第99話 魔力0の大賢者、に、魔法封じは通用しますか?

「がっはっは! 大賢者が一緒なことも情報として入ってきていたのさ! 今どきの盗賊は豊富な情報網が売りなんだな馬鹿め!」


 え~と、これ、どうしたもんかな。上で盗賊たちがすご~く得意がって嬉しそうに語っているんだけど。


「確かに大賢者の魔法が凄まじいというのは聞いていたさ。だが、魔法さえ封じちまえば大賢者といえどただの餓鬼よ! アテが外れて残念だったな!」


 うん、確かにわざわざこんなところに魔法陣まで仕込んで、結構大きな魔法陣だったし準備するの大変だったんだろうね。


 でも、それ意味ないんだよなぁ。だって、そもそも僕がやってるのは魔法じゃないからね。物理だからね。


 だけど、なんというかそれを伝えづらいというか――


「お、お兄様大変です! 確かに魔法が使えません!」

「魔導師たちも全員駄目です。魔法が完全に封じられました!」

「馬鹿が! 当然だ! この時のために用意した特別な魔封じなのだからな!」

「く、な、なんてことだ! 私としたことがみすみすとこのような罠を発動させてしまうとは。しかしまさか大賢者にこんな弱点があったとは、このナモナイの目を持ってしても見抜けなんだ。すまぬマゼル、この父、一生の不覚であったわ!」

「え、え~と……」

「あんたたち、何、腑抜けたこと言ってるんだい!」

 

 なんというか、父様も膝から崩れ落ちて悔しそうにしていたりで、僕も完全に言うタイミングを逃してしまった。するとアネが前に出てきて声をあげたんだけど。


「シャキッとしな! あんたらまさかこの先もずっと大賢者だよりで生きていく気かい! 冗談じゃないよ。主様がピンチな時だからこそ、全員で協力して乗り越えなきゃ仕方ないだろうさ!」

「あ、アネさん、確かに、確かにそうですね! 私は絶対お兄様を守ってみせます!」

「え、と、あのねラーサ」

「大丈夫です! お兄様には指一本触れさせませんから!」


 いや、そうじゃないんだけど。


「確かに、アネの言うとおりだ。私も何を弱気なことを言っていたのだ! あの程度の盗賊ごとき、大賢者マゼルの魔法がなくても叩きのめしてくれよう!」

「お、おお! 流石はローラン領にこの人ありと言われ、王国からの信頼も厚いナモナイ卿だ。そうだ、我々も臆病風に吹かれている場合ではないぞ!」

「そうだ、魔法が使えないからこそ」

「俺たちが頑張る番なのだ!」


 何かアネのおかげでみんなの結束が強くなっているよ。流石姉御肌なアネだな~でももしかしてこれ僕の出番なさそう?

 

 何か今この状況で、僕なら問題ないですというのも水を差す様で悪い気もしてきたし……。


「ふん、ほざいてろ! お前らなんざ大賢者の魔法がなければただのカモよ! さぁテメェらやっちまいな!」

「「「「「「おおおぉおおおぉおおぉおおおお!」」」」」」


 すると鬨の声を上げ、盗賊たちが崖の足場から飛び降りたり縄梯子を使ったりして襲いかかってきたよ。何かジッと・・・しているのもいるけど、とにかく盗賊たちが父様やアネ、騎士に襲いかかっていく。


 だけど父様たちも迎え撃つ気満々だ。


「今こそマゼルの贈ってくれたこのヒノカグツチの役立つときよ! ハァ!」

「「「「「ギャァアアァアアアァ!」」」」」


 おお! 流石父様。あれから更に抜刀術に磨きが掛かったみたいだね。抜刀の一振りで盗賊たちが纏めて吹っ飛んでいったよ。


「な、なんだこいつ! 鞘に剣入れたままなのに仲間が吹っ飛んだぞ!」

「あ、ありえねぇぇえ!」


 うん、どうやら盗賊たちには父様の抜いた姿が捉えられなかったみたいだね。父様の鍛錬の賜物だよ。


「ほらほら、威勢がいいのは口だけかい? こっちは魔法が使えないってのに、主様と比べて骨がないにも程があるよ!」

「ぐぉ! なんだこれ、糸が絡まって!」

「ひぃいい、目が回るーーーー!」


 あの様子だとアネも魔法が使えなくなっているようだね。でもそんなの全く関係ないみたいで手から糸を放出して盗賊たちを絡め取り、ブンブンと振り回して地面や壁に叩きつけているよ。


