第11話 魔力0の大賢者、山賊に追い詰められる?

 山賊の頭が撒いた種によって生まれた触手で僕たち以外は動きが封じられてしまった。

 するとラーサが勇敢にも山賊に非難の言葉を浴びせる。


「こんなの卑怯です!」

「卑怯で結構。俺たちは山賊だ。どんな手を使おうと奪えるもん奪えればそれでいいのさ」


 全く悪びれてない。まぁ相手が山賊である以上確かに卑怯だなんだと言っても仕方ないことかもね。


「さて、どうする? 嬢ちゃん一人で俺の相手するかい?」

「ねぇ、僕たちだけ縛らなかったのはどうして?」

「あん? あほか優先順位ってのがあるだろうが。わざわざガキ2人を狙わなくても他の連中の動きを封じればどうとでもなる」

「そっか、だとしたら少し計算違いだったかもね」

 

 そういいながら僕は一歩前に出た。


「はは、きたきたーー! 大賢者マゼルの出陣だ!」

「これで勝てる!」

「お兄様が出たらもうお前なんかに勝ち目はないんですからね!」

「なさけないけどあたいらの仇討ってくれ!」

「大賢者の魔法をまた目にできるなんて!」


 何か期待感が凄いことになってるような……しかも一人僕の魔法に期待している人がいるし。魔法なんて一度も使ってないんだけどなぁ。


「なるほど、つまりそのガキがお前らの言う大賢者様ってことか。にわかには信じられないが、一応は万全を期しておくか。おらガキ!」

「な! しま!」

 

 すると、山賊の頭が父様の頭を引き上げ、その首に刃を当てた。悔しそうに父様が歯噛みする。


「お前はそこから動くな。詠唱も認めねぇ。おかしな真似を少しでも見せたらこの親父をぶっ殺す! いいか? 何もすんじゃねぇぞ!」

「そ、そんな、卑怯です!」

「うるせぇ! 何度も言わせんな! 山賊に卑怯もへったくれもないんだよ!」


 荒ぶってるなぁあの頭。むぐぐ、とラーサも悔しそうだ。うん、何もするなか……。


「息もしちゃだめなの?」

「あん?」

「だから、何もするなって深呼吸とかも駄目?」


 僕が問いかけると、頭は微妙そうな顔を見せて。


「いや、息ぐらいは好きにしろよ……なんかそういうところは本当ガキだな」


 呆れたように頭が言ったけどそこ重要なところだからね。


「うん、判った。じゃあ息するね。ふうぅうぅうぅううう~~」

「は?」

――ピキイィイイイィイイン!


「「「「「「え? か、頭が凍りついたぁあああぁあああああ!?」」」」」


 山賊が全員驚愕した。目の前で頭がカチンコチンになったらそりゃ驚くか。


「お、お兄様凄い! 凄いです!」

「おお! 流石大賢者マゼルだ! また一つ奇跡を起こしてくれたぞ!」

「これは、大賢者マゼルがこの世に広めたとされる氷属性! その中でも最上級に位置する魔法、パーマフロストではありませんかーーーー!」

「なるほど、あれがかの有名なパーマフロストですか」

「ふむ、しかし伝説級でないと少し物足りないな」


 いやいや、何で僕が伝説級の魔法を使える前提になってるのか。そもそもこれが最上級というのも氷魔法を広めたというのも初耳ですから!


 だいたいこれだってただ体温調整で体内の熱を全て一旦外に逃がした上で血流を操作して一気に絶対零度以下の絶対零度まで下げた上で、冷え冷えの息を吹きかけて凍らしたってだけで全然魔法じゃないし!


「でもこんなに騒がれてると魔法じゃないなんて言える雰囲気じゃないもんな……」

「お兄様何か言われましたか?」

「いや、なんでもないよ(ニッコリ)」


 ふぅ、つい笑顔でごまかしてしまった。ラーサの顔が赤いな。もしかして寒くしすぎて風邪に!? いや、でもあの頭以外には影響でないよう上手く調整したつもりなんだけどなぁ?


「ごめんねラーサ。もしかして寒かった?」

「とんでもありません! 今とっても熱いぐらいです!」


 うん? じゃあ逆に体温あがっただけで風邪じゃないってこと? よくわからないけど、とにかく先ず皆を助けようかな。


 僕は山賊以外の皆を次々解放していく。山賊に関しては自業自得だね。でも頭のおかげで縛る手間が省けて助かったかな。


 頭だけは氷漬けから解放した後、馬車に積んでたロープで雁字搦めにして仲間たちと一箇所にまとめることにした。


「ち、畜生、こ、米さえ奪えば、か、金になる筈だったのに(ガタガタガタガタガタガタガタ)」


 頭は凄い震えて歯をガチガチと鳴らしながらそんなことを呟いた。米を奪ってどこかに売り飛ばすつもりだったんだろうか?


