第105話 リカルドについて聞く
リカルドが去り、王女のアリエルと、未だ険しい表情の父様が残った。
「ちゅっ、ちゅ~♪」
するとファンファンが機嫌良さそうに僕の頭の上に移動してきた。リカルドに対してはあんなに威嚇してたのにね。
「ふふっ、やっぱりファンファンには良い人と悪い人がわかるんだね」
う~ん……そうなるとファンファンが思いっきり威嚇していたあの男は、悪い人ってことになっちゃうけど。いや、確かにあまり印象は良くなかったけどね。
「ははは、流石に大賢者マゼルは動物にも好かれるのだな」
「父様、その頭に大賢者とつけるのはもうそろそろ……普通にマゼルと呼んで欲しいです」
それに王女様の前でもあるし、ここには王侯貴族も多いだろうし何とも烏滸がましいかなと。
「ふむ、確かに正式に二つ名が認められたことだしな……マゼルがそこまで言うならば」
そこまで言った後、父様はアリエルに視線を向け、恭しく頭を下げた。
「ロンダルキア王女、我が子のマゼルと親交を結んで頂けるとは感謝の言葉もございません」
「そんな、その、私の方がマゼルに良くしてもらっておりますので……」
う~ん、父様相手だと少し固いかな。勿論こういう場というのもあるかもだけどね。
「それに、ファンファンも随分と懐いてくれてます。ファンファンは良い人にしかなつきませんから」
「はは、そう言って頂けると父として鼻が高いです」
「それに――あのリカルドにファンファンが悪く言われていたところを庇ってくれて反論してくれました。凄く、嬉しかったです……」
「ちゅ~♪」
「ほぉ、あのリカルドに……流石マゼルであるな」
話を聞いて父様が感心してくれているけど、僕にはどうしても気になることがあった。
「お父様。あのリカルドというのは、その、何者なのでしょうか? ワグナーの兄というのはわかりましたが、流石に王国の姫に向けての態度としては無礼がすぎるような気がするのですが」
実は話している時も気になったことだ。普通は例え貴族であろうと、姫という立場のアリエルにあのような態度は取れないだろう。
ファンファンに対するいいぶりも、前置きがあったとはいえ、まさに失礼が過ぎた。
可能性としては有力な王侯貴族といった線だけど、だとしてもあそこまで言えるものかな?
「……流石マゼルであるな。そこに気がつくとは……だがそれも仕方がない、とは言えないが、例え王が相手であっても強気に出られる立場にあるのがあの男だ」
「そんなにも……」
どうやらアリエルだけではなく、王様相手でも動じない、そこまでの力があるようだ。でも、それは一体どういうことなのだろう?
「……マゼル、お前であれば四大魔法学園都市のことは知っているであろう?」
「はい。流石に有名ですからね」
四大魔法学園都市はこの大陸の東西南北にそれぞれ存在する
同時に大陸の主要八大国の合意により如何なる侵略も受けず、かつ学園側もその戦力を利用して戦争に加担したりしないよう永世中立都市であることが義務付けられている。
魔法学園都市の大きな目的はやはり学園都市だけあって魔法学園が中心であり、優秀な魔法使いを育て輩出することが主で、それに加えて世界に役立つ為の魔法や魔導具の研究をするための機関という側面も強い。
この学園都市、僕が生きていた時代にはなかったんだけどね。死んでから200年後ぐらに設立されたみたい。最初は一つだけだったみたいだけどね。
「でも、その学園都市が何か関係あるのですか?」
「……リカルドはその四大魔法学園都市の内、東の魔法学園の理事長だ――」
魔法学園の、理事長? そうかそういうことか――
「魔法学園はどこの国にも属していない。だから、あんなに強気なのか……」
まして学園都市においての理事長は都市そのものの代表でもある。その影響は大きい。
「――お父様と話す時もあの人から遠慮が全く感じられませんでした。ただ、お父様もあの人のことを受け入れていたようだから――」
そこまで話すもアリエルは口ごもる。ファンファンもだけど、あまり好きな相手ではなさそうだ。僕としても進んで話したい相手ではない。
「――マゼル、実はその魔法学園都市について……」
「お、お兄様! 遅れてごめんなさい!」
うん? 父様が何か言おうとした時、僕を呼ぶ声が聞こえた。これは妹のラーサの声だ。振り返ると声を上げて駆け寄ってくる。すぐ近くにはアイラの姿もあった。どうやら合流したようだね。
そういえば飲み物や食べ物を持ってきてくれるという話だったんだ。姫様と話したりあのリカルドがやってきたりでうっかりしていたけど、確かにあれから結構経ったかもね。
「お、お兄様、本当にごめんなさい。その、しつこく言い寄られてしまって」
しつこく? 飲み物を取りに行ったら誰かに捕まったのかな。ラーサは確かに目に入れても痛くないぐらいに可愛いから、わからなくもないけど、まだ子どもだし、それなのに声を掛けてくるって一体……。
「……ごめんなさいマゼル。私も見かけて止めようと思ったけど、いいにくい相手な上、私にも声を掛けてきた」
え? アイラも? 確かにアイラも綺麗だけど、僕と同い年だし、大人からしたらまだ子どもだよね。う~ん、相手は同じ年ぐらいの子どもなのかな? なんとなくラクナのことを思い出したけど、でもアイラは今、いいにくい相手と言ったよね。それって一体……。
「ま、まさか……」
「ちゅ~……」
するとアリエルが少し動揺しだした。ファンファンも不安そうな鳴き声を上げている。どうしたのかな?
「はっはっは、マイハニー達、何もそんなに恥ずかしがることないではないか。確かに僕はこの国の王子だけど、そんなことは何一つ気にしなくてもいいのだよ」
「や、やっぱり……」
「ちゅ~……」
するとサラサラの金髪を靡かせながら、颯爽と1人の少年が姿を見せて、そんなことをいい出した。何故か手にはバラの花を持っている。髪を掻き上げるポーズを見せながら、ラーサとアイラに向けてウィンクした。
「う、うぅ、まさか追いかけてくるなんて」
「……正直しつこい」
ラーサとアイラがうんざりだという顔を見せていた。そして、2人が強くでられない理由もよくわかる。
だってこの少年は、僕もよく知っているからね。アリエルが困った顔を見せる理由もわかった。だって、僕が勲章を賜った時、王族の席にいた少年――ヘンリー・マナール・ロンダルキア、つまり王子様だ。
う~ん、それにしても席で見た時の印象は爽やかそうな気品あふれる王子様で、いや、それは確かに見た目だけならサラサラな髪を有した爽やかそうな美少年だし、見た感じ気品にも満ちているんだけど――げ、言動が、凄く軽薄っぽい気がしてしまうよ。
「ズキュン! ズキュン! ズッキューーン!」
すると、王子様が僕たちに人差し指を突きつけて、ウィンク混じりに妙な擬音を口にしてきた。え~と……。
「ふっふ、つい勢い余って大賢者にまで撃ってしまったね。僕の愛の電撃を!」
うん、どうしようこれ――
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