第87話 魔力0の大賢者、またまたダンジョン探索①

 結局僕はラーサやアイラと一緒にあの混蟲族のいた地へ向かうことにした。開拓は少しずつ進んでいて、魔物の討伐によって拠点にしていたあの村跡にも簡易なものではあるけど砦も作られていた。ある程度開拓が進んだらローラン領とカッター領の合同で村を作る予定らしい。


 それはそれとして、僕たちの目的は発見されたダンジョンではあるのだけど。


「いやはや! 大賢者マゼル様が来てくれたら百人力です! いや~いい鉱脈は見つかったのですが魔物が強くて遅々として搬出ルートの確保が進まなかったのですよ」


 なんでも地下3層にいい鉄の鉱脈が地下5層にミスリルの鉱脈が見つかったんだとか。だけど今も言っていたとおり魔物の問題があって難しい。


 この手のダンジョンを鉱山として利用する場合。ある程度魔物を駆除した後、結界を張って魔物が湧いてこないようにしてから作業を始めるのが基本だ。


 ただ結界は魔物が沢山いる状況じゃ効果が出ない。一度駆除する必要があるんだ。


「兄貴、面目ねぇ。何せここの魔物ときたらやたら固くて……」

「あたいも自慢のカトラスを駆使してるんだけど舌ばかり傷ついてよぉ」

「それはあんたの癖のせいだよ」

 

 ムスタッシュもカトレアさんもしょんぼりしてるね。ただカトレアさんの舌は仲間の言う通りかなと思うけど。


 ふぅ、本当は父様の剣の素材を採りに来ただけなんだけど、話を聞いたら放ってはおけないよね。


 だから鉱脈の問題にも取り掛かることにした。


「兄貴がいてくれたら100万人力だぜ!」

「これで勝てるわね!」


 妙な期待を背中に背負いながら、ヒゲ男ズや破角の牝牛と一緒にダンジョンを進んでいくよ。


「あ! 皆気をつけるんだよ! 早速アイゼンリゼレの群れが!」


 パシンパシンパシンパシンパシンパシン――

 

「「「「「「…………」」」」」」

「あれ? みんなどうしたの?」

「え、と、アイゼンリゼレの群れ……」

「あ、うん。群がってくるから結構うざったいよねぇ」


 見た目が鉄のトンボといった様相の魔物がアイゼンリゼレだ。羽も鉄で出来てるから群がられるとチクチクして嫌らしいんだよね。だからやってきた側から叩き落としていったんだけどね。


「これってちょっとチクチクするよね」

「チクチク?」

「軽鎧の連中はあれでスパスパ切られてわりとエグいことになったりしてたんだけど……」

「我の髭剣二刀流でも苦労したのだが……」


 ん? 皆ぼそぼそと話してるけどどうしたのかな?


「ま、兄貴にかかればこれぐらい当然だな。何せ大賢者だ!」

「それもそうね。大賢者の究極自己強化魔法があればこそよ!」


 あれ? 何かまた使ってない魔法の系統が追加されてる?


「そもそもお兄様が一層に出てくる程度の魔物に苦労するわけがありません」

「……至極当然」

「それもそうだな。さっさと3層まで降りようぜ」


 何か妙な形で納得され、カトレアさんに促されて僕たちはサクッと3層まで降りたわけだけど。


「出たチョビ! メタルリザードだチョビ!」


 メタルリザードは鋼鉄の蜥蜴といった魔物だ。わらわら出てきたなぁ~。


「この階層はメタルリザードが多いんだよ。こいつら歯も尻尾も鉄だし体も鉄だから厄介なんだよ」

「う~ん、確かにそうだけど、弱点がないわけじゃないよ」

「そうなのか?」

「うん、見てて」


 僕は腕を高速振動させた上でタイミングを見極めてメタルリザードの方へ拳を突き出した。これにより空気が徐々に振動を激しくさせながらメタルリザードのいる地点に到達。その瞬間、空気振動による摩擦によって発生した電撃が放射状に広がりメタルリザードの群れを呑み込んだ。


