第27話 魔力0の大賢者、またも襲われる

 コボルトの群れを倒してから、やたらと騎士達が僕を持ち上げてきて困った。


 本当、別に精神魔法でもないし、でもコボルトが精神的に弱いのは確かだ。あれで結構臆病で不利と思うとすぐに尻尾を巻いて逃げ出したりするし。


 だから実力差がはっきりしていれば魔法なんてなくても威圧で十分なんだよね。強化魔法が使える騎士ならそれぐらいできそうなものなのに。


「え? 威圧で魔物をですか? はは、大賢者様はご冗談が上手い」


 だから騎士の長に聞いてみたんだけど、何かあっさり笑い飛ばされてしまった。あれれ~? そんなおかしなこと言ったかな~?


「コボルトの件、助けて頂き感謝の言葉もありません。そして我ら騎士として、大賢者様とお知り合いになれたこと本当に光栄に思います」


 改めて感謝の念を受ける。やはり騎士だけあってすごく礼儀正しい。


 だけど、直後表情を切り替えて姫様へ口を開いた。


「ですが、殿下……今後米の取引を我が国で考えておられるなら、懸念すべき点がございます」


 え? 懸念……騎士達は姫様の護衛で来ているわけだけど、姫様もまだまだ若いから、もしかしたらご意見番的な役目も担っているのかもね。


「うむ、それは何かな? タルト」


 


 姫様が意見を許可するとタルトさんが頭を上げた。この騎士は護衛できている騎士の中ではリーダーみたいな存在な為か顔も他の2人より貫禄ある感じ。名前はタルト・アーモンドと何か美味しそうな名前だったりするんだけどね。


「はい、ここに至るまでの道中、我々はかなりの魔物に襲われました。先程のコボルトの大群もそうでありますが、あまりに危険度が高いかと思われます。正直流通経路には向かないかと……」


「ふむ……」


 姫様も難しい顔をしているね。これに関してはお城でガーランド将軍に言われたことも響いているかもしれない。確かにローラン領からナムライ領に入るまでの道のりはこの山道ぐらいしかない。


 道としては決して便のいいものではないし、魔物もよく現れる。


 


「それに関しては……私の責任もあるかもしれないですな。申し訳ない」


 申し訳なさそうにしているこの人はヒーゲ男爵。頭のシルクハットとカイゼル髭が印象的で人が良さそうな顔をしているね。


 


 ヒーゲ男爵は僕たちがナムライ領に向かっている途中で立ち寄った町の領主だ。


 あの山賊のススメという山賊団に頭を悩まされていた男爵でもある。その山賊は僕たちが退治したわけだけどね。


「ヒーゲ男爵。それは貴方が気にしても仕方のないことだ。地形の問題である以上仕方がない」


 謝罪の言葉を口にするヒーゲ男爵を父様が慰めるとカイゼル髭をピクピクさせながら、そう言ってもらえると、と後頭部を摩り少しだけ表情が和んだ。


 父様の言う通り、道が大変なのは男爵のせいではないよね。確かにこの問題は地形的な部分が大きいのも確かであるけど。


 ヒーゲ・カッター男爵のカッター領は町が一つで村が2つといった規模の領地だ。周囲は山脈に囲まれていていわゆる盆地といった地形。


 そのため必然的に他の領地に行くには山道を抜けて行く必要があるのだけど、山脈は標高はそうでもないけど険阻な山が多い。


 その中でも比較的緩やかな地点を結んでいったのが今の山道なわけだけど、それでもやっぱりそれなりに険しいし、山には魔物が多く住み着く。


 とは言え出てくる魔物がさっきみたいなコボルト程度だから脅威度としてはそんなに高くないとは思う。キルバイパーなんかが出てきた時に皆が大げさに驚いてたけど、あれは多分姫様に危険を知らせるためだと思うし。


 ちなみにキルバイパーは即死性の高い毒を有した蛇の魔物だ。致死じゃなくて即死だからとりあえず噛まれたら死ぬ。尤も噛まれなきゃいいだけの話だし、即死の抗体さえあれば問題ないけどね。


 とにかくその程度の魔物ぐらいだからある程度護衛がしっかりしていれば問題ないんだろうけど、でも出てくる数が多いのは厄介と言えば厄介かな。魔物に出会う度に足取りが鈍るし、冒険者は大丈夫でも商人は精神がすり減っていくこともあるだろうからね。


「それでもこのあいだ大賢者様のお力で山賊は倒されましたから大分マシになったと言えますが」


「あの、僕に様はいりませんので」


 


