第104話 魔力0の大賢者、トリックを見破られる!?

 目の前の男が語った名前には聞き覚えがあった。それもその筈だ。ワグナーと言えばガーランドに協力して僕の家を貶めようとした伯爵家のことだからね。


 そして、彼はその兄というわけだね。王国では罪はあくまで罪を犯した個人のものであり、協力していたりかくまったりでもしてない限り刑罰が家族にまで及ぶことはない。


 これは国によってはまた違って一親等以内は責任を取らされたり罪が親族全てに及んだりといったこともあるようだけど僕としては今の王国で扱われている法の方が好感が持てる。

 

 そしてそういった背景がある以上、ここにワグナーの兄がいたとしてもおかしくはないのかも知れない。とは言え、何故僕に話しかけてきたのか……アリエルにだけ用事があって僕はたまたまいただけなんだと思うけど、それなら僕に触れなければいい話だ。


 でもこの男リカルドは僕をわざわざ引き止めまでした。それはやはり、弟だったワグナーについて恨み言の一つでもいいたいとかなのだろうか?


 でも、それはやっぱりお門違いかなとは思う。


「……幽閉されたのは、あの方がそれ相応の罪を犯したからです。父様の領地も狙われていたようですし」

「おっと、勘違いされないよう。さっきも言ったであろう? 私はお礼がいいたかったのだ。何せ大賢者の手腕もあって、我が家の恥晒しの罪が暴かれたのだからな」


 一癖も二癖もありそうな笑みを浮かべながらリカルドが言った。だけど、言葉通りとって良いかどうかは甚だ疑問だ。


「もともとあいつは兄弟でも出来が悪くてね。性格にも難があり、兄として何れ何かやらかすのではないと危惧していたのだよ。その結果があれだ。全くとんでもないワグナー家の面汚しだよ」


 唇を歪め語り、清々したように喜ぶ。その仕草からは僕を憚るような様子は感じられない。だけど、それはそれで気分が悪かった。


 確かにワグナーは間違ったことをしたが、かといって血のつながった家族がここまで言うものか?


 ……いや、でも確かに家族だからと言って必ずしも上手くいくわけではないか。それは僕自身も良くわかっている筈だ。転生した後の家族にこそ恵まれたけど、前世の僕は魔力が0という理由で蔑まされ家族に捨てられた。実はその時の記憶は崖から捨てられたことが原因で若干曖昧だったりもするんだけどね。


 しかし、この男はただそれだけがいいたかっただけなんだろうか? 

 ちょっとした嫌味っぽいことも言っていたけど、とにかく弟の事といい印象はあまり良くない。


「しかし、本当に上手いことやってのけたものですな。魔力が0にも関わらず大賢者の称号まで手に入れてしまうとは。一体どのようなトリックを使われたのですかな?」


 僕は一体どんな顔をしてこの男の話を聞いているだろうか? そんなことを思っていたら不意をつかれるようにそんなことを問われてしまった。


「……トリック?」

「おや? ご存知ではありませんかな? 巷では吟遊詩人や大道芸人などが使う手ですよ。奴らはマジック等と言ってさも自分たちが凄い魔法使いのように信じ込ませ、見事な魔法のような物を披露するのです。勿論あくまで魔法のようなもので実際は隠し持っていた道具などを使ってそれっぽく見せているだけなのですがね。手品とも言われる手法で、例えば火魔法などは火薬などという燃えやすい薬などを利用して行使したように見せ、人々を愉しませているのです」


 どことなくドヤッとした顔で僕を見下ろしてくるその姿に、心臓が跳ねる思いがした。


 もしかして、この男は僕の力が本当は魔法なんかじゃないって気がついているのだろうか?

 だから敢えてそんなことを? 


 う、うぅ、いや自分だって流石にそろそろ気づかれるんじゃないかなって思ってなかったわけじゃないけど……何せここまでずっと魔法だって思われてきてしまったし、正直前世で大賢者と騒がれて後戻りできなくなった時にかなり近い状況ではあるんだけどね。


 だから、いざ気づかれたって思うと、う、うぅ、何か妙なプレッシャーが……。


「あ、ありえない!」

「うん?」

「だ、大賢者の魔法にトリックなんてありえないの! 大賢者の魔法はありえるから! 絶対ありえるの!」

「チュッ! チュー!」


 僕が弱ったなと思っていると、アリエルが眉を引き締めて声を上げた。リカルドのことは苦手っぽいのに、僕がこの男にすきに言われているのを見て気遣ってくれたのかもしれない。


 ファンファンも強い鳴き声でリカルドを責めてるように思えるし。


「――話には聞いていましたが、やはり来ていたのだなリカルド卿」

「ん?」


 その時、リカルドに声を掛けてきたのは、父様だった。さっきまで宴に呼ばれた人々と話をしていたけど、僕とリカルドが話しているのに気がついてきてくれたのだろうか? そしてリカルドに語りかけるその表情は険しい。


「おやおやこれはこれは。ガーランド失脚を上手く利用し、指導官に抜擢されたローラン卿ではないか。私からもおめでとうと祝辞を述べさせて頂きますぞ」

「――一応お礼は言っておきますよ。ですが、我が息子についてあまり適当なことは吹聴して欲しくないところですな」

「ふむ、適当とは?」

「魔法についてです。出席者からお聞きしましたが、魔法が使えない代わりにトリックで大賢者の称号を得ているなどと言いふらしているそうですが?」

「はっは、そのことでしたが。いやいや勘違いしてもらってはこまる。私は魔力0で魔法も使えないのに涙ぐましい努力によって大賢者まで上り詰めたその姿勢を高く評価していると、そう言ったのですよ」

「私の息子の魔法は正真正銘本物です。一度でも見れば誰もが納得する。手品などでは決して不可能な代物です」


 うぅ、一生懸命擁護してくれているのに、ごめんなさい父様。それ、正真正銘本物の物理なのです!


「だが、魔力0なのは間違いなかろう」

「それはかつての大賢者様も一緒でした。魔力が0だからといって魔法が使えないわけではない」

「……かつての大賢者ねぇ」


 そこまで言って僕にねっとりとした視線を向けてくる。な、何だろう? やはり妙に固執した感情を秘めてるような……。


「ま、それはいいでしょう。別に私は大賢者を非難してるわけではない。炎を起こすことが火薬によるトリックだったとしても、その他の魔法が何らかの大掛かりな仕掛けであったとしても、彼はそれで実績を上げたわけですから」


 やっぱりこの男は僕のことを疑っているのか。だけど、あくまで道具を使ったトリックだと思っているようだね。


 本当は物理なんだけどね。そこまでは思ってないのかな?


 疑う人ならきっと火は物理的な空気との摩擦で発しているとか、魔獣を凍らせるのは気化熱を利用しているとか、雷は体内の電気を増幅させて放ってるとか、分身はただ超高速で動いているだけとか、オリハルコンを砕いてるのはただの握力とか、推測してもおかしくないからね。


「さて、では私も他にも挨拶周りがあるので、ここは離れさせて頂きますか。あぁ、そういえば、愚弟の息子のラクナについては私の方で引き取ることにしましたよ。子どもには罪がありませんからねぇ。それだけ伝えさせて頂きますよ。それではまた――」


 そう言い残してリカルドが去っていった。ラクナ、というと以前僕と魔法勝負をする事になった彼か。


 あの後は顔を合わせていないけど――ワグナーが罪に問われ幽閉されている以上、確かに誰かが親代わりにならないといけないわけで、その結果があのリカルドということか。


 でもなんだろう。あまりいい予感はしないよね――

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