 人の姿を保ったままでも全く問題ないようだね。むしろ盗賊が可愛そうになってくるぐらいだよ。


「私たちも続くのだ! 王国軍の意地を見せてくれようぞ!」

「「「うぉおおぉおぉおおおお!」」」



 盗賊たちに負けじと威勢を上げて騎士たちが盗賊たちに向かっていったね。魔術師の2人も杖を構えていざとなったらやってやる! と言った様子。


 でも、騎士と父様とアネだけで十分優勢だ。数は多いけど盗賊はあまり強くないみたい。


「ぐぬぬぬ! 馬鹿な、何故魔法も使えない連中に勝てない!」

「貴方の敗因は魔法を封じ込めたら勝てると思い込んだことです!」

「く、くそおおぉおおぉ!」


 歯ぎしりする盗賊の頭にラーサがズバリと言い切った。確かにそうだね。戦闘は何も魔法だけで決まるわけじゃないし。


 だけど、ラーサの発言を受けて悔しがっていた頭が顔を上げ不敵な笑みを浮かべた。


「な~んちゃって。馬鹿め! お前ら、俺様の仲間がこれだけだといつから思い込んでいた? さぁ、今だ! 大賢者とその妹を捕まえちまえ!」

「「「「「ヒャッハーーーー!」」」」」

「な、何だと!」

「岩がめくれた、いや、擬態してたのか!」

「はっは! そういうことよ! これで俺たちの勝ちだ!」

「主様!」


 うん、どうやら崖の模様に似せた布を被って岩に張り付くようにしてジッと機会を窺っていたようだね。確かに妙に大人しい気配があるなとは思ったけど。


「お、お兄様! わ、私が!」

「うん、ありがとうラーサ。でも大丈夫だよ」


 ラーサが僕を守ろうと前に立ってくれている。こんな心の優しい妹を持てて僕は幸せ者さ。でも、ラーサを危険な目に合わせるわけにはいかないよね。


 僕たちの頭上から降ってきているのは30人か。これなら――


「ハッ!」


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオォオオ!

「「「「「ぎ、ギャァアアアァアアアァア!」」」」」

「ふぇ?」


 ラーサに少しでも近づけさせたくなかったから、その場で天に向かって拳を突き上げた。腰を畝るように回転させて撃った一撃だ。この一撃によって竜巻が発生し襲ってきた盗賊が纏めてふっ飛ばされていった。


 尤も竜巻と言っても温度差を利用した物とは違って拳の衝撃と風圧で無理やり起こしたものだから消えるのは早いんだけどね。


 さて、これで頭曰く潜んでいた盗賊(正直バレバレだったんだけど)は竜巻に巻き込まれてそのまま壁に激突したり地面に落下したりして見事な人型を作ったりしてる。生きてはいるけど意識はないね。


「「「「「「「「…………」」」」」」」」

「て、あれ? みんなどうしたの?」


 残ったのは高みの見物を決め込んでいた盗賊の頭だけみたいだけど、何か急に皆が静かになったね。ラーサも目を見開いたまま何も喋らないよ。そして盗賊の頭に至っては目玉が飛び出でんばかりな顔を見せている。


「て、なんだそりゃぁあぁあああ! 待て待て待て待て待て! おかしいだろ! おかしいだろ! おっかしいだろ! 何だ今のは! 何で魔法を封じたのに魔法で竜巻起こしてんだよ!」


 暫くして頭が我に返って、まくしたてるような口調で怒鳴り散らしてきた。


 何かと思えばそっちかぁ~う~ん、そう言われてもなぁ。そもそも僕のは魔法じゃなくて物理だからね。


「え~と、僕のはなんというかそういう魔法封じとか効かない現象でして」

「はぁあぁああぁああぁ!?」


 頭が素っ頓狂な声を上げた。何か顔の変化が多彩な人だな。


 あぁ、でもついラーサの為に物理でやっつけちゃったけど、これはもう流石に魔法じゃ通用しないかな?

