第102話 魔力0の大賢者、勲章を授かる

 暫く宮殿を見て回った後、部屋に戻ると、ラーサがやってきて、何点かに絞ったけどドレスが決まらなくて――と縋るような目を向けてきた。


 我が妹ながらなんとも可愛らしい。でも、ラーサなら何を着ても似合うと思うんだけどね。


 実際、部屋にいって色々と見せてもらったけど、どれも似合っていた。


「お兄様はどれがいいと思いますか?」

「う~ん、ラーサは美人だし何を着ても似合うよ。だからラーサがこれ! と思ったので大丈夫だと思うけど」

「びじ、も、もうお兄様ってば――」


 あれ? 何か頬を染めて顔を背けちゃった。もしかして怒っちゃった? 

 う~ん、でも僕はお洒落に頓着がなかったから、ドレス選びは得意じゃないんだよね。それでも、はっきりこれがいいと言えば良かったかな?

 それなら――


「え~と、そうだな。あくまで僕からみたらだけど、この白のドレスとかどうかな?」

「これですね! はい、お兄様が選んでくれたなら間違いないです!」


 あ、何かすごく嬉しがってる。良かったやっぱりこういう時は選んだが方がいいみたいだね。


「それに、なにより美人と言ってもらえたのが――」


 うん? 何か僕が選んだドレスで口元を隠すようにしながらモジモジしてるね。何か呟いたようだけど――


「大賢者マゼル様。叙勲式及び任命式までお時間が迫って参りました。宜しければ大賢者様も――」


 あ、そうか。僕も着替えないとね。僕はラーサの部屋を出てメイドさんに服を選んでもらい着替えることにした。


 何かこういう式典用の正装に身を包まれると身が引き締まる思いだね。


 着替えも終えて、僕たちは儀礼を行うための大広間に案内された。陛下が参られるまでは暫く自由にしていていいらしい。


「……マゼル」

「アイラ、そうか君も来ていたんだね」

「……お祖父様もお父様も来ている。マゼルの叙勲式のことを聞いて、私も同行した」


 そ、そうなんだ。改めてアイラにそう言われると少し緊張してきたな。無作法な真似をして笑われないようにしないと。


 それから僕は父様と一緒にアザーズ様やライス様にも挨拶した。


 何か、大賢者殿の晴れ舞台、しっかり目に焼き付けさせていただくよ、とまで言われてますます心臓が高鳴ります。


 前世でもこういいうことはあったんだけど、転生してからは初めてだし、それにまさか9歳で叙勲されるとは思わなかったもんね。


 陛下とも初対面だし緊張するな。


「ところでローラン卿、実はだが――」

「……そうなのですか。ですが――」


 挨拶を交わした後、お父様とアザーズ様が語り合い出した。妙に真剣な顔だから何か大事な話をしているのかもしれない。


「そういえば、大賢者米の話も順調に進んでいてね。次の収穫の頃には輸出を始めたいと思うのだけど大丈夫かな?」

「はい。それなら量も確保しているので――」


 それからライス様と米の話をしていたらその内に儀式の準備が整ったということで呼ばれることとなった。


 先ずは父様の就任式から。これは王国騎士団を取りまとめる将軍主導で執り行われていく。勿論将軍はガーランドの後任となった騎士だ。ガーランドと比べると見た目には穏やかそうにも思える。


 そして最後に陛下から父様に拝命の言葉が贈られた。


 片膝を付き、有難き幸せ、と拝謝の意を伝え恭しく頭を下げた。父様の所作は全く無駄がなくて僕にとってもお手本となるべきものだった。


 その後の決意表明でも立派な父様が見れた。でも――


「チッ、ガーランド様が抜けたところに上手いことやって入り込んだだけだろうが」

「あんなのに、一体何を教わるってんだ」

「将軍は立派な御方だった。今の腑抜けた体制を改革し本物の軍を作ろうとしていた。何故それがわからないんだ!」


 王国騎士団の騎士たちもこの儀式には参列している。そんな彼らの一部がそんなことを囁いていた。


 恐らく他の人には聞こえてない程度の声だろうけど僕は耳がいいから聞こえてしまう。


 彼らはいわゆるガーランドの派閥に属していた騎士たちなのだろうね。だけどガーランドの失脚……そもそも亡くなってしまったんだけど、それによって彼の体制そのものが疑問視されることとなり、アザース閣下の推薦した騎士が新しい将軍となり、同時に父様が指導官として任命されることになった。


