが、ヒゲ男ズもマゼルと出会ったことでより真摯に冒険者としての仕事に取り組むようになり、ランクも上がってきているらしい。
全く我が息子ながら流石大賢者と感心する毎日だ。私も父として負けていられないな――
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