 

 魔法を封じられているのに魔法が使えるわけないものね。


「あっはっは! なるほど、そういうことか。わかったぞ!」


 すると、父様が豪快に笑い上げ、何かに気づいた様子。察しのいい父様だ。きっともう全てを理解したのだろうな。


「な、何がわかったというんだ!」

「そんなものは決まっている! 我が息子に、そう大賢者マゼルに魔法封じなどという小賢しい真似が通用すわけがなかったのだ!」


 そう、僕のは魔法なんかじゃなくて、て、え?


「そ、そうか! そうですそうに決まってます! 私としたことが、こんなことにも気づけないなんて妹として恥ずかしいです。よく考えてみれば偉大なるお兄様であれば魔法封じを破る程度造作もないことに決まってるのです!」

「お、おおなるほど!」

「なんと大賢者には魔法封じそのものが通じないというのか!」

「王国魔導師の我々ですら封じる代物であったというのに、それが何事もなかったように、流石大賢者様は噂通り、いや噂以上の御方であったか!」


 え~と、何か僕が思っていたのと違う方向で解釈されてしまってるね……本当はそもそも魔法ですらないのだけどね!


「くっ、なんてことだ、まさかこれだけの魔法封じすら効かないとは、く、くそ――だ、だったら俺は逃げるぜ!」

「あ! 頭が逃げた!」

「ふん、逃さないよ!」


 仲間もやられて魔法封じが効かないと知った頭が背中を見せて逃げ出そうとした。けどアネの投げた糸に捕まって引きずり降ろされたよ。


「畜生! こんなのありかよ! んだよ魔法封じが効かないって詐欺だろ!」

「「「「「「そうだそうだふざけるな!」」」」」」

「うるさい、少しだまりな」

「「「「「「むぐぅ!」」」」」」


 結局アネの糸でがんじがらめにされた盗賊たちだったけど、何か僕に対して非難轟々でした。アネが糸を口に巻きつけて黙らしたけど、仕方ないよね魔法じゃないんだし。


「それにしても私ですら封じられた魔法封じを物ともしないなんて益々惚れちまったよ。早く成長してほしいものだねぇ」


 そして僕を振り返ったアネが、頬に手を当ててトロンっとした目でそんなことを言ってきた。

 でも僕が成長したら何かあるのかな?


「な! 貴方はお兄様のただの獣魔なはずですよ! 偉大なお兄様にそんな不埒な考え、絶対駄目です!」

「へぇ、不埒って一体どんな想像しているのかねぇこのお子様は」

「な、な! そ、それは……」


 そしてアネとラーサが何かを話してると、ラーサの顔が真っ赤になったよ。アネもよくラーサをからかうからなぁ。


「しかし、これでまた大賢者マゼルの伝説が書き足される事となるな。うむ、まさに魔封じ破りの偉大なる大賢者マゼルと!」


 すみません、ちょっとその伝説は、なんというか恥ずかしいので勘弁してもらいたいのです――


 ふぅ、とにかくこれで盗賊も排除できたし、改めて僕たちは馬車に乗り込んで、王都への道のりを再開させた。


「「「「「ぎゃ~~~~いてぇええ、背中が焼ける~~~~!」」」」」


 ちなみに盗賊たちはアネの丈夫な糸で馬車に繋がれて引き摺られながら王都に連行されることになりました。自業自得だけどね。

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