第91話 魔力0の大賢者、ドワーフに会う
アースマウンテンは大小様々な鉱山があることで知られる山岳地帯だ。特にその中でも最も標高が高いレアメタル山には様々な鉱物が眠っているドワーフにとっての金脈らしい。
そしてドワーフたちはこれらの鉱山に囲まれた盆地に思い思いの工房をつくり、そこで作業を続けている。
上から見ると、ドワーフたちの暮らす場所は一目瞭然だった。規模は結構広くちょっとした町と同程度はあるね。
ここは盆地と言っても標高は結構高いのと岩山が多い影響で緑は少なめだ。しかし常に炉をフル回転させてるような状況なので空気は温かい。
あとは鉱山から掘り起こした鉱石を効率よく運ぶためか、線路があっちこっちに敷かれている。ドワーフはトロッコを使って鉱石を運ぶからね。
ただ、ちょっと違和感があるね。太陽の位置的にも本来はまだまだドワーフがあくせく動き回っていてもおかしくない筈なのに妙に静かだ。
折角の線路も途中でトロッコが止まっている様子が散見された。何かあったのかな?
そんなことを考えていたら、この工房地帯の中でも一際大きな煉瓦造りの建物からぞろぞろとドワーフ達が出てきた。
でも、どこか不機嫌そうだ。ドワーフは基本常にムスッとしたような顔してるけど、僕が知ってる普段の顔より更に表情が険しい。
眉間にも深い皺が寄っているよ。一体なんだろね? とにかく僕たちを乗せた蜂たちが高度を下げて、ドワーフの暮らす地に降り立ったわけだけど。
「……何だお前ら?」
丁度通りがかったドワーフが僕たちを訝しげに見てきた。蜂に乗って突然やってきたらそう思うのも無理ないかな。
ドワーフの人はまさにドワーフと言った出で立ちだった。背は低くずんぐりむっくりしていて髭が濃い。
「え~と僕たちはマナール王国から来たのですが、何かあったのですか?」
「ふん、よそもんには関係ねぇ話だ。それに今はうちも忙しいからな。とっとと帰んな」
「え~と、あまり忙しそうには見えませんが……」
しっしと追い払うように手を降ったドワーフを見たラーサがぼそりとつぶやく。すると不機嫌そうにドワーフがラーサを睨めつけた。
どうにも空気がピリピリしてるけど、アイラが間に入るように彼に話しかけた。
「……関係ないわけでもない。紹介を受けたドメステというドワーフに会いに来た」
「ん? なんだおやっさんの客だったのか。だったらその中にいるぜ。ただ、今は不機嫌だから話を聞いてくれるかわからんがな。はぁ、しかし参った参った。これじゃあ商売上がったりだぜ」
そこまで言うと、ブツブツ言いながらドワーフは去っていった。う~ん、商売上がったりと言っていたけど、やっぱり何かあったのかな?
