第101話 魔力0の大賢者、王女様と知り合う
「うん、そうね、私が王女という可能性も十分ありえるわね!」
「え? いや、王女様なのですよね?」
「ありえるわ!」
ビシッと指を突きつけられたけど、王女だよねうん。でも驚いた。まさか王女様とこんなところで遭遇するとは僕も思ってなかったからね。
いや、確かに頭にチョコンっと小さな王冠みたいのが乗っているけど、だからって王女様が僕をつけてくるなんて考えもしないもの。
「でも、どうしてここに王女様が?」
「あら、ここは私のパパやママも暮らしている宮殿よ。私が歩いていてもおかしくないし十分ありえることだと思うけど?」
「え~と、確かにそう言われてみるとそうかもしれませんが――」
「その話し方何かいや! ありえない!」
「ちゅー!」
「え?」
何か王女様に指を向けられて、不満そうに叫ばれた。ファンファンもそれに倣うように鳴いている。そして王女様が手を広げると、僕の頭から王女様の肩の上にファンファンが戻っていった。
「せっかくこうしてお近づきになれたのだし、もっと普通に接して欲しいの」
「ちゅ~ちゅ~」
王女様の発言に合わせて肩の上に乗っていたファンファンが腕を組むようにして頷いていた。器用で賢いネズミだね。
「え~と、そ、それじゃあ、そう言われてみるとそうかも、と、これでいいかな?」
「うん!」
「ちゅ~♪」
満面の笑みで頷いてくれた。ファンファンもご機嫌だ。
「でも、王女様と言えど1人で出歩いて平気なの?」
僕は思った疑問をそのまま口にした。確かにここは宮殿の中だけど、だからってこんな小さな王女様1人で出歩かせるかな?
「そ、それは、え~と、わ、私は王女だから十分ありえるの……」
「ちゅ、ちゅ~……」
ん? 何か王女様の声が萎んでいって、心做しかファンファンも動揺しているような?
「あ! 見つけましたよアリエル王女!」
すると後ろから凛々しい女性の声が聞こえてきた。見ると制服を着た女騎士がこちらへと早足でやってくる。
あれ? でも確かこの騎士さん……。
「あ! そうだ王国騎士のレイサ様」
「ご無沙汰です大賢者様。あと私に様はいらないわよ」
レイサさんがニコリと微笑んで言った。う~ん、でも僕への呼び方があんな感じだからどうしても気になってしまう。
でも、それはそれとして、何故か王女様が僕の後ろにコソコソと隠れてしまった。
「アリエル王女、ふぅ、人見知りなところがあるわりには、私達の目を盗んで勝手に出歩いて……少しは立場を弁えて頂かないと」
「……これからお説教もありえるの?」
「ありえますね」
「ちゅ~…‥」
僕の脇からちょこっと顔をのぞかせていそいそと王女様が言った。なんだか可愛いけど、レイサさんは腰に手を当ててため息を吐いた。
この様子からして本当は護衛がついているのだけど、頻繁に目を盗んで1人で行動しているってところかな?
「レイサ! 殿下は見つかったか?」
「えぇ、ここにいたわよ」
「よ、良かった。本当に……」
すると今度は男の声がして、制服を着た男性が駆け寄ってきた。宮殿内では騎士の多くは制服だ。出入り口なんかはしっかり鎧を着た兵士が控えているけどね。
「あ! これは大賢者マゼル様! ご無沙汰しております。そして以前は本当に申し訳ございませんでした」
するとやってきた騎士が僕を見て跪き頭を下げ始めた。いやいや! 急にそんなことされても――
「どうか普通にしてください。そんな僕なんかの為に」
「いえ! 以前はとても失礼な態度をとってしまいました……今思えばとても愚かなことだと思えてなりません。許してもらえるとは思えませんが」
「え、えと、その……正直言うと何故謝られているかもわかっていなかったりするのですが…‥」
「へ?」
「――プッ……」
騎士がキョトンとした顔を見せた。うん、でも本当に覚えがないし……するとその様子を見ていたレイサさんが吹き出した。
「ヤカライ、貴方大賢者様に完全に忘れられてるじゃない」
「う、うるさい!」
騎士がレイサさんに顔を向けて恥ずかしそうにしながら叫んだ。あれ? でもヤカライって……。
「あれ? もしかして前にレイサさんと一緒に来た?」
「お、思い出して頂けましたか!」
立ち上がり、随分と嬉しそうに声を弾ませた。
うん、でも確かにその名前を聞けばわかるよ。う~ん、でもあの時の口調から随分と変わったなと思ったけど。
「ごめんなさい。何か雰囲気がぜんぜん違うから気づけなくて」
「え? 雰囲気ですか? 確かに……あれから少し思うところがあって眼鏡を目に仕込む魔法のレンズに変えたりと少し違う知れませんが……」
