第12話 魔力0の大賢者、図書室で少女に会う

「こちらが図書室になります」

「うわ~父様の書斎よりずっと大きい~」


 そして本の数も多い。父様の蔵書数もかなりのものと思ったけどここはその数倍は優にあるね。見ているだけで嬉しくなってきてしまうよ。


「魔法関係の本もありますか?」

「はい、特に旦那様は魔法に関する造詣も深く、魔法関係の本は特に多いのです」

「すごいですねお兄様!」

「うん、そうだね」


 一緒に着いてきた妹のラーサが目をキラキラさせた。やっぱりラーサは魔法の才能に長けるだけにこういうのに目がないんだね。

 

 僕は魔法はてんでだけど本は好きだからやっぱりこういうのを見るとわくわくしてくるよ。


「何か必要な本があればおっしゃって頂ければお探しいたします。お父上からは大賢者マゼル様とご令嬢のラーサ様をよろしくとお申し付け頂いておりますので」

「あの、僕のことは普通にマゼルでいいので……」


 このメイドさんは僕たちの家についてくれてるから色々とお世話をしてくれるらしい。綺麗な人だし気配りもできるいいメイドさんだとは思うけど、大賢者と呼ばれるのはね。お父様だけでもむずかゆいのだし。


「わかりましたマゼル様」

 

 恭しく頭を下げてくれた。一つ一つの所作が様になるなぁ。さすが辺境伯お抱えのメイドさんだ。


「僕はこれとこれでいいかな。ラーサは決まった?」

「え~と、色々あって目移りしてしまって」

「そう、なら僕は先に読んでるよ。ラーサのことお願いしてもいい?」

「承知いたしました。お任せください」

「お兄様! すぐに探しておいつきますので!」

「いや、ゆっくりでも大丈夫だよ。時間はたっぷりあるし」


 何か急かしてももうしわけないしね。これだけ本があればその気持ちもわかるし。


 図書室には閲覧用の机と椅子が設置されていた。各席との間隔は十分に空いていてゆったりと読書を満喫することが出来る。僕が座る席には紅茶セットに焼菓子まで置かれている。


 円卓のある椅子に座って本を読み始める。僕は魔法が使えないけど知識としては興味あるからついつい読んでしまうんだよね。


「……それ、判るの?」


 読書を開始して読みふけっているとふとそんな声が耳に届いた。誰だろう? と顔を向けると見知らぬ少女が立っていた。


 洒落たボブカットの少女で、銀髪に銀瞳。背格好からみるに僕とそうかわらない年頃にも思えるけど、つり上がり気味の瞳と凛然とした面立ちで妙に大人っぽくも感じられた。


 着ている服は高級そうな錦糸であしらわれたドレスで、銀糸の刺繍が高級感を更に際立たせている。


 だけどだからといって嫌味な感じはしない。むしろ上品って感じかな。

 そんな美少女に声をかけられるなんて……正直信じられないな。前世で女の子からなんて声をかけられたこともなくていつもナイスが励ましてくれてたし。


 とは言え、こうやって話しかけてきてくれてるんだから答えないと。


「うん、本が好きで家でもいろいろ読んでたからね。でも、そんな大したものでもないかなって」

「……そんなことない。私と同年代でそれを理解できるの、殆どいない」


 そう、なのかな? 本は家でしか読まないし、町のみんなと本の話とかしないから気づかなかったけどそんなものなのだろうか?


「……そのワードナーの4次元魔法式なんて凄く難関」

「あぁ、でもこれは先にセルバンディの魔素における現象と創造の定義を知っておけばそこまで難しくもないよね」

「……それをちゃんと読んでるのが凄い」

 

 何か凄く感心されてしまった。


「……魔法は何が使えるの?」

「え、いやそんな。僕は魔法なんて使えないよ。本を読むのは趣味みたいなもんだし」

「……秘密主義?」


 いやいやなんでそうなるのか!


「本当、僕、魔法使えないから……」

「……それだけ魔法関係の本を読んでいて魔法が使えないなんてありえない。なんとなくわかる、きっとすごい魔法使う」


 ふふんっと鼻を膨らませて、ドヤ顔してるところ悪いのだけど、全く当たってないからその推測!