 相手は男爵なわけだし、ただでさえ年下な僕に様がつくのもおかしな話だよ。


「滅相もない! 大賢者様のお力添えがあったからこそ山賊が退治されたわけですから」


 どうやらヒーゲ男爵は呼び方を変えるつもりはないらしい。うぅ、逆に申し訳ない気がするよ。


「とは言え、確かに道についてはこちらでも色々と手は考えてみます」


 ぐっと拳を握りしめて決意する男爵。頼もしいね。でも、道か……う~ん。


「しかし、大賢者マゼルはその年で山賊まで倒してしまうのだな」


「おう! 魔法が凄かったんだぜ!」


「姉御、お姫様の前なんですから口調」


「えぇ? でもあたしはそんな貴族向けの喋り方なんてしらねぇしなぁ」


「構わん構わん。むしろ私は形式張った喋り方の方が苦手だからな」


「ならよかった。今更口調かえらんねぇし」


「はぁ、だからって、少しは気をつけて欲しいけどね」


「アッシュの方が言葉遣いが丁重なぐらいだもんね」


「ちぇ、どうせあたいは賊より言葉遣いがなってませんよ」


 姉御さんが愚痴るように言うと、皆から笑い声が溢れた。タルトさんの話で真剣な空気になったけどそれも朗らかな空気に戻ったね。


「うむ、魔物に関しては私もヒーゲ男爵と相談しながら協力すべき点は協力していこう」


 そして後は父様が上手くまとめてくれた。米を運ぶ上ではヒーゲ男爵領は重要な場所だ。父様が協力を惜しまないというのも当然かも知れない。


「何はともあれ、賊に襲われる心配はなさそうですな」


「えぇ、それに関してはうちの大賢者マゼルが対応したので心配には及びませんぞ。あっはっは」


 父様が自信満々に答えるけど、ん? あれ? 何か嫌な予感がしたぞ? なんだろうこれ……気のせいかな?


 そして休憩も終わり、僕たちは領にむけて出発。それから暫くは穏やかな時間が過ぎていったんだけど。


『そこの馬車とまれーーーー!』


『俺たちは飛竜盗賊団!』


『お前たちの馬車の中にオムス公国の姫が乗っていることは判っている!』


『死にたくなければ金目のものと姫を置いていくんだな!』


 何か突如外からそんな声が聞こえてきた。うわぁ~嫌な予感が早速当たったよ。山賊を倒して安心だよねって話していたらこれだ。


「殿下は絶対に馬車から出てはいけませんぞ。ここは我らにお任せください」


 当然だけどタルトさんを含めた護衛騎士は要求を飲む気がないようだ。


 


『我々は賊になど屈しない! 貴様らこそ痛い目にあいたくなければおとなしく立ち去るのだな』


『上等だ。だったら逆にお前らからまずやってやるよ。てめぇらいけ!』


 そんなやり取りが馬車の外から聞こえた後、戦闘が始まる音が辺りに響き始める。


 声はかなり上の方から聞こえてきたし、飛竜と言うからにはやっぱりかなり強力な竜を使役している可能性が高いんだろうね。


 う~ん、それにしても盗賊が竜か。前世でも記憶にないパターンだな。いやレッサードラゴンやグリーンドラゴン程度ならなくはなかったけど、その程度の竜にのってるぐらいで飛竜盗賊団みたいな御大層な名前をつける盗賊なんていなかったからね。


 それが飛竜盗賊団だからね。少しだけ一体どんな竜に乗っているのか気になってしまう僕がいるわけで。


「ミラノ姫、少し様子を見てきても宜しいですか?」


 だから思い切って聞いてみた。姫様の回答を待つ。


「うむ、私からも丁度お願いしようと思っていたところだ。頼んでも良いか?」


「勿論です。あ、でも今回は危険かもしれないしラーサは姫様と待っててね」


「わかりました、お兄様お気をつけて!」


「私は出る! 大賢者様の魔法を見れる機会は一度たりとも逃したくないもの!」


 流石に竜とあってラーサも慎重だ。どんな竜かわからないもんね~。でもフレイさんはついてくる気満々みたい。まぁ彼女は護衛についてもらってる冒険者なわけだし断る理由がないか。


 僕に妙な期待を持つことだけはやめて欲しいところだけどね。


 


 そして僕は馬車を飛び出し、飛竜盗賊団というのがどんな相手で、どんな竜に乗っているのかドキドキしながらみてみたのだけど。


「……え? なんだあれ、ただのワイバーン?」

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