あれというと、ガーランドのことかな。でも少しというか結構大きいような……先ず眼鏡が無い時点で結構違うし、以前はどことなく神経質そうな感じがあったけど、それは大分和らいでいるかな。
それに痩せこけた頬とか全体的には体つきも細かったけど今は大分引き締まってるし、長かった黒髪もバッサリと短髪にされてて勇ましくなったかもしれない。
「前は、自分が優秀だとか言ってて体を鍛える訓練はサボり気味だったもんねあんた。でも今は心を入れ替えたとかいって真面目にやってんですよ」
「お、お前は余計なことを、それより大賢者マゼル様にその言葉遣いは失礼ではないか!」
「あ、大丈夫ですよ。むしろ僕はその方が嬉しいです」
ヤカライさんは難しい顔をしていたけどその方が楽だからね。
「それにしても、殿下、宮殿内とはいえ、1人で出歩かれては……殿下に何かあっては大変です」
「大丈夫よ。私にはファンファンがついているもの。何かおきるなんてありえないわ」
「はは、確かにファンファンは頼りになるかも知れませんが……」
そう言ってファンファンに微笑みかけるヤカライだけど。
「……ぷいっ」
「う――」
何かファンファンにそっぽを向かれたね。
「はは、あんたまだファンファンに認められてないんだね」
「う、うぅ……」
「それでも前よりは……ありえるかな。前はありえないぐらい威嚇していたから」
「え? 前に何かしたのですか?」
「ま、こいつ前はガーランドの部下としてたまに護衛についていたからね。その時は大賢者様も知っての通りあんな感じだったから」
「そ、それを言うな……」
何かを思い出したように困った顔を見せる。あの時、口調も妙だったあの時だね。本人も恥ずかしそうだしすっかり黒歴史扱いなのかも。
「でも、今は十分ありえるぐらいよくなったの。だからファンファンもこのぐらいで済んでるの。それにレイサも色々教えてくれて話し相手になってくれるもの」
「それならもう少し信頼してくれても……」
「も、勿論信頼はしているわ! で、でも今日はどうしても、だ、大賢者様と対等に話したかったの!」
対等に……それで1人で抜け出したってことなのかな?
「でも、あえて良かったわ。レイサの言っていたとおり凄く良い人! ありえるわ!」
「あ、ありがとう」
どうやら王女様に認めれたようだ。まさかこんなところで王女様と知り合えるとは思わなかったけど。
「そ、それで、私、大賢者様とお友達になりたいの! あ、ありえますか?」
「え? 僕と? それはもう、そう言ってもらえるならこちらこそ凄く光栄に思うよ」
僕がそう応えると、パァっと花の咲いたような笑顔を王女様が見せた。
「ふふ、良かったですねアリエル殿下」
「うん! 私同年代のお友達は初めてよ! 凄く嬉しい」
そんなに喜んでもらえるなんて……うん? 同年代?
「え? あれ、同じ年?」
「そうなの! ありえるでしょ?」
あ、はい。ごめんなさい。僕より2、3際は下かなと思ってました。
「さぁ、それではそろそろ戻りましょう。色々と課題も残っていますし」
「う! そ、それはありえない! 後回しにしてもっと大賢者様とお話したい……」
「駄目です。それに大賢者様とは叙勲式の際にまたお会いできますから」
うぅ、と不満そうだけど、やっぱり王女様というからには色々とやることもあるんだろうね。
「わかったわ。大賢者様、また会えるのを楽しみにしているわ」
「はい。それと、僕のことはマゼルでいいよ」
「え?」
「だって友達なのに大賢者様というのもおかしいよね?」
「そ、それなら私のこともアリエルと呼んでね!」
「え? あ、それは――」
僕としては王女様から大賢者呼びされるのは申し訳ない気がしたというのもあるんだけど、流石に王族相手にそれは……。
「大賢者マゼル、流石に公の場では周りの目があるけど、こういう場所でなら気軽に呼び合う形でもいいと思うわよ」
「お、おいレイサ」
「あらいいじゃない。こういうのは融通も大事よ」
ヤカライさんは何かいいたげではあるけど、王女様は期待の篭った目で僕を見ている。
う~ん、そういうことなら。
「わかった。これからもよろしくねアリエル」
「! うん、よろしくねマゼル!」
王女様から手を差し出されてちょっと照れくさかったけど僕は手を握り返して一旦お別れした。手、ぷにぷにして柔らかかったな――
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