第90話 魔力0の大賢者、アースマウンテンに向かう

 予想通り第10層が最下層だったから、ヒヒイロカネを手に入れ目的を果たした僕たちは地上に出た。

 砦に戻って成果を話したんだけど、ドドリゲスさんが凄く驚いていたよ。


「ミスリル鉱脈を解放出来ただけでも凄いというのに、まさか攻略なされるとは……」

「あ、でも地下10層までだったので」

「だとしても、一層一層が広いですからね。私たちではそう簡単にいかないでしょう」


 え? そんなに広かったかなぁ? 

 う~ん、そういえば僕たちはわりと急いで攻略したからそうは思わなかったのかもね。


 でも迷宮としては構造は普通な方だからそこまで難易度は高くないと思うんだけどね。


「しかし、アダマンタイトの鉱脈まであるとは……」

「うん、地下5層にね」

「それは嬉しい話ですが、アダマンゴーレムがいるとなると中々難しいですね。それ以前にその途中に出る宝石系の魔物が厄介ですし」

「う~ん、でもそんなに強いのはいなかったし、しっかり対策していけば大丈夫じゃないかな?」

「た、対策ですか。う~ん」


 ギルドマスターのドドリゲスさんが頭を悩ませているね。まぁ宝石系は黄金コウモリみたいにすばっしっこいのも多いんだけど。


「おいおい、宝石系の魔物って確か魔法耐性がやたら高いんじゃなかったか?」

「あぁ、でも大賢者マゼル様の魔法には関係ないらしいぞ」

「マジかよ……中には魔法を跳ね返すのもいるってのに……」


 うん? あぁそうか。確かに宝石系には特定の魔法に強かったり、反射能力のあるのもいたんだったね。


「魔法耐性が問題なら直接攻撃するといいですよ。ヴァン・ダイクさんなら髭装甲の魔法で強化して切るとかいいかもしれません」


 ドドリゲスさんの隣りにいたヴァンさんに話を振ってみた。すると頬を掻いて。


「お、俺か? う~ん、やってみる価値はあるかもだが、ダイヤモンド系の魔物がな……あいつら超固いし」

「でもダイヤモンド系だから衝撃には弱いですよ。僕でも砕けましたからハンマーでガンガン殴ればきっと」

「いやいや! ダイヤモンドの魔物は普通のダイヤとは意味が違うし!」


 ヴァンさんが両手を振って答えた。

 え? そうかな? わりと脆かったんだけど……。


「おい、ダイヤモンドの魔物を砕いたってよ……」

「あれ? ダイヤモンドは脆いって考えを覆すのがダイヤモンドの魔物じゃなかったっけ?」

「あぁ……調子に乗って大金槌を持って挑んできた怪力自慢をこごごとく返り討ちにしてきたっていうぐらいだしな……」

「そんなのを……大賢者様、マジでパネェ……」

「俺達じゃ絶対無理だよな……」

「やっぱ天性の才能が違うんだよ。俺たちはもう限界だ……」


 あれ? 何か周囲にいる人達の視線が突き刺さるような……あ! そうか。きっとこれは宝石の魔物が出ると判って僕たちに負けてたまるか! と対抗心を燃やしているんだね。

 

 確かに僕みたいな子どもでも攻略出来ると思えばそうなるよね。でも、これをきっかけに皆が下層の攻略に乗り出したら、完全攻略者が多く出る日も近いかもね。


 でもやっぱり冒険者は凄いよね。チャレンジ精神旺盛だし、やっぱりハートが強い。


「僕から見ても皆さんは十分強いですし、ここにいる皆様ならきっとすぐ攻略出来ると思います。頑張ってください!」

「「「「「「え?」」」」」」


 皆が目をパチクリさせて僕を見た。あれ? もしかして余計なこと言っちゃったかな?


「……おい、大賢者マゼル様が俺たちなら攻略出来ると言ってくれたぞ」

「あの大賢者が、すべてを知り、あらゆる未来を見透かすとさえ言われている大賢者様がだぞ」

「てことは、もしかして俺たちも知らない間に強くなってたりするのか?」

「そうだ! きっとそうだぜ! だって俺たちのことを強いって言ってくれてるんだ! くそ、それなのにウジウジ悩んで情けねぇ!」

「あぁ、全くだ。こうなったら、俺達だってうかうかしていられねぇ!」

「「「「「「「「「「おう! 一丁やってやろうぜ!」」」」」」」」」」


 うん、もしかして変なこと口にしちゃったかな? て、ちょっと不安だったけど、やっぱり皆気合が違うね。熱気がガンガン伝わるようだよ。


「さすがは大賢者マゼル様。見事な発破のかけかたでした」

「あぁ、正直、最近攻略も停滞気味だったんだが、俺達も底を決めて無難にまとまりすぎてたのかもな。全く色々教えられるぜ」


 え? 発破? う~ん、そんな気はなかったんだけどなぁ。


「お兄様は素晴らしいです。この一瞬で落ち込み気味だった皆さんのやる気を取り戻したのですから」 

「……マゼルは自分のことだけじゃない。周りも変える力がある。だからこそ偉大な大賢者の称号を恣にできる」


 え? 落ち込み気味だったの? でも今凄い気合入ってるよね。


 そして、何かラーサとアイラの視線までやたら熱いような……もしかして皆に触発されて2人も気合が入ったのかな?


