第88話 魔力0の大賢者、またまたダンジョン探索②

「あ! あれ、あれあれ! 黄金、あれ黄金コウモリだよな!」


 地下5層へ向かうため、先ずは地下4層を進む僕たちだったけど、カトレアさんがすごく興奮した様子で僕たちに語り掛けてきた。


「あ、本当だ。確かに黄金コウモリですね」

「わぁ~キラキラしてますねぇ」

「……でも、ちょっと下品」


 はは、確かにね。黄金コウモリは文字通り全身が黄金で出来ているコウモリなんだけど、黄金であることを主張しすぎた様相は綺麗というのとはまた違うかなって気がする。


「いやいや! 黄金コウモリだぜ! 迷宮でも滅多にお目にかかれない超高価な黄金のコウモリ!」


 するとカトレアさんに続いてアッシュさんも指を黄金コウモリに向けながら、鼻息をあらくさせていた。う~ん……。


「確かにそう言われてみると貴重なものを見たかもしれないね」

「はい、きっとお兄様に幸運が舞い降りてくるかもしれません」

「……レアと聞くと有り難みがます」

「そうだろ? そうだろ?」

「はい。では、先を急ぎましょうか」

「「なんでだよ!」」


 カトレアさんとアッシュさんに同時に突っ込まれてしまった。え? なにか問題あったかな?


「いやいや狩ろうぜ! 黄金コウモリ!」

「え? でも、僕たちが向かっている方向とまるで反対側ですよ。それに黄金コウモリは別に好戦的な魔物でもないので無理して狩るより先を急いだほうが」

「いや、だからさぁ! あの黄金コウモリは――」

「どうどう……」


 どこか必死な様子のアッシュさんとカトレアさんの肩をフレイさんとアローさんが叩いた。


「諦めなさいな。今日は相手が悪かったよ」

「え? 相手?」

「考えてもみなって。大賢者マゼルは文字通り大賢者の名を恣にする英雄な上、伯爵家の嫡男。妹さんも伯爵家のご息女。アイラ嬢だってナムライ家のお嬢様さ。だから私たちと違って」

「そう、ガツガツしてないの」

「な、なんてこった……」

「はあああぁあ……」


 カトレアさんとアッシュさんの2人が地面に膝を付けてズドーンと重しが乗っているように項垂れた。え、と、そんなに大事なことだったのかな?


 とは言え、予定通り僕たちは先を急ぎ、地下5層までやってきた。ここにミスリルの鉱脈あるって話だったね。

 

 このあたりの壁はそういえば青白いね。通路もしっかりしてるよ。

 とりあえず鉱脈目指して歩いていくけど、しばらくするとガシャンガシャンという金属音が鳴り響いてきて、正面に数体の鎧騎士が出現した。


「出た! ミスリルナイト!」

「ミスリルで出来た鎧が意思を持って動き回ってるんだよなここ……」

「全身ミスリルだから頑丈な上、魔法耐性もあって厄介なのよね……」

「矢なんて当然通さないしね……」


 どうやら破角の牝牛の皆でもこのミスリルナイトには苦労してるんだね。う~ん、でもミスリルで出来てるんだし、それなら――


「えいッ!」

「「「「ほわッ!?」」」」


 地面を叩くと、ミスリルナイトの足下が崩壊して、そのまま意志を持った鎧が崩れた地面の中に沈んでいった。何か破角の牝牛の皆が変な声を上げていた気がしたけど。


「え~と、ミスリルって意外と強い圧に弱いから、こうやって地面を壊したりできれば砕けた地面に押しつぶされて簡単に倒せるんだよね」

「いや、それどこも簡単じゃねぇよ……」

「流石にアースクエイクは使えないわね……」

「え? アースクエイク?」

「アースクエイクでしょ?」


 いや、地面を叩いて崩壊させたってだけなんだけどね。


「は! 確かに大賢者マゼルともなればこの程度、アースクエイクなんか使わなくても余裕ってことなのね!」

「……つまりこれはアースクエイクではない、アースだ、ということね」

「さすがお兄様です。土魔法の基礎であるアースで最上級のアースクエイク級の威力を発動できるなんて。妹として誇らしく思います!」

「よくわかんないけど凄いなマゼル」

「もうなんでもありだよなぁ」

「今更だけどね」


 何か褒められてるのか呆れられてるのか、よくわからない状況だよ。そして、いつものことだけどそもそも魔法じゃないからね。敢えていうならそれはアースクエイクでもアースでもない、物理だ! といったところだよ。


