第124話 魔力0の大賢者、の父、騎士達に挨拶する
「ローラン卿、よく来てくれた。王国騎士団の将として君を歓迎する。期待しているよ」
「はい閣下、精一杯尽力させて頂きます」
城では先ずガーランドが退き後任となった総督に挨拶した。物腰は穏やかであったが目に宿る光は狼のごとし、精悍極まりない将軍であった。
穏健派と聞いていたが、いざとなったら自ら前に出ることもいとわないような、屈強な精神に溢れてそうな武将にも思えた。
そのような将軍に期待されているとまで言われては、私も気を引き締めなければいけないな。私を推薦してくれたアザーズ卿の顔に泥を塗るわけにはいかぬし。
「ご無沙汰してますローラン卿」
「いやいや、カレント殿、私にそのような堅苦しい挨拶はいらないよ」
総督の部屋を出るとマゼルとも面識のある騎士のレイサ・カレントが恭しく頭を下げてきた。私を案内してくれて騎士たちに紹介してもらえるようだ。
マゼルのこともあって私もよく知っているからこそ、来てくれたのかもしれない。見た目には美しい女性の騎士だが、魔法剣という特技を持ち合わせ王国騎士団の中でもその実力はかなりのものと評価されているようだ。
私は早速カレント殿の案内で騎士が待つという訓練場に向かうこととなった。しかし歩き方1つとっても全く乱れなく、そして隙も少ない。
相当騎士としての意識が高いな。彼女のような騎士ばかりであるなら、正直私が教えることなど何もなさそうにも思えるな、と思い微苦笑を浮かべてしまう。
「こちらです」
「あぁ、ありがとう」
さていよいよご対面か。気を引き締めていかねばな。
通された訓練場は流石王国の中枢に存在するだけあって整備の整った広々とした場であった。
勿論ただ広いだけではなく、訓練の為に整備もしっかりされ道具も色々と用意されている。
訓練場ではヤカライ殿が指揮し騎士たちを整列させていた。ずらりと並ぶ騎士達の正面には壇が設けられている。
私は一旦控えている形で、先ずカレント殿が口を開いた。
「――というわけで、今日から騎士への直接指導を担当する事となった指導官のマダナイ・ローラン卿だ。もう承知の方も多いかと思うが、あの大賢者マゼル様を育てられた父上でもあられる」
改めて息子を育てたと言われると、少し気恥ずかしくもあるな。そもそも息子は私が何を教えるまでもなく成長し、あれだけの大魔法を使いこなす程になった。私など逆にマゼルに教わることの方が多いぐらいだ。
「それではローラン指揮官、宜しくお願い致します」
「うむ、丁重な紹介ありがとう――」
私は一言お礼を述べながら壇上に上がった。しかし、改めて見ると凄い数であるな。私が担当するのは王国騎士団の一般騎士達だ。兵士は入っていないがそれでも私が担当する騎士の数は千を優に超えている。
話を聞く限りカレント殿とヤカライ殿が私を補佐してくれるようでありありがたくもあり恐れ多くもある。
さて、中々緊張してきたが先ずは挨拶であるな。
「え~只今ご紹介に預かった――」
この日のために考えておいた挨拶を述べていく。そうした中でも私は騎士達の様子を窺っていたわけだが。
「ケッ、気に入らねぇ。何が指導官だ」
「ガーランド様がいなくなったのをいい事に対立していたアザーズが引き入れたらしいぞ」
「将軍もあいつの息の根が掛かってる奴だし、ガーランド様の功績を全否定かよ」
「大体あんな野郎に何を教わるってんだ。いくら息子が凄くても親が凄いってわけじゃねぇだろう」
「その息子だって大賢者とか煽てられているが、大したこと無いって話だぞ」
「あぁ、魔法とか言って実際は口先だけでそう思わせているだけだってな」
「そんな野郎の親だ。あいつだってどうせ口先だけで上手いこと取り入ったんだろう。全く実績もないヘボ剣士がクソ生意気に語ってんじゃねぇっての」