 攻略は終わっちゃったんだけどね。さて、ダンジョン攻略も終わってヒヒイロカネを手に入れたから、次はいよいよドワーフが暮らしているというアースマウンテンに向かうことになる。


 だけど、今日のところは家に戻って休むことにした。ラーサとアイラも疲れているだろうからね。


 それにアースマウンテンはそれなりに距離があるから準備も必要だ。と言っても今日はハニーが父様と今後の移動の件で打ち合わせに来ているはずだから、一つお願いしてみようとは思っているんだけど――






◇◆◇


「何かいつもありがとうねハニー」

「いえいえ、大賢者様の頼みとあらば!」

「うぅ、ハニー……名前なのは判ってますが、うぅ……」


 明朝、僕たちはハニーの手助けもあって、蜂たちに乗ってアースマウンテンに向かっていた。


 昨日戻ってから頼んでおいたんだよね。それにしてもラーサは何か一人呟いているけど、どうしたのかな?


「それに、ドワーフには興味もありましたし、可能なら頼みたいこともあるので」

「……頼みたいこと?」


 どうやらハニーも何かドワーフに頼りたいことがあったみたいだね。アイラがそれについて問い返したらハニーが答えてくれた。


「ローラン卿を王都までお送りする上で、鞍や鐙ぐらいは必要かなと思って。でも蜂専用のだと難しいと言われちゃったから――」


 そういうことか。つまり馬具ならず蜂具をつけようと思ったわけだね。この蜂たちは乗れる場所に丁度柔らかい毛が生えていて、その分乗りやすいは乗りやすいけど、王都まではかなり距離があるから、作成出来るならそういうのがあると楽になるかもしれない。


「でも蜂たちは嫌がらない?」

「それは大丈夫だよ。試しに木材でそれっぽいのを作って乗せてみたけど嫌がらなかったし。でも、やっぱり専門じゃないから私たちが作ったものだと安定しなかったの」


 確かに馬具にしても職人が拘って作っていたりするし、それを急に作ろうとしても上手くいかないように、そういうのは専門家に任せたほうが上手くいくよね。


「……でも、ドワーフに作れるかな?」

「う~ん、確かに。ドワーフは金属の専門家というイメージがあります」

「え~? じゃあ難しいのかなぁ……」


 アイラとラーサにとってドワーフは鉄を打ってるイメージが強いみたいだね。ハニーも残念そうにしているけど。


「いや、きっと大丈夫だと思うよ。ドワーフは武器や防具なんかをメインに扱ってるイメージが強かったりするけど、実は手先が器用で物作り全般に精通しているんだ。中には木材で工芸品を作るのが趣味だったり、革細工をメインにしているドワーフもいるしね」


 ハンマーでトンテンカンテンしてる姿の方がイメージつきやすいのも確かだけど、僕の知っているドワーフは熱いのが苦手で、鉄には一切触れないで椅子とか机といった家具をメインに作ってたりしたしね。


 そのかわりそのドワーフの作成した木工品は意匠も艶やかで多くの貴族の心を奪ってたなぁ。


「ヴェッサムさんの作ったベッドとかも凄く寝やすかったしたんだよなぁ……」

「……ヴェッサムってあのヴェッサム?」


 あ、つい心の声が漏れっちゃったな。でも……。


「知ってるのアイラ?」


 するとアイラはコクコクと頷いて。


「……今は亡きヴェッサムの作った家具は芸術品とまで呼ばれる超高級品……王族でも中々手が出せないとされてるほど。でも、ドワーフだったなんて知らなかった……」


 あぁ、そうか、もう亡くなってしまったのか……ドワーフは人に比べれば長生きな種族だけど、それでも平均寿命は150歳ぐらいだからね……。

 

 少し寂しい気もするけど、今の時代でもしっかり評価されていたんだね。


「でも、マゼル様もよくそんなことを知ってましたね~」

「あ……」


 ふと、ハニーが言ったことで気がつく。確かに今のだとまるで昔からドワーフと知り合いみたいな感じだよね、今はまだ子どもなのに、これは迂闊だったかな……。


「……何も不思議なことじゃない。だってマゼルは大賢者」

「はい! お兄様が大賢者と称賛されるのは何も魔法だけではなく、知識の量も伝説の大賢者を彷彿させるほど豊富だからなのです」

「あ、そっかぁ。うん、確かに言われて見れば愚問だったねぇ」


 うん、杞憂だったみたいです。大賢者だからで納得されちゃった……いや間違いでもないんだけどね。


 そして、そんな会話をしている内に僕たちは遂にアースマウンテンに到着した。


 さて、ドワーフは久しぶりだけど、話は聞いてくれるかぁ――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る