第100話 魔力0の大賢者、じーっと見られる

「うわぁ、凄く広いですお兄様! 広すぎてびっくりなのです!」


 盗賊を退治してからしばらく走り続け、遂に僕たちを乗せた馬車は王都に到着した。

 

 本来警備も厳重で、王城に入るための門では常に不審者が入り込まないよう入念なチェックを行ってるそうだけど、今回は王室御用達の馬車で来ただけあって、簡単な検査だけで通ることが出来た。


 でもやはり王都だけあって城壁もかなり高い。ちょっとした巨人でも容易には乗り越えられないだろうね。それに壁もただの石の壁ではなくて宮廷魔導師によって強力な術式が施されているから、ちょっとやそっとのことでは破壊されないんだとか。


 うん、流石に凄いよね。でもなぜか、大賢者様にかかればこの程度の術式大したことではないでしょうが、なんて言われたりもしたけど。

 

 いやいや流石にそれはないと思うよ。そもそも僕は魔法が使えないからやれるとしても氣で周囲を覆うぐらいだし、もしくは物理的な衝撃波で攻撃を相殺とか魔法に比べたら手のかかることばっかりだよ。


「それにしても本当に広いねぇ。マゼルの町を10個ぐらい入れてもまだ余裕がありそうだよ。巣のはりがいがありそうだねぇ」

「はは、だからって張ったら駄目だよ」

「勿論わかってるけどちょっとウズウズしちゃうね」


 アネはそこまで積極的に巣をつくるタイプではないんだけど、時折無性にうずくときがあるんだとか。だからって王都では止めてほしいけどね。


 流石に王都だけあって内部は人が多かった。馬車も数多く走っている。ただ、ごみごみした様子は感じられなかった。


 建物の配置にも余裕があるし、町並みも美しい。非常に洗練された雰囲気のある都だった。流石は王都だけある。


 そのまま馬車は王都を抜け、王族専用の門を出て高台にある宮殿に向かった。

 父様も知らなかったようなのだけど、どうやら僕たちは賓客扱いらしく、泊まるための部屋も宮殿に用意されているそうで……な、何か凄く緊張してきた。


「お時間までどうぞご寛ぎください。御用がありましたらなんなりと」


 部屋に通されて綺麗なメイドさんにそんなことを言われた。でも、部屋が広すぎて落ち着かない。家族一緒でいいと思うのだけど一人一部屋こんな凄い場所を用意してくれた。流石というべきなんだろうか。


 ちなみに宮殿内は自由に見て回っていいそうです。部屋にいても落ち着かないから出てようかな。父様は流石に何度も王都に来ているからか慣れてる様子ではあったね。


 ラーサとアネを誘おうかなと思ったけどドレスを用意してもらってるみたいでメイドさんと着替えを楽しんでいた。そういうところはやっぱり女の子だよね。


 だから折角だから僕だけで宮殿を回ってみた。それにしても自由に見て回っていいなんて気前のいい王様かも知れない。


 それにしても広いね。前世でもこういうところに来た頃はあったけど、あのときはもう成長していたし色々としがらみもあったからそこまで自由には出来なかったんだよね。


――ちょこちょこちょこ。


 うん?


――ちょこちょこちょこ。

 

 う~ん――。


「ハッ!」


――サッ!


 ふむ……とりあえずまた前を向いてみる。


――ジィイイイィイイイ。


 うん、わかってたけどやっぱり何かつけられていて、そして視線を感じるね。


――スッ。

――サッ! ササッ!


 僕が振り返ると柱の陰に隠れちゃった。う~ん、別に殺気とかも感じられないし、そもそもこの感じって。


「え~と僕に何かようかな?」

「――!?」


 柱に隠れたのはわかっていたから近づいて僕から声を掛けてみた。そこにいたのは高級そうなドレスに身を包まれた巻き髪の女の子だった。


 うん、やっぱりね。気配からなんとなく子どもなのはわかっていたから。


 金髪に碧眼で、かなり可愛らしい。身長も僕の胸ぐらいだ。頭の上には小さな王冠がチョコンっと乗っている。アクセサリーみたいなものかな?


 う~ん、でも何か凄く動揺しているみたいだね。僕の後をつけてきていたぐらいだから何か用事があったのかなと思ったのだけど――


――モゾモゾ。


 うん? 何か女の子のドレスが膨らんで何かが動いているね。


「――ちゅ~」


 かと思ったら首元からちょこっと白いネズミが顔を出したよ。毛並みが綿のようだね。これは白綿ネズミだと思うけどこの子のペットかな?


「ちゅ~?」


 そして僕を見て小首を傾げたね。つぶらな瞳が可愛らしいかも。


「あ、あ、あの、あの、あの――」


 あ、女の子が口を開いたね。何かもじもじして頬も紅いや。


「――ちゅ~」

「え?」


 するとちょこんっと顔をだしていた白綿ネズミが僕に飛びついてきた。そして素早くよじ登ってきたかと思えば。


「ちゅっちゅ~♪」


 僕の頭の上に到達して嬉しそうに鳴いたね。え~とこれって、うん?


 何か白綿ネズミが僕の頭の上ではしゃいでるのを見た少女の顔がパァ~っと明るくなったよ。キラキラした目で僕を見ていて少し照れくさい。


「いい人!」

「え?」

「あ、え、え~とね。ファンファンはいい人にしかなつかないの。だから、貴方はやっぱりいい人ね!」


 食い気味にそんなことを言ってきた。さっきまでオドオドしてたのに、どうやらこの白綿ネズミ、ファンファンというらしいね。


 うん、ファンファンが僕になついたと思って親近感を覚えてくれたみたい。


「はは、僕はう~ん、悪い人のつもりはないけど、いい人、かなぁ?」

「きっとそうよ。だってレイサが言っていたもの。大賢者様はとても聡明で心の優しい素晴らしいお人だって。でも良かった、本当にいい人みたいで」


 何かいい人認定されたようです。う~んでも、レイサさん? 何かどこかで聞いたことあるような? いや、それ以前に。


「ところで、え~と既に知っているのかもだけど、僕はマゼル・ローランで」

「うん、大賢者マゼルよね。知っているわ。お会いできて凄く光栄に思っているの」

「はは、そう言ってもらえると嬉しいかな」

「ちゅ~ちゅ~♪」


 何か頭の上ではファンファンも嬉しそうにしているよ。


「え~とそれで君は?」

「あ! ご、ごめんなさい。お城だと皆が知り合いだったからうっかりしていたわ。私はアリエル・マナール・ロンダルキアと言うの」


 へぇ、て、うん? マナール? それにロンダルキアって――


「えぇ! も、もしかしてお姫様!?」

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