――なるほど。今回指導官として私が選ばれた理由の1つに、精神的な強さを身に付けさせて欲しいという話もあった。寧ろそちらのほうが急務のような雰囲気も感じたが……そのわけが理解できた気がする。
「――以上で私の挨拶を終わらせて頂ければと思う、が、そこの君、名前は?」
なので挨拶を終わらせてすぐ、騎士の1人を指名して問いかけた。
「へ? 俺、あ、いや、私ですか?」
「口調は無理して直さなくていい。今のままの皆を知りたいので他の者もそれで頼むよ。それで名前は?」
「は、ハイデルですが……」
「ふむ、君は?」
「……アライカスだ」
「そっちの君」
「バルス」
私は次々と騎士達の名前を聞いていった。そして――
「さて、今私が挨拶を述べている時、君達は私に対する不満を口にしていたね?」
「え!?」
周囲がざわめき始める。当然だが彼らも馬鹿ではない。私のすぐ目と鼻の先にいたわけでもなく比較的私の目に付かない位置にいた者だ。
声も囁く程度のものであり、普通なら聞こえているわけがないと高をくくるところであろうが、私はこれでも耳はいいほうだ。
いや、良くなったと言うべきか。マゼルに触発され私も随分と体を鍛えた。そのおかげ以前より間違いなく気配にも敏感になり五感も鋭くなっている。
「あの、そのすみませんでした……」
すると私が指定した騎士達が頭を下げてきた。ふむ、だが私は別に謝って欲しいわけではない。
「謝罪は別にいらないさ。私だって最初から好かれようなどと思って来ているわけじゃない。気に入らないものだっていることだろう。当然、騎士団に所属していなかった私のような人間がやってきて指揮官だなどと言われては納得のいかないものも多いだろう。ならそれで構わないが、それならそれではっきり言って欲しいところだ」
「……ハッキリ言っていいんすか?」
すると、私に対する不満を囁いていた中の1人、ハイデルだったな。目つきを鋭くさせて言ってきた。
「どうぞ、私もその方が助かる」
「なら言わせてもらいますが、あんた、これまで何か実績あんの? 一応は指導官なんだろうからやってきたはいいけど大した実力はありません。実績もありません、ただのお飾りですじゃシャレにならないんっすよね」
「お前たち、何を失礼な!」
「いやいい、私がそれを承知したのだから」
ヤカライ殿が前に出て叱咤しようとしたが私は止めた。好きに言えと言ったのだから怒るのは筋違いだ。
「確かあんた、大賢者の父親だったよな?」
「そうそう、それがあるから大賢者の恩恵で指導官に選ばれたんじゃないのか?」
「息子の七光ってか? はは笑えない冗談だな」
「大体伯爵と言ってもローランなんて田舎の地方貴族みたいなもんだろ?」
「全くこんなところまで見栄はって出てこないで畑でも耕してすっ込んでればいいのによ」
そこまで言ってゲラゲラと笑い出した。ハイデルが遠慮しなかったことで他の騎士達も忌憚なく心の内を晒すようになったな。
「なるほど話はわかった」
「そうっすか。じゃあとっとと田舎に引き返して貰えますかね?」
「俺ら自分より弱い名前だけの指導官に教わることなんて何一つ無いんで」
「大体あんたガーランド卿を追い落とした分際で、俺らの指導しようなんて調子いいんだよ」
随分な言われようだな。あのガーランドを慕っていた騎士もいて、今回の件には納得いってない物も多いと聞いてはいたがな。
「ふむ、なるほど。つまり端的に言えば私の腕を信用していないということだろう? なら話は簡単だ」
「簡単? 俺らは出て行けと言ってるんだが?」
「まぁそう言うな。せっかくだ、少し揉んでやろう」
「「「「「「は?」」」」」」
一様に怪訝そうに声を揃えた。だが、こういった連中にはこれが一番手っ取り早い。
「今私が指摘した者以外にも私に不満があるものがいるなら前に出てくるが良い。挨拶代わりに1つ相手してやろう――」
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