第43話 魔力0の大賢者、なんでもすると言われてしまう
「俺は暗殺ギルドから入った依頼であんたの殺しを請け負っただけだ。他のことは一切知らねぇ」
結局、右腕を惜しんでこの暗殺者が吐いた情報がこれだった。う~ん、なんというかこれじゃあ結局何もわからないような。
「てめぇ! いい加減なこと抜かしてると両腕とも切り飛ばすぞ!」
「だから本当に何も知らないんだよ! 暗殺ギルドっていうのはそういうところだ!」
流石ムスタッシュはなんというかこういう役回りはすごく似合ってるな~。
「本当に知らないの?」
「しつこい奴ら、てかなんだこいつ子どもかよ。なんでこんなところに……」
「子どもだと思って舐めてんじゃねぇぞコラ! ここにおわす方はぐむぅ!?」
ムスタッシュにはそれ以上言わせず、口を閉じさせた。後はタルトさんが気がついて、奥に連れて行ったムスタッシュに説明している。
「ギルドというのはそんなに秘密主義なの?」
「当たり前だ。暗殺ギルドに限らず盗賊ギルドも含めた裏ギルドはそんなものだ」
「なら、その暗殺ギルドの場所を教えてよ」
「はは、これだからガキは。いいか? 暗殺ギルドの拠点なんて俺たち暗殺者だって知らないんだ。ギルドからは一方的に依頼の話が来るだけだし、依頼を受けたかどうかも直接あって答えたりはしない」
仕事の返事の仕方は毎回異なるようで、今回は花を飾る種類で何を受けたか知らせたらしい。そして請けると返事したら期限内に必ず実行しなければいけない。
とにかくギルドの拠点は絶対にわからないよう徹底されてるようだ。それにそもそも拠点があるかもわからない。裏ギルドはここといった拠点を持たないなんていうのは前世でもよくあったことだしね。
「てか、なんで俺はこんな子どもにこんなことを話しているんだ……」
「まぁいいじゃない。ところで貴方の魔法すごいよね。暗殺者とは言え本当にびっくりだよ。あんなに一杯の木偶を操れるんだから」
「うん? そうか? はは、まぁ俺ぐらい木偶を操る魔法をあつかえるのはそうはいないだろな」
「その上、皆を眠らせる魔法も使ったんでしょう? すごいよね~」
「……あ、あぁまあな」
気になってはいたけど、やっぱりこのことになると口が重たくなるね。
「もしかして違うの? それならちゃんと言ったほうがいいよ。眠らせる魔法を使ったと判断されたら計画的に思われて心象が悪いし罪も重くなるよ?」
「……それは冗談じゃないな。あぁそうだ。眠りの魔法は俺じゃない。それは事前の情報で予め眠らせておくという事になってたんだ」
「それは誰がやったの?」
「判らないな。その辺りもギルドを通してだから、お互いに正体を知らずにやることも往々にしてあるのさ」
嘘は言ってなさそうだな。というよりもこの人ごまかし方が下手だし。
「気絶した後に木偶が自動に動き出したのも凄かったよね」
「あぁ、まぁな」
「しかも木偶がある程度破壊されたら合体して巨大化するんだもん。あれはすごいと思ったな」
「え、きょ、巨大化?」
「……あれれ~? もしかしてお兄さん自分の使ったテロ魔法なのに知らないの?」
「て、テロ魔法? 冗談じゃない! 俺の仕事はあくまで暗殺だ! 今回の木偶は一通り仕事用に役立ててくれって送られてきたんだよ!」
「送られてきたってこの量が?」
「あぁ、確かに仕事の時は木偶だけど、送られてきた時はパーツでわかれてたからな。誰に見られることもなくこの近くまで運べたのもそれがあったからだ」
なるほどね。確かにそれなら完成品を持ち歩くよりは目立たない。
「ありがとうね暗殺者のお兄さん」
「あ、あぁ。て、なんでこんなガキにべらべら喋ってんだ俺……まぁいいや。とにかく眠り魔法は俺じゃないってことだけ頼むぞ!」
「判ったよ」
といってもそれぐらいでどのぐらい変わるかはわからないけどね。今回は未遂で終わったけど他に暗殺の記録があればより罪は重くなるだろうしなくても姫様を暗殺しようとしたんだから暫くは強制労働送りだろう。
さて、話を聞き終えた後は護衛騎士も含めて気を失っていた皆を起こしてあげた。ヒーゲ男爵にも事態が事態だから一旦起きてもらい事情を話し、緊急で冒険者ギルドも開けてもらって暗殺者を一旦引き渡した。
ここまでやったら僕の出番は終わりだ。領地も違うしね。後はギルドと領と、国も絡むのかな? とにかくそっちの判断に頼ろう。
ちなみに暗殺者を倒したのが本当は僕だということは主要な関係者には話してある。ただし表向きはムスタッシュがリーダーのヒゲ男ズの功績ということでムスタッシュもそう思ってくれているしね。
なぜこんなことをしたかと言えば今後の姫様の安全を考えてだ。この件をヒゲ男ズが解決したって話が広まってくれれば一度失敗した相手が護衛している馬車は狙いにくくなるだろう。トンネルのこともあるし、強力な護衛がついている上、安全なルートが確保されてるとあってはもう手も出せないと思う。
だから今回はあくまでヒゲ男ズの功績ってことにしてもらった。尤もこれがムスタッシュだけで解決した! みたいな言い方で仲間をないがしろにしていたらちょっと考えたかも知れないけどね。