「……相席してもいい?」

「え? あ、うん別にいいよ」

 

 4人がけだからラーサが来ても余裕あるしね。


「……ありがとう」


 そう言って彼女は僕のすぐとなりに、え! 隣!?


「え~と、近くない?」

「……迷惑だった?」

「いや、全然そんなことはないけど」

「……良かった」


 どうやら本当にすぐとなりで読むつもりらしい。これどんな状況? あ、でも何かいい匂いが……。


「……私の名前はアイラ、あなたは?」

「え? あ、そうだね。僕はえ~と……ローランっていうんだよ。よろしくね」

「……ローラン……もしかしてローラン伯爵家の?」

「うん、知ってたんだね」

「……話には聞いてた」


 そっか~やっぱアイラも貴族なんだろうな。それからしばし本を読むのだけど。


「え~とアイラさんは何を読んでるの?」

「……アイラでいい。私もローランと呼んでいい?」

「え? うんそれは全然いいよ。え~とじゃあアイラは何を読んでるの?」

「……ん、大賢者マゼルの全て」

「ブフォオオォオ!」


 聞きながら紅茶を口に含んだけど、吹き出しちゃったよ! 大賢者、ここでも大賢者かよ!


「……大丈夫?」

「あ、うん大丈夫。ごめんね」


 背中を擦ってくれたよ。優しい子だよ。


「でも、アイラは大賢者に興味あるの?」

「……興味、違う? 尊敬、敬愛、信仰、私にとっての全て。人生のバイブル」

「そこまで!?」


 何か凄く熱のこもった瞳で語りだしたよ! 一体どんな顔して聞いていいのかわからないよ!


「……ローランは大賢者マゼル様のこと好き?」

「え? え~と……」


 何か覗き込むようにしてジ~っと見られてる……凄く照れる――いや、そもそもなんて答えればいいんだよ……その大賢者が僕なわけだしなぁ……。


「う、うん! 勿論! 僕も好きだよ!」


 いろいろ考えたけど、やっぱりこう答えておくのが無難か……自分のことを好きってナルシストっぽくなるけど……。


「……良かった、どんなところが、好き?」

「え、えぇと……」


 これは弱ったぞ。どんなところって……そう聞かれても、いや自分のことなんだけど、どうも残されてる記録は脚色が凄いし、あまりに気恥ずかしくて自分の本は結局最初に数冊読んだだけなんだよな……。


「ぜ、全部かな?」

「……全部?」


 小首をかしげて反問してくる美少女。その綺麗な目で見られてると凄く緊張してしまう。


「その、大賢者様ってほら、知識もあるし魔法も様々な属性を使いこなし、弱きを助け強きを挫くそんな人じゃない?」

「……ん!」


 何か力強く頷いて凄く食いついてきたけど、僕はもう何か恥ずかしくて死にそうです。


「それに、肉体的にも・・・・・半端なく強かったようだし、そういう心技体が優れているところに、あ、憧れちゃうな~」


 て、何言ってるんだ僕~~~~! 自分で自分のことを自画自賛したりして、恥ずかしい! 本当に恥ずかしい! 穴があったら入りたい!


「……凄い。私は大賢者様が肉体的に強いということまでは知らなかった」

「……え?」

「……貴方、私より大賢者様に詳しい」


 じ~と見つめながら僕が語る大賢者、つまり僕なんだけどね! その話に感心するアイラ。でも、本当は魔法なんて使えなくて肉体の方がまだ自信があったりするからね。


 とはいえ、これ以上話してると……。


「ちょ、いい加減にしてください!」


 僕が頭を悩ましてると、図書室の奥から妹の声が聞こえてきた。なんだろ? 何かを嫌がってるような感じだ。もしかしたら何か厄介事に巻き込まれたのかも!


「ごめん、ちょっと様子を見てくる。今の声、妹なんだ」

「……妹さん一緒だったんだね」

「うん、後で紹介するね」


 そして僕は声のする方へ急ぐ。でもちょっと助かったかも。あのまま僕について話してたらボロがでそうだったし……。

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