 そのことに関する妬みがあるのかもしれない。きっと父様はこういったガーランドの思想に囚われたままの人も相手取って意識改革していく必要がある。


 それは至極大変なことだと思うけど……うん、きっと父様なら上手くやるはずだね。


 そして父様の就任式が終わり、いよいよ僕の番となった。うぅ、やっぱり緊張してきた。


「それではこれよりマゼル・ローランの叙勲式を執り行う。マゼルよここに」

「はい――」


 返事をし、大臣の前に立った。改めて見ると参列者が多い。重鎮っぽい人もいるし、それにアイラやラーサやアネの目もあって、王家が並ぶ場所には宮殿で知り合った王女様やその隣には王子の姿もあった。


 王子様は王女よりは年上みたいだ。爽やかそうなそれでいて気品漂う美少年だね。


「此度は其方の活躍によって――」


 そして大臣によって今回の叙勲を受けることになった功績がつらつらと言い並べられていく。改めて聞くと少々照れくさくなる。


「――よって、ここに大賢者勲章を授け、マゼル・ローランに大賢者の称号を授ける」


 うん、大臣の話が終わっていよいよここから陛下より大賢者勲章が、え? だ、大賢者勲章!?


「大賢者勲章?」

「初めて聞く勲章だわ」

「そのような勲章、果たしてこれまであったであろうか?」


 思わず驚いて声に出そうになったけど、なんとか喉に押し込める。すると周囲からもざわめきが。どうやら大賢者勲章というものはこれまではなかったようなのだけど――


「ゴホン! 静粛に。ここで補足させて頂くとするが、大賢者勲章とは此度のマゼル・ローランの功績を称えるため、今回のために陛下より特別に用意された貴重な勲章である。この勲章はまさにかつて伝説とされた大賢者と相違ない力を持つと判断されたもののみに与えられる勲章であり、大賢者の称号と合わせて叙賜されるものとする」


 こ、今回のために特別って……しかも大賢者勲章とか、うぅ、魔力0で全部物理なのにいいのだろうか……。


 そして大臣の説明も終わり、いよいよ陛下が玉座から立ち上がり僕の前までやってきた。改めて見るとまだまだ若いかなと思う。父様より少し上ぐらいだろうか?


 王様の隣には王妃の姿もあったけど、優しい目で僕のことを見てくれていた。


「――大賢者マゼルよ此度の働き見事であった。其方が行使された伝説級の魔法の数々によりこの国は救われた」


 そして、陛下自ら僕を称える言葉を投げかけてくれた。今世ではまだ9歳なのに、特別に用意された勲章までもらって本当にいいのかなと思えなくもない。ましてや魔法も使えないのに大賢者勲章と正式に国から大賢者の称号を賜ってしまったし。


 勿論断れる雰囲気でもないけど。

 

「大賢者マゼルよ、お主の今後一層の活躍を祈り期待し、ここに大賢者の称号と大賢者勲章を授ける」

「有難き幸せ――」


 僕は父様に倣い、片膝をついて拝謝の意を伝えた。すると周囲から盛大な拍手が……と、父様の就任より拍手が大きい気も、見ると父様が涙を流して一緒になって拍手してくれてるし。

 

 ラーサやアイラも笑顔で手を叩いていた。アネは何か糸で『流石大賢者素敵!』なんて文字を紡いで讃えてくれてるけど、て、照れくさい。


 ふぅ、何はともあれ、これで無事叙勲式も乗り越えられたよ――

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