それで調子に乗るようならどこかでボロが出るだろうし。でもムスタッシュは仲間がいたから解決できたって話していたし、実際仲間を大切に思っているようだった。だから決めた。
でも、以前に比べたら本当見違えたね。本当いい冒険者になったと思うよ。
それから僕は姫様に挨拶して家に戻ろうと思ったのだけど、少しだけ話がしたいと引き止められた。男爵家の庭で2人きりで話すことになる。
なんか少し緊張するよ。やっぱり姫様綺麗だしね。
「悪いな大賢者マゼルよ引き止めてしまい」
「いえ、むしろまたこうしてお話が出来るのですから光栄ですよ」
「ほう、なかなか世辞も上手になったではないか」
姫様が悪戯っぽい笑みを浮かべた。はは、姫様からすれば、まだまだ子どもな僕にそんなこと言われても嬉しくないよね。
「さて、わざわざこうして話をするのも、流石に何かお礼をしなければと思ってな」
「お礼ですか?」
「うむ、何せ大賢者マゼルにはさんざん助けになっている。魔物からも救ってもらい盗賊も撃退、更に今回の暗殺者だ。感謝してもしきれない恩が出来てしまったのだ」
「いえいえ、それは当然のことですし、そこまで気にしなくても」
「そうはいかん。恩を受けたまま返さないのでは私の気が収まらんのだ」
「う、う~ん、そう言われても……」
「……ふむ、本当ならば私がそなたの妻にでもなれればいいのだが」
「は、つ、妻~~~~~!」
ちょちょ! いきなりすぎるよ! 前世でも結婚したことなかったのに!
「と、言うてもマゼルはまだまだ幼いしな。流石に無理な話であろう。だから、何か好きなことを言ってみるが良い。私にできることなら何でも聞いてみせる」
う~ん、そう言われてもな~。特に見返りを期待していたわけでもないし。
気にしなくていいといいたいところだけど、姫様がここまで言っているのに何も願わないのは逆に失礼あたりそうだし……あ! そうだ!
「では僭越ながら一つだけご所望したいことが」
「おお! やはりあったか。よいぞ、申されてみよ」
「はい、では、今度行われる米対決の件なのですが」
「……むっ――」
あれ? 何か急に姫様が難しい顔をしだしたぞ。
「もしかしてあまり良くなかったですか?」
「……そんなことはない。なんでも聞くと言ったのだから好きなことを言ってみるといい」
う~ん、大丈夫かな? そんなに変なことではないと思うのだけど。
「はい、では。次の米対決の際にミラノ姫に審査をしていただきたいのです」
「……ほう。私に審査をか。しかしいいのか? 言っておくが私は確かに今回の件で米が好きになったが、その分審査は厳しく行くぞ。それでも――」
「はい! 勿論です! だからこそミラノ姫にお願いしたいのです!」
「……は?」
「え?」
あれ? 何か姫様が不思議そうな顔をしているぞ?
「もしかして、やはり審査は難しかったですか?」
「いや、そんなことはないが……厳しくても良いのか?」
「勿論です。むしろそうでなければ意味がありません」
「……その結果、ワグナー家の方が旨かったとしてもか?」
「はい。その時は当家の実力が足りなかったんだとしっかり受け止めて次にいかすだけです。何よりオムス公国の皆さんには一番美味しいお米を味わって頂きたいですから」
「そのためなら、例えマゼル側の米が選ばれなくても良いと?」
「はい。勝負は勝負ですし」
それにしても変わった質問だね。姫様もどうせ食べるなら美味しいお米の方がいいに決まってるだろうし。
「……プッ、ははは! これは参った。そうか、いや、本当に。見誤ってしまったのはどうやら私の方なようだ。いや本当に済まない、大賢者マゼルに対して失礼な話だったな」
「?」
今の会話で失礼になるようなことあったかな? 特に気になることはなかったんだけど。
「ふむ、しかしそれならば判った。ただし本当に容赦なくやらせてもらうぞ」
「勿論です!」
「うむ、ただ、叶うなら大賢者マゼルのより旨い米を食べたいところだ」
「はい! ならば僕もお約束しましょう。その際には今よりずっと美味しい米をご用意すると!」
「判った期待しているぞ!」
そして今度こそ僕は姫様やタルトさんと別れを告げて屋敷に戻った。すると家では父様が待ち構えていた。
あぁ、そういえば慌てていて何も告げずに出てたんだった……怒られるかな?
「それで大賢者マゼルよ。今度はどのような大義を成し遂げてきたのだ?」
「え?」
「お父様も私もお兄様の武勇伝が聞きたくてウズウズしていたのです」
「え~と、怒ってないの?」
「何を怒ることがあるものか。大賢者マゼルが動く時、それは何か事件が起こっている証拠であろう」
「うふふ、では話を聞く前にお紅茶でも淹れて参りますね」
母様もこんな感じだ。結局僕は皆に今夜起きたことを話すことになったけど、そのことでまたえらく称えられてしまった――
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