「どうでもいいけど、これ、どうやって先に進めばいいんだ?」

「あ、ちょっとまってて」


 僕は砕けた地面を叩いて均して舗装した。うん、これでバッチリ。


「これで行けるよね?」

「大賢者どれだけだよ!」


 何か凄い叫ばれた。え~普通に直しただけなんだけどなぁ。


「でもやっぱりアースクエイクは私には無理よ。そもそも土魔法が使えないもの」

「う~ん、それなら……」


 歩きながらフレイさんと話していると、再びミスリルナイトがやってきたので、僕は壁の一部を引っこ抜いて・・・・・・、敵に向かって超高速で投げつけた。


 空気との摩擦で真っ赤になった壁の塊がミスリルナイトを次々貫通していく。うん、これで終わりっと。


「こんな感じで熱を加えた衝撃でもわりとあっさり――」

「それ今どうやったの!?」


 説明しようとしたら先ず驚かれたよ。


「は、まさかこれがかの有名な大賢者マゼルが得意としたというダンジョン加工魔法、それに灼熱魔法を組み合わせた合わせ技、つまり合成魔法なのでは!」

「よくわかんないけど、お前本当自分は火魔法しか使えないくせにやたら魔法の種類に詳しいな」


 カトレアさんが呆れたように言う。確かにフレイさんは知識あるよね。そももも大賢者と呼ばれてる僕が知らない魔法がポンポン飛び出てくるんだから。


「それにしてもミスリルってなんだっけってぐらいあっさりだな!」

「貫通した場所が融解してるし、中々えげつないわね……」

「あ、でもこれなら火魔法の範疇でフレイさんでも――」

「む~~~~~~り~~~~~~ィ!」


 目の前でバッテンを作りながら叫んじゃった。

 え~魔法なら簡単にできそうなんだけどな……。


「なぁマゼル。もっと現実的な方法ないのかよ?」

「う~ん、でも……」


 またミスリルナイトがやってきたので、僕はとりあえず頭を蹴っ飛ばした。兜が飛んでいったので、がらんどうになった中の小さな魔法陣を削る。すると意思を失った鎧が倒れて動かなくなったわけだけど。


「こんな感じで鎧の内側の術式を削れば動かなくなるんだけどこれは勿論知っているよね?」

「だからそういうのを早く言えよ!」


 これで良かったんだ……でもこのやり方は一体ずつ頭を外して削らないといけないし、結構手間だと思うんだけどなぁ。


 こうしてミスリルナイトは他の皆でも倒せるようになったんだけど、どうやらここの問題はこれだけじゃないらしいんだよね。


 というのも、ここは地下5層で丁度ミスリルの鉱脈があるところに、番人がいるみたいなんだ。


 何かとんでもない化物だって話だけど、さて、どんなのが出るかなと思いつつ、番人のいる部屋にはいったわけだけど、そこにいたのはミスリルタウロスという番人の魔物だった。


 この魔物は全身がミスリルで出来た人馬といった姿で、上半分は他の騎士みたいに鎧姿だ。


 手にはやっぱりミスリル製のポールアクス。それに魔力を乗せて斬撃を飛ばしてきたり、馬の機動力を活かして一気に距離を詰めて勢いの乗った斬撃を繰り出したりしてくる。


 だけど、つまるところその機動力を奪えばいいわけで、ここで役立ったのが空間投げだ。

 これは空間を掴んで空間ごと相手を投げる技だけど、上手く利用して空間ごと天地逆転させてミスリルタウロスを転ばせることに成功したんだ。


「よし! 今だよ皆で一斉攻撃で倒しちゃおう!」

「「「「「「…………」」」」」」

「え? え~と、皆、どうしたの?」

「「「「どうしたのじゃない! なにそれ!」」」」


 結局皆が驚いちゃって最初の攻撃はタイミング合わなかったけど二回目の空間投げで無事倒しミスリル鉱脈も採掘できるようになりました。


 そしてこれも空間操作魔法なんていう肝心の僕が知らない魔法として認識されたのだ。ただの物理なのに……。

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