「それにしてもあの氷をすぐに解氷するなんて……大賢者おそるべしね! 凄い魔法だわ!」

「当然です! お兄様は凄いのです」

「大賢者マゼルならば当然のことだな」


 フレイさんが感心したように口にして、妹がなんかドヤ顔で胸を張った。父様も鼻息荒くしてるし、でもそれ火を纏ったときと同じで摩擦熱で溶かしただけだから……。


「とりあえず近くの町で声はかけておくよ。間違いなく捕まるだろうけど、自分たちが犯した罪なんだからしっかり償ってね」


 恨めしそうな目で見てくる山賊だったけど、自業自得だからね。


 ふぅ、でもこれでこのあたりを通る商人も安心できるね。

 その後、山をおりた先の麓の町に立ち寄って山賊のことを伝えたら凄く感謝された上。


「いやいや、驚きました。山賊を退治したのがローラン卿でしたとは」

「いやいや、倒したのは我が息子、大賢者マゼルですよ」

「ほう、大賢者?」


 立ち寄った町はこのあたりの領主である男爵が居を構えるところでもあった。だから父様も挨拶し、僕の話が出た。

  

 男爵はあの山賊のすすめに悩まされていたらしいから子どもの僕にまで感謝されちゃったよ。


「ところで、実は私も今日は舞踏会に参加する予定だったのです。良ければご一緒させて頂いても?」

「勿論ですとも。一緒に向かいましょうぞ」


 そんなわけで男爵の馬車と合わせて3台で目的地へ向かう。そこから先はこれといった問題もなく、そして僕たちはいよいよナムライ辺境伯領に入り、午前中には目的地であるナムライ辺境伯の居城に到着した。






◇◆◇


「本日、ローラン伯爵家の皆様の身の回りのお世話を仰せ使いましたメイサでございます。どうぞよろしくお願いいたします」

「は、はい。よろしくお願いいたします」


 いかにもメイドといった風貌のメイサさんに会釈する。それにしてもさすが辺境伯だね。招待された人は賓客扱いでかなり大きい部屋が用意されていた。ベッドも僕たち家族の分がしっかり準備されている。


 御者には専用の部屋があてがわれるらしいけど、それもここほど豪華ではなくても下手な宿よりも立派なんだとか。


 ちなみに護衛してくれた破角の牝牛の皆は街で一旦別れることになった。帰りも護衛をお願いするけど冒険者は仕事でもなければこういう城にはこない。かたっ苦しいのは苦手なんだとか。


 街で宿をとって夜は酒場でお酒を飲んで燥ぐのが楽しみらしいね。ここまでの護衛料は支払ってるから懐に余裕も出来たと喜んでいたし。

 それにとうぜんこの領内の街にもギルドはあるから、丁度良さそうなのがあればそれも請けるつもりらしい、たくましいね。


「本日の舞踏会の開始時刻は午後5時からとなっております」

 

 部屋には振り子式の柱時計が掛けられていてそれで時刻がわかるようになっている。歯車に魔道具を組み合わせた一品らしい。


 時計はかなり高価でなかなか手がでないって人も多く、町では教会堂に設置されている時計と鐘を頼りに時刻を知る人も多い。鐘の音は広範囲に届くから時計のない村なんかはその音が頼りになる。


 でも、さすが辺境伯ともなると全ての部屋に一つずつ時計が用意されてるようだ。うちでも屋敷に一つあるだけだから格の違いがよくわかる。


「舞踏会の開始まで、衛兵が立っているような場所以外であれば城内はご自由に見て回っていただいてかまいません」


 良かった流石にずっと部屋の中じゃ時間を持て余すところだった。


「ここまでで何かご質問はございますか?」

「本が読める場所はありますか?」

「はい。城内には自由に閲覧のできる図書室が用意されております。ご案内いたしましょうか?」

「父様、行ってみてもいいですか?」

「あぁもちろんだ。私は色々と挨拶回りもあるし、大賢者マゼルのお披露目は舞踏会の時に大々的にやろうと思っているしな。行っておいで」

「ありがとうございます。それと大々的には勘弁してください」


 釘を刺したつもりだけど父様は聞いてる様子がない。こうなったら舞踏会の時に逃げ回るしかないな!

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