 その結果、メタルリザードは一斉に仰向けになり動きを止めた。

 うん、上手くいったみたいだね。


「ほらこうすれば簡単だよね?」

「「「「「「いやいやいやいやいや!」」」」」」



 何かラーサとアイラ以外の皆が揃って首やら手やらを横に高速で振りだしたよ。う~ん、間違ってはいないと思うんだけど。例えばその首の振りをあと数万倍ぐらい速めれば電撃ぐらいあっさり発生すると思うし。


「感動だわ! 私ライトニングシュトロームなんて初めてみた!」

「え? いや、え~と……」

「……マゼルならこれぐらいはもはや当たり前」

「最上級や伝説級は流石にまだ厳しい気もしますが、お兄様を見習って雷魔法は使えるようになりたいです!」


 やっぱり魔法と勘違いされた。判っていたけどね!


「あ、でもほら、魔法が使えればこれぐらいなんてことはないってことで。メタルリザードは体が金属だから雷に弱いからね」

「なぁ、雷魔法って簡単なのか?」

「馬鹿言わないでよ。上位属性よ。神雷魔法でさえ息を吐くように軽く扱える大賢者マゼル様だからそう思えるだけよ!」


 え? そうなの? う~ん、そもそも僕のは魔法じゃないしなぁ~。でもフレイさんは火魔法が得意だったよね。なら――


「ぬぉ! 今度はキングメタルリザードがやってきましたぞ!」

「こんなん髭じゃどうしようもできねぇ!」

「くっ、我が髭剣でもこれは切れん!」

「チョビー! もう駄目チョビー!」


 更にダンジョンを進んでくとヒゲ男ズが騒ぎ始めた。

 

 正面には通路を塞ぐように巨大なメタルリザーおがいるね。これがキングメタルリザードだ。


「あんなのに突撃されたら一溜まりもないぜ!」

「ど、どうしようどうし――」

「ホイッ」

『グキュゥウウウウゥウウゥウウゥウウ!』

「「「「「「へ?」」」」」」


 僕が地面をドンッと踏みつけると、キングメタルリザードの足下にマグマが溢れ、その全身が溶かされながら沈んでいった。うん、上手くいったね。


「こ、ここ、これは! 大賢者が使った伝説の溶岩魔法マグマオーシャン!」


 あ、また知らない魔法が…………。


「……地面にマグマは流石に凄い」

「流石天変地異さえも軽く引き起こせるお兄様です」


 いや、流石にそこまでは……多分――。

 とはいえ、僕は特にフレイさんに聞いてもらうつもりで説明した。


「え~とつまり、メタルリザードは体が鉄だから高熱にも弱いんだ、だから今みたいにすれば雷でなくても」

「絶対ムリ~~~~~~!」

「流石にこれはなぁ、マゼルぐらい凄い魔法使いならともかくだ」


 フレイさんが天を仰ぐようにしながら言い、カトレアさんも頬を掻きつつ何故か呆れたように言われた。


 そ、そんなに難しいのかな? 僕のやり方よりは魔法の方が簡単だと思うんだけど……。


 僕のはやっぱり魔法じゃないから。今のにしても師匠から生前教わった知識で、地面は激しく揺れると液状化するというのを知っててそれを利用しただけなんだよね。


 だから足で踏むことでキングメタルリザードの足下を液状化させた上で高熱化によって溶岩状にしたんだ。色々と面倒な工程を重ねてるから魔法だともっと楽なんだろうなと思う。


 さて、この調子でメタルリザードを倒していったんだけど、炎や雷が難しいみたいだから。


「後は、メタルリザードの場合、この首の付け根あたりが柔らかくて弱点でもあるんだけど、それは勿論知ってたよね?」

「「「「「「それを先に教えてよ!」」」」」」


 一斉にツッコミを入れられちゃったけど、おかげで他の皆の狩りも進んで、程なくして3層の魔物は殆ど狩りつくされたんだ。


 これで鉄の鉱脈を掘って搬出が可能だね。


 そしてここからは結界の準備もあって、暫く警戒も必要になるということでヒゲ男ズが残ることになった。


 破角の牝牛は引き続き僕たちと一緒に地下5層を目指すわけだけどね――

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