「何かずっとムスッとしてましたね」
「気難しい種族とは聞いていたけど、本当にとっつきにくそう……」
「ビ~……」
う~ん、確かにドワーフは偏屈なところもあって最初はついつい萎縮しちゃう空気をまとっているけど、その分一度気に入られて親しくなればまた違った側面も見れたりするんだけどね。
「……マゼル、とりあえず入ってみよう」
「うん、そうだね」
僕たちは工房の中でも一際大きな建物にお邪魔させて貰った。
中に入ると机や椅子が多く設置されていて、さっきまで人がいた様相を醸していた。
すると正面に見える机の前に座っていたドワーフがこちらをギロリと睨みつけてくる。
さっきのドワーフより、なんというか貫禄のある人だな。灰色の髪に熱を帯びたような赤みがかった肌。ドワーフ種族の特徴である低身長な体躯。でも筋肉の盛り上がり具合は凄い。
「……なんだテメェらは?」
「……私はアイラ。そしてここにいるのがマゼルと妹のラーサ、そしてハニー」
アイラが僕たちを順番に紹介してくれた。今回はアイラの口利きで会うことができてるから、先ずは彼女から話して貰ったほうがいいよね。
「……ストムロック子爵の紹介で伺ったんだけど」
「あん? ストムロックだ?」
ドメステさんが目を眇め、疑問の声を上げた。とりあえず僕たちも挨拶しておいたほうがいいよね。
「はじめましてマゼルと申します。実はドワーフの職人に作ってもらいたいものがあり、紹介を受けお伺いさせて頂きました」
「私は妹のラーサですよろしくおねがいします」
「あ、私はハニーだよ! 外には仲間の蜂たちも一緒なの!」
「……ふん、確かにそんな話は聞いたが、まさかこんなガキばかりとはな」
僕たちの挨拶を聞いた後、ドメステさんはあからさまなため息をついてみせた。
「え~と、一応素材も持ってきてるのですが……見て頂くことは出来ないでしょうか?」
「素材だぁ? 全く子どものままごとに付き合っている暇はないんだがなぁ」
「そんな! いくらなんでもそんな言い方!」
「いや、仕方ないよラーサ。僕たちは確かに子どもだもの」
「なんだ判ってるんじゃねぇか。だったらとっとと引き返すんだな。正直こっちはそんな戯れに付き合ってる場合じゃねぇのさ」
やれやれと椅子から腰を上げて、どこかへ行こうとするドメステさん。でもここまで来て門前払いみたいな真似は勘弁して欲しい。
「待ってください。確かに僕たちは子どもです。だからこそ、遊びではないと信用してもらうために持ってきた素材を見てほしいのです。そうすればきっと納得してくれると思います!」
「……なんだと? おい! ガキが滅多なこと言うもんじゃねぇぞ! 俺はここの
「言います!」
僕は断言した。確かにドワーフの目利きは確かだし素材へのこだわりも多種族では比べ物にならないほど強い。
でも、それでも僕が持ってきたヒヒイロカネならきっと納得してくれる筈だ!
「……ふん、おもしれぇ。そこまで言うなら見せてみな。だけどな、もしそれが大したことない代物だったらガキだろうと容赦しねぇ! その尻蹴っ飛ばして追い出してやる!」
目に力を込めて、試すように声を張り上げてきた。でも、望むところさ。
だから僕は、拳で次元に穴を開けて中からヒヒイロカネを取り出したんだけど。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て~~~~! おま、今一体どこからそれだした!」
何か素材を見せることよりその前の行為で驚かれました。あれぇ~?
「ドワーフともあろう方が何をいうかと思えば。これぐらいお兄様なら当然の、無限収納魔法です!」
「む、無限収納魔法だと!」
ラーサが説明してくれたけど何かまた話が大きくなったような……無限は流石に言いすぎだよね。
「……言い忘れていたけど、マゼルは大賢者の再来と呼ばれるほどの天才、いえ天才という言葉でも言いあらせない伝説を超えた神的存在」
「いや、アイラそれは流石に大げさ……」
「はい! 大賢者マゼル様は私たち蟲一族にとっても救世主であり、神様のような存在です!」
否定しようとしたけど、ハニーまでそんなこと言い出したよ。何かドメステさんがぷるぷる震えてるし、もしかして怒っちゃったかな?
「てか、これヒヒイロカネじゃねーーーーかーーーー!」
あ、そっちね。
「おい坊主! なんだこれ、一体どこからこんな上等のヒヒイロカネを手に入れやがった!」
「え? え~とダンジョンで火狒々を倒したら出てきて……」
「火狒々だと! おいおい冗談だろ……あんな化物を、まだこんなちびっこいのに、むむむぅ」
ドメステさんが僕をまじまじと眺めつつ、腕を組んで唸りだした。難しい顔をしていたんだけど。
「……ふん、お前らちょっとついてこい!」
「え? ついてですか?」
「そうだ、さっさと来やがれ!」
そしてドメステさんが、ノシノシと大股歩きで前を歩き僕たちを促した。だから、言われたとおりついていったんだけどね――
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